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第十三話 その先にあるもの



第十三話「その先あるもの」






ルナは体全体にじんわりと、汗をかいているのが分かった。

そして喉が渇いたのか、荒ぶる呼吸を整えながら、ベッドから下りては部屋を出る。




ルナはふらつく足でキッチンに向かうと、徐々にキッチンの方から明かりが見えてきて、そこにはゼンが夕食の準備をしていた。




そして、やっとの思いで辿り着いたルナはその場で座り込む。




物音がした方へと目を向けると、ルナがいるのに気づいたゼンは慌てて駆け寄る。


「おい、大丈夫か?」


「…み、み、ず…!」


「みず?…あ、水な!」


ゼンは冷蔵庫から水を取り出しコップに注くとそれをルナに渡す。




ルナは水を一気に飲むと、生き返ったように深い呼吸をして荒ぶっている呼吸を整える。

そして、ルナは黙ってコップをゼンに渡すと、立ち上がり再びふらつく足取りで部屋へと戻る。


「お、おい!一人で行けるのか?」


とゼンは肩を貸そうと手を伸ばすが、ルナはそれを振り払った。

と同時に裏玄関の扉が開き、丁度ルゥの散歩から帰って来たハランが部屋に戻ろうとしているルナと出会す。


「ルナ…!もう大丈夫なのか?」


ルナはハランを一瞬見るがそれを無視をして、ふらつきながらも部屋にへと歩く。


「ゼンさん、ルナは…?」



ハランは大丈夫なのかと、心配な表情でゼンに問いかける。



「あぁ、喉が渇いて部屋からここまで来たみたいだ…さっき俺も手をかさそうとしたら断られた…」


とゼンは苦笑いをした。




そして、ゼンは完成したと思われる夕食をカウンターに置いた。今日の夕食はクリームシチューだ、シチューの香りが部屋全体に広がる。



「ハラン、みんなを呼んできてくれるか?」



とゼンは言った。ハランは頷くと、急いで階段を駆け上がる。すると途中でアラナが勢いよく階段から下りてくるのがわかった。



「あ、アラナ!夕食が出来たよ!」


「やっぱり!めちゃくちゃ良い匂いがするな!しかもこの匂いはクリームシチューだ!」



自信満々にどうだ!って顔をしているアラナが可笑しくて、思わずハランは笑ってしまう。



「…あ?なんだよ、違うのか?」


「いや…!あってる、あってる!」



そして、ハランとアラナの話し声が聞こえたからかノアとシンも部屋から出てきて四人は階段を下りる。











「…では、今日は僕がルナさんにディナーを…あ、夕食を持って行きますね!」


ディナーと言っていたノアは言い直した。きっとシンに言われたのだろう…と思ったハランは、よろしくと微笑んだ。






扉を軽く叩く音が聞こえると、失礼しますと言いノアは部屋へと入った。


「ルナさん、夕食を持って来ました!」


ノアはトレーに乗せた夕食のクリームシチューをテーブルの上に置いた。


「食欲は…ありますか?」


クリームシチューを目の前に置いても微動だにしないルナにノアは恐る恐る聞いた。


「…ある」


「なら良かったです!どうぞ召し上がれ!」


安心したノアは、まるで自分が作ったかのように笑顔で言う。




少しの前、沈黙が流れる。


「…お前、ずっとここに居るのか?」


「…え?あ、すみません!いえ、僕は消えるのでどうぞ食べてください!」




初めはクリームシチューを見ても微動だにしなかったノアの口元が一瞬緩んだような気がして、ルナに見惚れていたノアは慌ててそう言って部屋を出た。




きっとクリームシチューが好きなんだ、そう思ったノアは少しルナの事を知れて微笑む。









まともにちゃんとした飯を食ったのは久しぶりだった。


ルカが亡くなってから独りになって…何も喉に通らなくて眠ることだって出来なくて、生きた心地さえしなかったけど…ちゃんとした飯食って、寝て起きて、風呂に入って当たり前の事だけど、一日をちゃんと生きることで俺は今救われてる気がする…


生きてる、そんな気がする。


ルナはもう一度クリームシチューをスプーンで掬うと口にはこぶ。口の中に広がるクリームシチューは初めて食べるのに、なんだか懐かしい味がした。



今度はちゃんとしっかり微笑んだのをノアはほんの少しの扉の隙間から覗いていた。嬉しさのあまり、気づかれないように小さくガッツポーズをした。









「おかわり!」



階段を下りるとシンの大きな声が聞こえて、ノアは席に座る。


「…どうだった?」


ハランは隣に座ったノアに様子を伺う。


「実は…ルナさんはクリームシチューが好きみたいです」


と嬉しそうにノアは話す。



そして、へぇーと言ったアラナは興味なさそうに二杯目のクリームシチューに手をつけようとしたところだった。




それは良かったよ、と満足げにゼンは微笑むとあたりまえじゃん!と言ったアラナも何故か満足げだった。




「え、なんでなんで?!なんで分かったんだよ?!」


シンは口の中に入っていながらも話す。その様子を見ていたノアにお行儀が悪いですよ、と注意されすぐさま呑み込む。


「…で、なんでだ?」


「ほんの少し、笑ったんです…!」


ここにいる全員が驚いた。




わ、笑うんだ…!シンは唖然として食べる手が止まっていた。
















ルナは、また魘されて目を覚ます。毎晩のように見る悪夢に頭がおかしくなりそうだった。




最近は少なくなってきたと思っていたが…ルナは深呼吸をして落ち着かせては額に伝う汗を拭う。




そして何分かして、ほんの僅かだが玄関の扉が閉まる音が聞こえた。ルナは起き上がりカーテンを少しだけ開けては覗くようにそっと窓から外を見る。




またあいつだ…この早朝の時間帯に何時もあいつは犬の散歩に出る。ルナはハランと愛犬ルゥの後ろ姿が見えなくなるとカーテンを閉めた。











ハランとルゥは何時もの散歩コースの海に来ていた。神の身体が海底に眠っていると云われている最期の海。別名ラストブルー。





何時ものように海沿いを走るハランとルゥ、潮の匂いがハランの鼻をとおる。何時もの匂い何時もの散歩コース。ただ、違うのはレオンがいないという事。これがいつかは当たり前になっていくのか、そう思うと…




ハランは、思いっきり首を左右に振って、しっかりしろと自分の両頬を叩く。まだ希望はある希望を捨ててはいけない、ハランは改めて気合いを入れる。





そして最後にレオンの様子を見に診療所に寄る。ハランは病室に入るとベッドの上で昏睡状態のレオンの手に触れる。




そしてハランは目を瞑り、心の中で祈るようにレオンの手を強く握り締める。



…もう少し、もう少しだから頑張ってくれ…



何時も朝早くから散歩に出て、夕方頃に帰って来るハランに犬の散歩にしては長いなと疑問抱いていたルナはちょっとした興味本位でハランの後をつけてはその様子をずっと見ていた。弟のお見舞いに来ていたのか…とルナは診療所を見る。



あいつ、祈ってばかりだな…と呟く。



今にも死にそうな弟の命を救う為に、あんなに必死になれるのはルナにも分かる気持ちだった。




そして、心折れる日はいくつもあったはず…俺が最後の一人…もし、俺が拒めばあいつの弟は助からないのか…




だが、あいつの弟が死のうが俺には関係のない事だった。ルカが戻ってくる訳でもなければあいつらが死ぬ運命でも無い。




だが、直向きなあいつの姿を見てると心が少し…ほんの少しだけ動いた気がするのは何故だろう…




ルナは診療所から出てきたハランとルゥの後ろ姿をずっと見つめていた。




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