第三話 特別な子
第三話「特別な子」
再び列車に乗り込む、ハランとアラナとノアの三人は次の目的地、ミランダ州に向かう。
座席に座ると、ハランは動き出した列車から、変わりゆく景色を眺めていた。
そして何時間か過ぎた頃、隣に座るアラナが呟いた。
「…腹減った…」
それを聞いたハランの向側に座るノアが言った。
「え?城を出る前に食べたばかりですよ⁈」
「あれからもう一時間以上は経ってる、腹が空きすぎて死にそうだ!」
ハランとノアは、腹を抱えて唸るアラナの様子を見て、呆れながらも微笑んだ。
「なら、はい!これ食べて下さい!ゼンさんがお腹空いたら食べろと、焼いてくれていたパンです。あと、林檎もあります」
「お?やったー!」
ハランさんもどうぞ、とノアは荷物の中から取り出したパンと林檎を渡すが、俺は腹空いてないから、とハランは軽く断った。
そして、ノアから視線を外し、再び窓から外の景色を見ていると、さっきセン王から言われた事を思い出していた。
「ハラン、いいな?落ち着いて聞け」
ハランは今からセンが話す事に耳を傾けて深くゆっくり頷く。
「お前らが、これからやる事はそう簡単な事じゃないのは分かるか?」
「はい!」
三人は、ほぼ同じに返事をした。
「神の魂が、ただ五つ集まれば良いわけではない、五つの魂が一つになるよう五人の想いが一つではないといけないと言う事だ」
「一つになるには神の復活を阻止するという想いだ。想いが一つでなければ封印は成功しない」
「もし、封印が成功しなかったらどうなるんですか?」
ノアは質問した。
「例え一人でも、神を復活させたいと想う気持ちがあれば神は復活する」
三人は驚いた表情になる。
「でも、神の身体なければ復活できないんだろ?」
とアラナは、少し前に出てセンに向かって言った。
「ちょっと、アラナさん…!」
「だったら平気じゃん!」
「アラナ、言葉遣い…!」
ノアとハランはアラナの無礼な言葉遣いに慌てて言った。
「…何が平気だ、馬鹿者。」
とセンは座っていた椅子から立ち上がり言った。
「ばかもの…は?」
アラナは眉間にしわをよせた。
「おい…!」
ハランは、ちょうど自分とノアの間にいる、アラナの肩を叩き突っ込む。
アラナの王に対する言葉遣いと態度に、怒り出すのではないかとビクビクしながら、ハランとノアはセンの顔色を窺う。
するとセンは、そんなアラナの態度に慣れているのか、呆れた様子で小さく溜息を吐くと言った。
「神の心臓と身体と魂はバラバラになったとしても繋がっている」
アラナとノアは、センの様子を見て内心胸を撫で下ろす。
「心臓が呼ぶのだ身体と魂を、そして心臓、身体、魂が一つになり神が復活する」
「神が復活したら、どうなるんですか…?」
ハランが言った。
「この世は終わりだ、お前らの力は神に返り消える、そしてまた心臓も神に返り…再び、神の力無しでは生きていけない世界になる」
そう言うとセンはハラン、アラナ、ノアの三人から視線を外し、後ろの窓に体を向けると、遠い空を見て言った。
「そして…お前の弟、レオンは命を落とす」
「そんな…!」
いつの間にか窓の外の景色は変わり、列車が走り続けて、丁度三時間が経とうとしていた。
そして列車が止まり、目的地のミランダ駅に着いた。
三人は列車から降りると、さっきから腕を組んで、何かを考え込んでいる様子のアラナが突然、話始めた。
「なぁ、神って本当に存在したんだよな?それに民は神を崇拝してたって」
三人は、歩きながら話す。
「はい、民は神を崇拝していました。でも、それは神に絶対的な力あったからです。皆、神には逆らえないんです。
民にとって、王よりも神が言うことが絶対ですから…」
とノアは応える。
「そうか、力か…」
ハランは小さく頷いた。
「それで、一人の男が不死の心臓を欲しさに神を殺した」
アラナは伝説の話の事を言った。
「はい、でも…噂では本当は民の為に神を殺したんではないのかと…一部の民には英雄だと言われているらしいです」
「なんだそれ」
アラナは首を傾げる。
「お二人は、知ってますか?神を殺すには一つの剣があることを」
「あぁ、伝説の剣だろ?聞いたことはある」
とハランが言った。
「はい、その伝説の剣でしか神を殺すことは出来ない…
でも、おかしくないですか?神が死んだのなら、心臓も止まってるはずなのに、どうしてその者は不死の心臓を復活させる事が出来たのか?」
ノアは無意識に前のめりになって話す。
「確かにそうだな」
「考えるのは一つ、例え神の身体を殺せたとしても、伝説の剣は不死の心臓までを殺すことは出来ない」
「どういうことだ?」
アラナが聞いた。
「その者は伝説の剣で不死の心臓を刺し、一時的に心臓は停止した。その間に身体から魂は離れ、また神の身体は、復活できないよう海の底に沈めた。そして、再び復活することを知っていた不死の心臓を手に入れた」
「なるほど、そういうことか…」
ハランはノアの考えに感心する。
「まぁ、あくまで僕の考えですけど…」
とノアは我に返ったのか、無意識に熱弁していた事に、少し恥ずかしそうに言った。
「でも、納得いくな」
アラナは腕を組みながら言った。
「そして、その伝説の剣を使えるのはたった一人」
「一人だけ⁈」
ハランとアラナは同時に言った。
「はい、かつてセナーディア国王だった。今は亡きハイレーン・テラー王の息子であり反逆者キナイデッド・テラー、通称キド」
「反逆者がセナーディア国王の息子?…てことは、今のセナーディア国王の先祖が、その伝説の剣の所有者だった?」
ハランは言った。
「はい、そうなります。ただ、先祖ですが今のセナーディア国王には伝説の剣は使えないらしいと…なので、今はもう伝説の剣を使える者は一人もいないと云われています」
「王の先祖なのにか…?」
「はい、例え先祖でもその力を引き継ぐとは言えません」
「今、伝説の剣はどこにあるんだ?」
「伝説の剣は今、セナーディア国の城内に保管されていると云われています」
「へぇ、ちょっと見てみたいよな!その伝説の剣がどんなものなのか!」
と、アラナは同意を求めるようにハランの肩に腕をおいた。
「あぁ、見てみたいな!」
とハランも頷いた。
「それは…無理ですよ」
すると、ノアは少し深刻そうな表情になった。
「セナーディア国は、今は存在していない国とでも言った方が良いかと…」
「は?どういうことだよ」
アラナはまた、眉間にしわがよる。
「今のジャック・テラー王は、原因は分かりませんが、何年も前から他国との接触を全て放棄している状態で、セナーディア国以外の者の入国を禁止しているんです」
「それは、どうしてなんだ?」
とハランは言った。
「詳しくことは僕にも…ただ、父上が言うにはセナーディア国の王様は今、病んでいるとか…。」
「…病んでる?」
「はい、ここ…ろ…が」
そうノアが言いかけた瞬間、アラナの背後から何かがぶつかった。
いてっ!とアラナは勢いよく地面に転がる。なんと、ぶつかったのは人だった。その者も勢いよく地面に転がる。
それと同時に、何かが地面に落ちた。それは、小さめな紙袋だった。
「おい!そいつを捕まえろ!」
ぶつかって来た、その者の後を追う男が、全速力で走りながら言った。
そして地面に転がるその者は、見た目は赤髪が特徴的で、ハラン達と変わらないくらいの歳の青年だった。
すると赤髪の青年は、慌てて地面に落ちた紙袋を取ると、その場を逃げるように去って行った。
「アラナ!大丈夫か?」
「アラナさん!」
ハランは地面に転がるアラナの手を貸し起こす。
「いてぇ…」
「一体何なんだ?」
そうハランが言うと、赤髪の青年を追いかけ、全速力で走って来た、少し小太りの男はその場で立ち止まると、地面に膝をつき肩を揺らし必死に呼吸する。
「おじさん、大丈夫ですか?」
ノアは心配そうに、男の背中をさする。
「物を…盗んだんだ…!誰か、あいつを…捕まえてくれ…!」
走って来たからか辛そうに息を切らしながら話す男は言った。
すると、アラナは不機嫌そうな表情で、その場から立ち上がると、砂がついた服を荒く叩く。
「くそ…!追いかけるぞ!」
そして、アラナはそう言い放つと、走り出した。