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第六話 宿命



第六話「宿命」






「それは…」


「それは…なんだよ?」


そう言いかけて下を向くハランにシンは聞いた。


「…俺達の目的は神を復活させる事じゃない」


「は…?」


「俺にはレオンという弟がいるんだ、レオンは生まれつき心臓が良くなくて、心臓の病気を患っている、医師からはいつ死んでもおかしくない状態だって宣告された…」


シンはそれを聞いて何も言えないまま、ハランを見つめる。



「俺達の故郷、セデラルの迷いの森にある湖に神の心臓が封印されていることが、心臓を狙っている者に知られているんだ…」


「湖に…?」


「あぁ、その者から神の心臓を守るには、湖に行って神に選ばれし五人の魂を集めその封印を解く、そして神の心臓の封印場所をレオンの体に移す」


「なんだよそれ…そんな事が可能なのかよ?」


「神の心臓を奪われずに、レオンの命を守るには今はそれに縋るしかない、だからその為にはどうしてもシンが必要なんだ…!」


「ちょっと待てよ…!俺は神を復活させて、またルルド村を作りてぇんだよ!」


「ルルド村は、俺達も協力する」


「…協力って、神は復活さないんだろ?」


ハランは申し訳なさそうに、ゆっくり頷く。


「ごめん…神の力は頼らない、俺達の力でルルド村を作り直そう」





沈黙が続く中、シンが話し始めた。







「…お前の弟には、そんなに価値があんのか?神の心臓を与える程、生きる価値があんのかよ?」



「お前、それ以上言ったら…!」


とアラナはシンの胸ぐらを掴む。


「だって、そうじゃねぇか!そいつ一人の為にこれからどれだけの奴が犠牲になるか!困っている奴はそいつだけじゃねぇ!神を復活させれば困っている奴等を救えるんだぞ!」


「いいから、黙れ…!」


アラナさん、シンさんやめて下さい!


ノアは、咄嗟にそれを止める為に二人の間に割って入るが、それでもアラナとシンは睨み合う。


するとハランは儚げな声で話し始める。


「…分かってる、レオンを救うことで犠牲になる人がいるってことは…俺にも、これが正しいのかどうなのか、正直分からないんだ…でも…」


そう言うとハランは右手の掌を見て、強く握りしめる。


「ただ…言えるのは、価値があるとか無いとか、そういうのじゃない…ただ、生きていて欲しい、俺はレオンに生きていて欲しいんだよ!レオンがまた笑って生きていける為なら、俺は何だってする!」


するとハランは、だからレオンの為にシンにも協力して欲しいお願いします…!と言うと深く頭を下げる。



「ハランさん?」


「ハラン…」


頭を深く下げてお願いするハランに、ノアとアラナは一瞬驚いたが、二人も頭を下げる。







再び長い沈黙が続く中、シンは言った。







「悪い…俺も言い過ぎた…」


と呟いたシンの意外な言葉に、三人は思わず呆然とした表情になる。


「…なん、だよ?その顔は!」


「いや、意外で…」


「は?」


「いや、謝られるとは思ってなくて…」


とハランは言った。


すると、シンは照れ臭そうにぼそぼそと話す。


「…俺も分かるから、大切な人を失う気持ち…大切な人を失っていく親父の姿…もう、あんな顔を見たくねぇ…!」











店内にほのかに広がる花の香りに、シンは数秒目を瞑り深呼吸をした。

すると店の花を並べるハモンドは、シンの気配を感じたのか、シンの顔は見ずに言った。



「シン、そこにある向日葵と薔薇を表に出してきてくれ」


「親父、俺…」


「何、突っ立ってんだ早くしろ」



ハモンドはシンに背中を向けたまま言う。



「親父、聞いてくれ!俺は、ルルド村をまた作り直す!そんで、この街を出てあいつらと一緒に旅に出る!あいつらから俺が選ばれし者の一人だって事は聞いた、母さんから受け継いだこの力を俺が使えるのなら…少しでも償えるなら…!」


「…ルルド村をまた作る?」


「あぁ、ルルド村は見捨てない!また村を作り直す、だから!」



すると、ハモンドは作業していた手を止めては大きな溜息をして呟いた。



「…宿命、か…」



そして、ずっとシンに背中を向けていたハモンドは振り向く。



「カルミアが、ルルド村に帰還した時は驚いた、弱りきった体でやっとの思いで家に帰って来たのかと思うと胸が苦しくなった…体が弱っていた所為か、カルミアは流行り病にかかって、そのまま逝ってしまった…俺よりも先に…」



ハモンドは眉間に皺を寄せて悲しそうに言う。



「どうして、カルミアが…どうして…こんなめに、世界の為にそんな事しないといけないのか…?何度も何度も宿命っていうやつを憎んだ…!だからシン、お前にもそうなって欲しくなかった…カルミアみたいに辛い思いをさせたくなかった…だから、お前にはずっと黙っていたんだ」


「親父…」



どうしても、それは避けられないな…そう言うとハモンドはゆっくりシンに近づき、シンの頭を引き寄せては強く頭を撫でる。



「…言って来い、ルルド村は俺に任せろシン…!」


「…けど!一人じゃ無理だろ?」


「頭下げて、街の人達にも協力してもらう、だから心配すんな」


「親父…」



涙ぐむハモンドにシンはつられて涙を流す。




















「さぁ、どうするよ?ここで待ってろって言われたけど、来ると思う赤髪?」



アラナは両腕を組んで言った。



「でも、先程の流れだと協力してくれると言う話だと…違いますかハランさん?」



とノアは隣にいるハランに聞く。



「あぁ、来るよ!シンは来る!」


…というか来て欲しい、とハランは自分に言い聞かせるように苦笑いをする。




そして少しずつ沈む夕日がハラン、アラナ、ノアの三人の影をつくる。



…にしても遅い、とアラナは呟いた。



「もう少し待とう」



ハランは苛立ち始めてるアラナに言った。



するともう一つの影が三人に重なり、それに気づいたハラン達は夕日が沈む方へと振り向く。



「シン!」



ハランは名前を呼ぶ。




「…遅くなった、これを返して…!貰いに行ったから…!」



急いで走って来たのか、シンは両手を両膝におき肩を大きく揺らしながら息を荒くして言った。


そして、シンは下を向いていた顔を上げて右の腕を見せた、そこには腕輪をはめて少し苦しそうに微笑むシンの顔が見えた。



「シンさん、顔ぼろぼろじゃないですか!」



ノアはシンに近づき言った。



「ザックスっておじさんにやられたのか?」



ハランは口が切れて思い切り殴られたのが分かるくらい痛そうなシンの顔を見て言った。



「大丈夫なのかよ…」



アラナが言った。



「あぁ、めちゃくちゃ殴られた…けど、これで良いんだ、きっと許してはくれない、俺も許してほしいなんて思ってねぇ…一生かけて償うつもりでいるから…」









すると突然、背後から足音が聞こえた四人は振り向く。



「やっぱり、こう並んでるのを見ると…まるで、あいつらを見てみるみたいだな…」



「親父!」


「ハモンドさん」


ハモンドは、ハラン、アラナ、ノア、シンと並ぶ四人の後ろ姿を見て言った。



「シン、絶対生きて帰って来い!俺はルルド村でお前の帰りを待ってるからな!」


「あぁ、行ってくる!」



とシンは笑顔で言った。



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