第二話 選ばれし者
第二話「選ばれし者」
ハラン、アラナ、ノアの三人は列車から降りるとハヌル中心街にある城を目指し歩く。
ハヌル中心街は活気があり、市場がずらりと並んでいて、新鮮な果物や野菜などが売られている。
ハランは初めて、セデラル以外の街を見た事に少し感動をしていた。
そして、城までの道を知っているノアの後をついて行くハランとアラナはふとある事に気付く。
「なんか、さっきから視線を感じないか?」
とハランが言う。
「確かに、街の人達が俺達の事を見てる気が…余所者が、そんなに珍しいか?」
とアラナは嫌そうに眉間にしわを寄せて言った。
「…すみません、たぶん原因は僕です。」
街の人々はノアをちらちら見ると、もしかして、あそこにいるのは王子じゃない?まさか、こんな所にいないわよ!とひそひそ話をしている。
すると、ノアは被っていたフードを更に深く被る。
「あぁ、なるほど…さすが人気者は違うな。」
とアラナは首を縦に振りながら感心していると、ノアは突然曲がり角を右に入る。
「こっちです!城までの近道があるので、騒がれる前にここから行きましょう!」
そう言うと、ノアは狭い路地へと入って行く。そして、ノアに続いてハランとアラナも後を歩く。
そうして、城までの近道という狭い路地を抜けると、途中に川が流れる林を通った。
林を抜けると段々と城が見えてきて、近道をした三人は城の正門からではなく、裏の扉から城の中に入った。
「ノア王子!御無事でなによりです!」
「あぁ、心配かけてすまない…サイラス。」
城の中に入ると直ぐ、従者のサイラスが迎えに来ていた。
「ハラン様、アラナ様も良くぞいらっしゃいました。」
とサイラスは深く御辞儀をする。それにつられてかハランは反射的に軽く御辞儀をした。
「さぁ中に、王様がお待ちでおられます。」
とサイラスは、ノア、ハラン、アラナの三人を王の居る場所へと案内した。
そして、広い城の中を歩いて行くと一つの書斎に案内され、書斎の扉の前には見覚えのある人が立っていた。三人に気がつくとその者は目を見開き笑顔で迎える。
「ハラン、アラナ、王子!待っていたぞ!」
そこにいたのは過去にハランの父、ヌトと共に旅をしていたハヌル一優秀な兵士、ディオだった。
「ディオさん?」
とハランが問う。
「あぁ、そうだ。」
「お久しぶりです。」
ノアは軽く会釈をして言った。
「三人とも少し見ないうちに成長したな。」
「あまり、変わってないと思うけど…。」
とアラナは苦笑いを浮かべ言った。
「いや、容姿は変わってなくとも以前会った時とは違う。アラナは特に、自信に満ち溢れた目をしている。」
そう言うとディオは三人を誇らしく思い、微笑んだ。
そして、三人は案内された書斎の中に入ると、ハランとアラナが余りの部屋の広さと本の数に声を上げた。
「こんなに大きな書斎は初めて見た!」
「あぁ、まるで図書館みたいだ!」
と二人は驚く。
そして、書斎の中央に一際目立つ立派な骨董品の机と椅子があり、その椅子にはドギヤ国の王、セン・クリスダルが椅子の肘掛けに肘を置いて座っていた。
「王様!」
王に気づいたサイラスとディオは深く御辞儀をした。
「ハラン、アラナ、ノア。」
そう言うとセンは三人の顔をまじまじと、何かを確認するように見つめた。
「覚悟は出来てるみたいだな。」
ハラン、アラナ、ノアの瞳を見て言った。
「はい!」
三人は同時に返事をした。すると、センは椅子から立ち上がり
「サイラス、ディオ!着いて早々、三人に話さなければならない事がある、悪いが席を外してくれ。」
そう言うと、サイラスとディオは一礼して直ぐに部屋を出て行った。
二人が部屋から出ると、少しの間沈黙が続いた後に、ノアが恐る恐る聞いた。
「…話とは、何ですか?父上。」
「どうやら、道は一つしかないようだ。」
「一つ、とは…?」
今度はハランが聞く。
「今、東のゼーガルが荒れているのは知っているな?」
「はい、聞いています。」
「原因は言うまでもなく、神の心臓を欲しがる者達によっての争いだ。そして、一部に神の心臓の在り処がセデラルに封印されていると知られてしまった以上、今後セデラルにも危険が迫ってくる。もう、心臓を同じ場所に封印してはいられない。」
「そんな、どうすれば…!」
「ハラン、良いな?落ち着いて聞け。」
ハランは今からセンが話す事に耳を傾けて深くゆっくり頷く。
ハラン、アラナ、ノアの三人はサイラスとディオに暫しの別れを告げると、ハランが城の正門の前で立ち止まった。
すると、ハランの背後を歩いていたアラナとノアもその場で立ち止まる。
「ハラン…大丈夫か?」
とアラナは心配そうに言った。
「…大丈夫だと、覚悟は出来ていると思っていたけど…まだ、覚悟が足りていなかったのかもしれない…。」
ハランは深呼吸をして、さっきセンから聞いた話を思い出していた。
「ハランさん!父上が言っていたことは、あくまでも王の立場で国を滅ぼすわけにはいかないからで、弟さんを利用しているとか…そういう…!」
「分かってる。王様の言ったとおり、道はもう一つしかない…。」
「それで本当に良いのかハラン?俺達人間とは違う普通の心臓じゃないんだぞ?もしも、封印が成功しなかったら…今度こそレオンは…戻らないんだぞ?」
とアラナはハランの目の前まで来ては言った。
「それも分かってる。確かに、神の心臓をレオンの体に封印することはレオンにとって負担かも知れない…いや、負担だと思う。」
とハランは自分の拳を強く握る。
「でも…成功しない事を考えるのはもう止めたんだ。」
少し俯いていた顔を上げ、話を続ける。
「それに、なにより大切な人をもう失いたくない。レオンと同じくらいセデラルも街の人達も皆、俺のかけがえのない大切なものだから…父さんや母さんが願ったように、俺も少しでも救いがあるのなら、それに縋りたい…。」
「わかったよ、ハランの思い。それに、俺も故郷が無くなるのは嫌だからな!」
アラナはハランの左側の肩に力強く手を置く。
「はい、セデラルの為にも街の人達の為にも、レオンさんの為にも!」
そして、ノアはハランの右側の肩に手を置くと、二人は大丈夫だと言わんばかりに微笑んだ。
「あぁ、五人の勇者を集めレオンの体に神の心臓を封印する。」
ハランは頷き言った。
「よし、残りはあと二人!善は急げだ!行くぞー!」
「はい!」
そう言うとアラナとノアは先に歩き出す。
ハランは少しの間、先に歩く二人の背中を見ては心の中で呟いた。
「アラナ、ノア…ありがとう。」