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第七話 父親の背中




第七話「父親の背中」







ハラン、アラナ、ノア、シンの四人が向かう次の目的地は北のカナンダール州だ、ミランダ州の隣の州だが、列車で三日はかかる。そしてアラナが産まれた土地でもある。




ハラン達は列車に乗っている途中だった。まだミランダ州にいるハラン達は宿を探す為に一度列車から降りた。






「あと一人で五人の選ばれし者が揃うんだな!」



突然大きな声で話しだすシンに三人は驚いた。



「ばか!シン、声がでかい!」



アラナは周囲を見渡して自分の口辺りに人差し指をたて眉を顰めながら小声で言った。



「え、バカ…?だ…?」



バカと言われたことにショックを隠せないシンを囲んでハラン、アラナ、ノアは誰にも聞かれないように再び小声で話し始める。



「はい、あと一人で揃います…けど、そのあと一人が厄介と言いますか…」


「…厄介?」



とハラン言う。



そしてノアは小さく頷くと、深刻そうな表情になる。



「その者が何者なのか、現在何処に住んでいるのか素性が不明なんです、わかっているのはただ…選ばれし者の一人だという事だけ…」


「おい、もうちょっとなんか手掛かりとかないのかよ?」



とシンは腕を組みながら言った。



「…特徴とか?」



と今度はハランが言った。



「特徴…」



そうノアは呟くと考える仕草をする。そして、突然何かを思い出したかのように目を丸くして言った。



「あ!確か…その者は心臓を狙っていて、自分を神の子と名乗っていたとか!」


「…神の子…!もしかして!」


「あぁ!俺の腹を殴ったあいつか!」



ハランとアラナは同時に、以前に迷いの森に入った時に神の子だと名乗る者に一度会った事を思い出す。



「二人とも会ったことあんのか?」



とシンは言った。



「あぁ、前に…殺されかけた…」



とアラナ苦い顔をして応えた。



「では、もう既に迷いの森でハランさんとアラナさんはその選ばれし者に会っているんですね…」



そうノアが言うと二人は頷く。



「ただ…」



そしてノアが言いかけたその時、突然誰かのお腹が鳴る音が聞こえた、三人は一斉にその音がした方へと振り向く。



「わりぃ…」



と申し訳なさそうにシンは謝った。



難しい話してると腹が減るんだよ…そうシンが言うと、はぁ?難しいところなんかあったか?とアラナは呆れた要素で話す。



「よし…腹空いたし飯にしよう!」



とハランが言うと四人は少し歩き、近くの路地を入って直ぐにある、レトロな雰囲気の喫茶店に入る。




店内に入るとジャズが流れていて照明が夕日色のどこか懐かしさを感じさせるような、そんな店だ。微かに珈琲豆のような匂いもしてハランにとってはそれが故郷のイチゴイチエと同じ匂いで、更に懐かしさ感じさせた。




四人は席に座り注文を済ませると、ノアは話の続きをし始めた。




「…おそらく彼は神の心臓を狙っています、理由はわからないですが…きっと、神の復活を願っているのではないかと…」


「確かに…あの日、あいつは心臓を探してた」



ハランはあの日の事を思い出しながら言った。



「でも、あの感じだと神を復活させる方法を細かくは知らないみたいだったな」



とアラナは言った。



「あぁ、幸いと言っても良いのか…」



「けど、五人の中の一人でも神を復活させたい奴がいれば駄目なんじゃねぇのか?」



シンは身を乗り出し言う。



「はい、このままだと神を復活させてしまいます…」


「じゃあ、そいつをどうやって説得させるんだ?なんか、やばそうな奴なんだろう?」



質問攻めのシンにハラン、アラナ、ノアの三人は言葉をつまらせる。



「それが…まだ…何も考えてないんだ…」



とハランは途切れ途切れに応えた。











沈黙が続く中、さっき頼んだ物が次々とテーブルの上に並べられていく。そして美味しそうな匂いが漂う中、いち早くそれに手をつけたのはシンだった。



「いただっきまーす!」



と勢いよく手を合わせ口に運ぶ、それを見たアラナとノアも食べ始める。



「ハランさん?冷めないうちに食べてしまいましょう!」



隣に座っているノアはハランの顔を覗き込むように優しい口調で言った。



「ふぉら!ふぁらんも…くおおぜ!」



と口一杯に食べ物を入れて喋るシンの言葉は聞き取りづらかった。ハランが苦笑いしていると、向かいの席に座るアラナが言った。



「どうするか考えたって…俺達はやるべき事をやるだけだけど、まぁ…とりあえず今は!食べよう!な?」



とアラナはハランにスプーンを渡す、それを受け取ったハランは頷くと、両手を合わせ…いただきます、と言った。




カレーのスパイスの香りがして、ハランはゼンが作ってくれた大好物だったカレーライスを思い出した。




もし二度と故郷に帰ることができなかったら、もうあのカレーは食べれなくなる…そしてもう、みんなにも会えなくなるのか…。




ハランは正直、不安だった。今までは幸運と言うべきか、難なくここまで来れたと思う。だけどいずれは現れると思っていた反対する者が、その時にどうすればいいかなんて正直わからなかった。




そして彼は合意できなかったら、きっと俺達を容赦なく殺すだろう、ただでさえアラナが殺されかけた。

話し合いじゃすまなかったら、もしみんなの身に何かあったら、そんなことを考えるとハランは気が気じゃなかった。













四人は腹も満ちて店から出るところだった、いかにも出待ちしていたかのように、ふとノアの前にその者は現れた。



「ノア王子…待ってました」



従者のサイラスは膝をつき顔を上げた。



「…サイラス?どうしてここに…」



そうノアが言うとサイラスは四人を人気の少ない所まで連れて来た、サイラスは深刻そうな表情でなかなか喋りだそうとしない。




そんな様子を見た四人は不安な表情でサイラスが喋りだすのを待っていた。






そうしてやっと重い口を開けたサイラスは言った。



「ノア王子、落ち着いて聞いてください…」



ノアはごくりと唾を呑むと頷いた。



「先日、王様が突然意識を失い倒れられました…」



「…な、なんだと!父上が?」



「昨夜、意識が戻られて今は安静にしているのですが…直ちに国にお戻りになられた方が良いかと…」



とサイラスはノアの様子を伺うように顔を見る。




ノアは少し考えると、背後にいるハラン達の方を見た。



「おい、帰らなくて良いのか?王様が倒れたんじゃねぇのか?」



とシンは焦った表情で言った。



「…はい」



「なら、ノア一旦帰ろう」



ハランは、どことなく迷いを感じる返事のノアに言った。



「で、でも…!でしたら三人方は先に行ってて下さい!僕も父上の様子を見たら直ぐに追いつきますので…!」



とノアは困った表情で首を思い切り横に振る。



「そういうわけにはいかねぇだろう?俺達も一緒に帰るぜ!」



シンはノアの肩に手を回し言った。



「俺も!ちょうどセデラルの様子も見たいなって思ってたところだし、な?ハラン!」


「あぁ、少し寄り道したって平気さ!それになにより俺達も王様が心配だ」



アラナとハランは微笑んで言った。



「そんな、急いでいるのに…迷惑かけられ…!」



そう慌てて言いかけたノアに遮るようにハランは言葉を重ねた。



「確かにレオンの命も大事だ、けど…それと同じくらい仲間のことも大事なんだ、だからノア、一緒に帰ろう!」


「…はい、ありがとうございます!」



ノアは少し潤んだ瞳を拭い、微笑んで言った。














一晩が経ちサイラス、ノア、ハラン、アラナ、シンの五人はハヌル州に戻って来た。そして王都に着くと急いで城の中に入り、ゼン・クリスダル王が居る部屋へと案内された。



大きな扉の前でサイラスが言った。



「王様!只今、戻りました!」


「入れ…!」



そう聞こえた返事は何時もよりどこか弱々しい気がした。サイラスはノアを先に中に入れるとノアにつづきハラン、アラナ、シンも後から中に入った。



「父上…!」



ベットの上で横になっているゼンの姿を見てノアは駆け寄り心配そうな表情で言った。



「体調は、大丈夫なんですか!」


「…大した事はない、サイラスわざわざ呼んだのか?」


「…はい、勝手だとは承知の上でノア王子には知らせた方が良いかと…」


「余計な事を…」



とセンは溜息を吐く。



「父上、倒られた原因は何なのですか?」



センは話したくないのか黙り込む。



「父上…!」



「疲労だよ、もう俺達も若くないのに頑張っちゃってさ!」


そしてセンの代わりに言った者の声がした方へ振り向くと扉から入って来たのはエドワードだった。



「父さん?!」



父親のエドワードが突然入って来たことにアラナは驚いた。



「…貴様、何しに来た?」


「何って?見舞いだよ!古くからの戦友の!」


「見舞いに来るほどの事ではない、貴様らは大袈裟だ」


「もう、嬉しいくせに照れちゃってー」



とエドワードは手を振り、おちゃらけてみせた。




するとセンは今度は大きな溜息を吐いた。




そして、親子水入らず何か話すこともあると思ったエドワードはセンとノア以外の人達を部屋の外に出した。








二人だけになった部屋は静かさと張り詰めた空気が流れていた。




そんな空気を破るべくノアが口を開いた。



「…倒れたって、聞いたので驚きました…父上はこれまでそんな事なかったのに…凄く、凄く心配しました…!」



とノアは自分の両手をぎゅっと握りしめる。



「…老いは誰にでもくる、以前よりも己の体力が追いついていけてなかった、それだけだ」



心配するな、とセンは言うと窓の方を見てそれ以上何も言わなかった。



そして、そんなセンの様子を見たノアは言った。



「…どうか、ご無理はしないでください」



そして一礼をすると、ノアは部屋を後にした。




ノアはセンの逞しい背中を見てきた、王として誇りを持っているセンに憧れを抱き、自分もいずれ、そうなれるようセンを見てきた。




だが今はその背中さえも少し自分よりも一回り小さくなった気がして、ノアの心が痛んだ。












ハラン、アラナ、シン、エドワードの四人は城の外に出ていた。



「アラナ、ハラン!また大きくなったんじゃないのかー?」



とエドワードは二人の頭を容赦なく撫でる。



痛い、痛い、痛い!と二人は恥ずかしいそうにエドワードの手を振り払う。




そんな戯れ合う三人の様子を見ていたシンにエドワードが気づいた。



「お前が、火の選ばれし者だな!」


「は、はい!」


「てことは、カルミアの息子!赤髪だし!」



とシンの髪の毛を指差す。



「はい!母さんのこと知ってるんですか?」


「知ってるも何も、俺も選ばれし者だったからな、今は息子のアラナが引き継いだってわけ!」


「母さんはどんな旅をして来たんですか?元気にしてましたか?どんな物食べて…!あ、俺…あんまり一緒にいる時間が少なかったから…」



とシンは旅に出ていたカルミアの事を知りたくて、がっつき過ぎている自分に気づき我にかえる。




そんなシンにエドワードは最初は驚いたが直ぐに笑顔になって言った。



「カルミアは元気な人だったよ!男より男前で、弱音吐くことなかった!そしてなにより優しい!旅の話は…今すると長くなるから今度な!」




そんな話を聞いてるシンの目はキラキラ輝いていた。




すると横にいたアラナが口を挟んだ。



「シンって敬語話せたんだな」


「はぁ?目上の人には敬語が当たり前だろ?」



とシンは馬鹿にしてるのかと言わんばかりの迫力で言った。



そして、アラナお前が言うなとエドワードはアラナの肩を叩くと言った。




それにハランとシンは激しく頷いた。





そうして、ノアと合流したハラン達は一度セデラルに帰ることにした。



セデラルに着くとゼンと愛犬のルゥが暖かく迎えてくれた、そして久しぶりのイチゴイチエに来たハランは懐かしさに感動した。



「全然、変わってない」



ハランは嬉しそうに言うと、それは当たり前だとゼンも微笑む。












夜も更けて、ノアはみんなの前に立つと言った。



「皆さん、今日は本当申し訳ないです…!父上の為に…!」


「ノア顔上げて、良かったじゃないかセンの様子を見れたんだから、病気とかじゃなかったのは幸いだよ!」



とエドワードは微笑みながら言った。



「はい…!」



そして、酒を飲み良い感じに酔ったシンはふらふらしながらも突然ノアの前に立つと言った。



「おい!ノア!俺はこの四人の中で年長者だから言っとく!」


「は、はい!?」


「お前、次期王様になるんじゃねぇのか!

だったら、そうやってぺこぺこ直ぐ謝るのやめろ!堂々としろ!わかったか!」



シンの迫力にノアは呆然とする。



「返事は!」


「…あ、は、はい!ありがたきお言葉ありがとうございます?」


「よし!」



それを聞いていたハランとアラナは二人の後ろで、くすくす微笑んでいた。



「シン、もう飲むのやめろ」



とゼンはシンから酒を取り上げようとするが振り払われる。



「おい!そこの二人!」



と指差されたハランとアラナは驚いた表情をした。



「ハラン!お前は自分が犠牲になればぜんぶ!済むと思ってんのか?だったら、まぢがってるかんなー!」


「い、いや思ってはないけど…」


「そしてアラナ!」


「はぁ、俺?」


「そう!お前だ!お、ま、え!お前はもっと年上を敬えー!生意気なんだよー!」


「…うざ!」



なんだとー!とシンはアラナの胸倉を掴みながらアラナを激しく揺らす。




それを横目に見ているエドワードは大爆笑していた、というかエドワードも少し酔っている。




するとゼン、ハラン、ノアの三人は慌てて止めにはいるが、シンはそのまま電池が切れたようにアラナに体を預けたまま動かなくなって寝てしまった、大きないびきをかいて。




そして呆れた顔をしたアラナは、酒くさ…と呟いた。





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