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第五話 カルミアの花



第五話 「カルミアの花」







「あいつ、やっぱり…!」


「まさか、ハモンド・ナータリーがあの人だったとは…」


「聞きに行きましょう!」







アラナ、ハラン、ノアの三人はそう言うと、さっき荒れ地と化していたルルド村で見かけた。


高身長で丸刈りの強面な男がシンの父親であり、捜しているカルミアの夫だという事が分かった。


三人はハモンドに近づいて行くと、人が来た気配を感じたのかハモンドは言った。


「いらっしゃ、い…」


すると三人の顔を見ると、ハモンドは言葉をつまらせた。


そして「…君達、か」と呟く。


「おじさんさぁ、赤髪の女の人のこと知ってる?ていうか知ってるよね?」


アラナは、応える隙を与えないくらいの早さで言った。


「…あ?」


とハモンドの眉間に皺がよる。


「アラナさん、もっと丁寧に…!」


とノアはアラナの生意気な態度に、ハモンドが怒り出すのではないかと、顔色を伺いながら小声で話す。


「ハモンド・ナータリーさんですよね?俺達は市場で果物を売っている、バーバラさんに話を聞いてここに来たんです」


とハランが話し出す。


「バーバラか…」


何を聞いた?とハモンドは問う。


「赤髪の女性の名はカルミアさんで、貴方の妻だと…そして、もうこの世には、いないと聞きました」


「あぁ、それが事実だ…それ以上君達に話すことは、何もない」


すると店を閉めようと片付け始めるハモンドに、ノアが言った。


「ちょっと、待って下さい…!まだ、僕達の話を聞いてください!」


そしてノアの言葉も聞かずに、片付ける手を止めないハモンドに今度はハランが言った。


「カルミアさんは…!」 


久しぶりにカルミアの名を耳にして、驚いたのかハモンドの動きが止まった。


そしてハモンドと目が合うと、ハランはゆっくりと話し始める。


「カルミアさんは選ばれし者の一人です、俺達と同じ神の魂が宿っていて、俺達にはカルミアさんの力が必要なんです!」


「だから勧誘して来たと…?もう、この世にいない者を?」


「それは…!」











「…やめろ!離せ!」


すると背後から突然、声が聞こえた。


「赤髪!」


そうアラナが指差すと、そこにはさっき会った小太りのおじさんと赤髪の青年がいた。


「ザックス、悪いがシンを離してやってくれ」


ハモンドはザックスに両手を拘束されている、シンと呼ばれた赤髪の青年を助ける。


「ハモンド!こいつは、またあれを盗みやがったんだ!これで何度目だ?また同じ事を繰り返すつもりか?いったいどういう教育をしてやがる!」


「悪い、ザックス…言い聞かせる」


また、それか…呆れたように言うザックスは肩で思い切り溜息を吐く。ザックスが言うあれとは、神の魂に選ばれし者達だけが持てる、腕輪の事だ。


「なんでだよ、親父!あれは母さんの唯一の形見じゃねぇか!」


「…シン、あれの力で村はどうなったか忘れてねぇだろうな?」


ハモンドがそう言うと、シンは俯向きながら黙り込んだ。


すると、ザックスはシンの目の前で人差し指を立てると、眉間にしわを寄せて目を大きく見開き、強い口調で忠告した。


「いいか、もう二度と盗むんじゃないぞ?次はないと思え!」


そう言い放つとザックスは、その場を去って行った。







そして下を向いたまま動かない、シンは話し出す。


「本当は…親父も分かってるだろ?あの腕輪の所為じゃなくって、俺の所為だって!」


「シン、お前はまだ小さかった…」


「けど、俺が…!あの時、あれを母さんから奪わなければ、村は焼けずに済んだ…!」


「シン…」


「親父は…!そう言って、ルルド村がこのままでも良いってのかよ!あれさえあれば、神を復活させる事だって出来るんだぜ!」


「シン!あれは神に選ばれた者しか使う事は許されない、お前には無理だ!」


「なんだよ、それ…神に選ばれし者って…何?」


「お前には関係ない」


「何でそうなんだよ!この、くそ親父!」


そして、シンは罵声を上げては何処かに走って行ってしまった。








「過去に何が、あったんですか…?」


とノアは聞いた。


「お前らも、神の魂が宿ってるなら分かるだろ、力がどんなものなのか…」


「はい…」


ハランは過去に自分でも制御出来なかった風の力を目の当たりにしていた事を思い出し、頷いた。


「あいつは、ガキの頃から好奇心が強くて、手が焼けるほどだった…いつからか、シンはカルミアの持つ、それに…」


とハモンドはハラン達が腕に着けている、腕輪を指して言った。


「その腕輪を見た時から何かを感じたのか、その力がシンを呼んでいるのか…あいつは妙に腕輪に興味を示した」


「まだ五歳だったシンは、あの日寝室で眠っているカルミアから腕輪を持ち出しだ、シンの魂と神の魂が反応し、力の加減さえも制御できないシンはその場で気絶していた、そして瞬く間にルルド村は火に包まれた」


「そんな…!」


「ルルド村の人々には幸い危害はなかったが、その日にルルド村はなくなった…」


「その事があってから、俺とシンはこの街の人達に危険人物だと警戒され、シンは自分で自分を責め続けてる…だが、シンはその力からは逃れられない」


そしてハモンドは遠くを見つめ、話を続ける。


「お前らは知っているか?例え、神の魂を受け継がれし者の子孫が何人かいたとしても、魂を受け継がれる者は一人しかいない、それが選ばれし者だ」



確かに、俺には風を操る力が使えて、レオンには力が使えない…つまり、レオンには神の魂が宿っていないのか…?ハモンドの言葉にハランはそう思った。



「あいつには自分がカルミアと同じ力を使える事も神の魂が宿っている事も何も話していない…あの時、腕輪はシンだから反応したんだ、だから俺は確信した、あいつもカルミアと同じ、火の魂を受け継がれし者だと」


「…だから火の力が…けど、何故シンさんには話さないのですか?」


ノアが問う。


「あいつには苦労して欲しくない、カルミアみたいになって欲しくないんだ、神の魂を受け継がれし者?火の使い?勇者?…ふざけんじゃねぇ、あいつはこのまま何も知らない方が幸せなんだよ」



「けど、良いんですか?村がこのままでも…」


「ルルド村は俺が建て直す、神の力には頼らねぇ…悪いが、お前らが何の為に受け継がれし者を探してるのか知らねぇが、協力はしてやれない…帰りな」


















ハラン達は広場を離れ、来た道を戻っていると、ノアが言った。


「ハランさん、五つの神の魂が集まらなければ、弟さんは…」


「あぁ、わかってる…でももし、俺がハモンドさんの立場だったらって考えると、シンを無理矢理連れて行く事は、できない…」


「ハランさん…」








そして途方に暮れるハランに、アラナは言った。


「おい、ハラン!お前の決意はそんなもんなのかよ!あの日、誓ったんじゃないのか?レオンを助けるって!」


「あぁ、誓った…」


「だったら、このまま引き下がって良いのかよ!」


「……」







ハランは自分の唇を噛むと両手を強く握った。


そして、少し強い風が吹く。


その風によって辺り一面の花が揺れ、いつの間にか三人は知らない場所に来ていた事に気づく。そして、そこ一面に白いカルミアの花が咲いていた。










「…連れて行くって、俺を?何処にだ?」





そして背後から物音がしたかと思えば、声が聞こえた。


「シン!」


「シンさん!」



「…それに五つの神の魂って、あの伝説の?いったいお前らは何しにこの村に来たんだ?」



突然の事に驚きを隠せないハラン、アラナ、ノアの三人は何とか誤魔化そうと説明をする。


「えっと、それは…ですね」


「俺達は…」


そしてノアとハランが、あたふたしていると、ハランの横から大きなため息が聞こえたかと思えば、もう…面倒くさい…そう呟いたアラナは諦めたのか話し出す。




「簡潔に言うと、俺達は選ばれし者だ!」



「は?」


シンは口を開けて唖然とした。だが、そんなの構わずにアラナは話し続ける。


「ハランは風の力、ノアは地の力、俺は雷の力、そしてお前は火の力が…つまり、俺達には神の魂が宿ってるんだよ」



「アラナさん、それは秘密だとハモンドさんが…!」


とノアは慌ててアラナを止める。


「いずれ、こいつは知るよ、てか知らないといけない」


「でも、勝手に…」


「まぁ、聞かれちゃったし今さら誤魔化せないだろ?」



「…だから、俺はあの時ルルド村を…燃やした…?全部…やっぱり、俺の所為…」


シンは蚊の鳴くような声で呟くと、余りの絶望感で倒れるように手と膝を地面につく。



「お前の母さんが、そうだったようにお前にも力がある、だから俺達にはお前の力が必要なんだ、その為にここに来たんだよ」


とアラナは言った。


「じゃあ、なんで親父はこの事を秘密にしてんだ…?」


「それは、シンさんを守りたかったからだと思います、逆らえない宿命から…」



「そんなこと…!守ったって、俺がやった事には変わらないじゃねぇか…!」




「あぁ、確かに…もう起きてしまった事は消せない、過ちは消せない…だから悔やむ事も仕方ないけど、その力を悪い方にも良い方にも使えるのはシン次第だ…」


そしてハランは、ゆっくりと歩き出す。


「…だから、これからその力で償う事もできる」


ハランは少しづつ、シンの側に近づく。


「いつまでも悔やむだけじゃ…ずっと何も変わらないままだろ?」


そう言うと、ハランは地面に手をつくシンに手を差し伸べる


「…偉そうだけど、少なくとも俺はそう思ってるよ」


と言いハランは照れ臭そうに微笑む。


そしてシンは顔を上げると、ハランから差し伸べられた手をとる。




「本当に…俺の、この力で償う事はできんのか…?」


するとハランは頷く。


「じゃあ、神を復活させる事もできんのか?」



「それは…」


とハランは言葉に詰まる。





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