第十二話 双子の星
第十二話「双子の星」
満天の星空に一際目輝く星を見つけたまだ幼いルカが指差して言った。
「ルナ、ほら!あれが双子座だよ!見えるか?」
「どれ?」
「ほら!あそこだよ!」
「あれ、ほんとに双子座?…ねぇ、寒いよ中戻ろう…?」
「ほんとだよ!本に書いてあったろ?まだだめだ!今からすごいのが見れるんだから!」
「…うん、わかった…」
寒い中、渋々返事をしたルナはポケットに手を突っ込む。
「まるで俺達みたいだよな!」
「…双子だから?」
「それもそうだけど、双子の兄カルトスは普通の人間で弟のポルックスは父ゼウスと一緒で不死身なんだよ、だから神の魂を受け継いでる俺はポルックスでルナは何も力をもってないからカルトス!」
「それだと兄と弟逆になるけど…」
「こまかいことは良いんだよ!」
「…それに、あまり良い話ではなかった気が…どっちかが死ぬんじゃなかった?」
「あ?そうだったっけか?」
ルナはやれやれと深いため息を吐く。
「まぁ、気にすんなって!俺は死なないから代わりになれるし、お前を守れる!」
笑顔で、まかせろ!とルカは胸を張って自信ありげに言った。
「あ!流れ星!」
突然ルナはルカの後ろを指差した。
「うそ!どこどこどこどこ?!」
慌てながら後ろを振り返るが、ルカが振り向いた瞬間にはもう流れ星は消えていた。
「あー!見逃した!本当に流れたのか?!うそだろ!」
「うそじゃない、本当に流れたって!あ!ほら!また!」
え!?
この世の終わりかのように頭を抱えるルカ、その慌てぶりが可笑しくてルナは腹を抱えながら笑う。
そしてその瞬間、いくつもの流れ星が満天に光り輝く。
「うわぁ…!」
「す、すごい…!」
二人は初めて見た、ふたご座流星群に興奮していた。
ルナは星空の下で見た七歳だったルカの幼い面影が、笑顔が、その景色が、今も目に焼き付いて忘れられない。
「ルカ…!」
魘されるように目を覚ましたルナはベッドの上だった。そして上半身を起こすと、起きたばかりだからかルナの声は少し掠れていた。
「…俺を守るんじゃ、なかったのかよ…」
ぎゅっと拳を握りしめると、ルナは辺りを見回した。
ここはどこだ?と考える。見覚えのない部屋に微かにコーヒー?の香りが漂う。
すると扉が開く音がした。
ルナは慌てて扉の方へと顔を向けると、そこには見覚えのある顔と目が合った。目が合うとその者は一瞬驚いた表情をしていたが、次第に笑顔に変わる。
そして徐々にルナの元に近づくと、その者は言った。
「体の調子は大丈夫か?」
「…なんで助けた?」
ルナは顔を伏せながら早口で言う。
「え…?なんで…って…それは…」
「選ばれし者だからか?利用できるからか?」
「…利用って…!」
「悪いがお前らが求めてることは俺にはできない、諦らめろ!」
「どうして?」
「もう俺には神か復活しようがしまいが、心底どうでもいい!この命だってどうだっていいからだ…!」
「それは…お兄さんが本当に望んでいることなのか…?君が死ぬ事もお兄さんは望んでいるのか?」
「お前に何が分かる?!兄貴はもういない!殺されたんだよ!死なないと!俺を守ると言っておきながら、あいつは俺を置いて死んだんだ!」
怒りが込み上げてきたルナはだんだんと自然に声が大きくなる。
すると、別の部屋に居たアラナ、ノア、シンが驚いた表情で入って来た。
「どうしたんだ?」
アラナが様子を伺うように言った。
「…悪い、俺が…!」
ハランが謝ると、ルナは布団の中に潜り込んでしまった。
「ルナ…!」
ハランはルナを引き止めようとするが、ゼンがそれを止めた。
「何があったんだ?」
シンはハランの顔を覗きこむと、青ざめた表情のハランは言った。
「俺が…余計なことを言ったから…」
ハランは少し俯く。
「向こうで詳しく説明してもらいます」
ノアはハランの手を引きソファ席に座らせる。
まだ、closeの看板かかっているイチゴイチエには客は一人もいなく、ソファ席にハラン、アラナ、ノア、シンの四人が座る。
「いったい、何があったんだ?」
アラナが再びハランに問うと、ハランは一呼吸した。
布団に潜り込むルナは硬く目を瞑る。
そして部屋に一人残ったゼンが淡々と話し始める。
「ハランに何か言われたか?」
「……」
「あいつは、きっとお前に力になって欲しいと思っている…利用しているというのは、余り本人には言わないでくれ気にしてるから…だが、本人には利用しようとかそういう感情は一切無い」
「……」
「ハランは恩を返す気だからだ、きっとこの事が終わったらあいつらに恩を返す、その為だったらなんだってするよ、お前にも…そういう奴だよハランは…」
今まで布団を被っていたルナは顔を出して言った。
「…なんだってって、ルカの代わりに命を差し出せって言ったらするのか…?」
「…あぁ、するよ」
「馬鹿すぎる…!なんでそんなに…」
「…するのかって?怖いからだよ、一人になるのが…お前と一緒だ、ハランにはもうレオンしか家族はいないから、また亡くすのが怖いんだ…」
ルナは言葉をのみ、かわりに唇を噛みしめる。
「…言い方が悪いが、時間が解決してくれることもある」
そう言ってゼンはその場立ち去ろうと扉の前に立ちドアノブに手を触れる。
「あぁ…でも、解決してくれないこともある…!この景色を見るとあの時一緒に見たなとか、ふと漂ってくる香りとか、あの食べ物好きだったよなとか、そういうのがある度に思い出す…!その時どれくらい悲しいか虚しいか…!嫌なんだよ!その度に何もかもが嫌になる!だったらいっそのこと俺ももう…!」
ゼンはルナの方に振り返る。
「…死んだ者が生き返らないのは知ってる…!生き返らせてもいけないのも…乗り越えていかないといけないのも分かってる…でも、まだ…!」
…まだ、一緒にいたかった…!そう言うとルナの瞳には涙が溢れ出して止まらなかった。
そんなルナを見たゼンはドアノブから手を離し、ルナの側まで近づくと、ルナの頭を優しく自分の胸に引き寄せる。泣いても良い、と言っているかのように強く優しくゼンはルナの背中を叩く。
「辛さは、わかる…俺にも大事な人を亡くした経験があるから…」
ノア達に連れられたハランはソファに座り話始める。
「もしかして、まだ迷ってる?」
アラナはテーブルを間に向かい側のハランに向かって乗り出すように問う。
「いや…もう迷わない、覚悟を決めたから!レオンを助けるって!」
「ならよかった!また、なんかふざけたこと言い始めたら今度は一発殴ってやろうと思ってたから!」
と言いアラナは、から笑いをした。
「…殴る!?」
ハラン驚いた顔して言った。
「当たり前だろ?ハランがぐずぐずする度に、俺達の意思は全無視なのか?って、俺達にも覚悟があるしここにいる理由があるんだよ!」
「…本当にごめん…もうみんなを心配させることはしない!」
ハランはシン、ノア、アラナの順に目を合わせるとアラナが言った。
「絶対?」
「…絶対!」
そして、ハランは強く頷く。
「で、どうする?あいつを説得させる方法を考えなきゃだろ?」
シンはソファから立ち上がり、仕切るようにハラン、アラナ、ノアの前に立つ。
「そうだな…けっこう手強そうだぞ?」
とアラナは眉間に皺を寄せて言った。
「はい、素直に一緒に来てくれるとは思いません」
「うーん…」
シンは腕を組み考える素振りを見せる。
「あ、そうだ!あいつの弱みを握る!」
「…弱み?」
「あぁ!人には一つや二つ、弱点があるはずた!日々を過ごしながら、あいつの弱点を探す!」
「その前に逃げられそうだな…」
「では、今日から順番で監視するのはどうですか?トイレ、風呂、寝る時は常にルナさんと共に過ごすこと!」
「は?まじかよ、そこまでする必要あるのか?」
「げ!嫌だよ!」
すぐさまアラナとシンが拒否した。
「でも、逃げる事はあり得ると思いますし、弱点も見れます、一石二鳥ではないですか?」
「…無理」
「…絶対、無理」
二人は恐怖を感じ取ったような表情だった。そして、それを見たハランは言った。
「…ノア、俺達だけでやろう…?」
「わ、わかりました…!では今日は僕が担当しますね!」
「あぁ、頼む…」
すると、扉が開く音がして部屋からゼンが出てきた。
「ゼンさん…!」
心配そうにハランはソファから立ち上がる。
「大丈夫だよ、今は泣き疲れて眠ってる」
そう言うとゼンはカウンターの席に座る。
「…どんな感じだった?」
ハランは恐る恐るゼンに聞いた。
「まぁ、今のあいつには逃げるとか、そういう気力がないし生きる気力すら失ってる」
「…じゃあ、どうすれば?」
「そっとしておくのが良いのかもしれないが…様子を見にいくだけでも充分だと思うな」
「監視はいらないですか?」
ノアが聞く。
「監視かぁ、逆に逃げそうだぞ?あの性格だと…」
とゼンは笑う。
「では、食事を運ぶ時に様子を伺うのはどうですか?」
ノアは閃いた表情で言った。
「お!それ良いな!賛成!」
とシンは大きく両手を挙げた。
「確かに…それなら監視してるって感じじゃないし…いいかもな」
シンの隣にいたアラナも顎に手を当てながら深く頷き賛成した。
「じゃあ、これで決まりだな!」
とハランが言い、全員が賛成した。
「では、今日のディナーからは僕が行きますね」
とノアは小さく手を挙げてみせた。
「はい!俺、明日いく!」
シンは相変わらず大きく手を挙げる。
「じゃあ次、俺でいいよ!で、ハランは最後な?」
「…おう?!」
アラナはハランの肩に手をポンっと叩くと部屋に戻って行った。
ハランは瞬発的に返事をしたが、なんか強制的に決められたし、なんで俺が最後なんだ?
と疑問に思いながらも、いつの間にかその場に取り残されたハランは少し考えるが…
ま、いいか!それ以上深く考えずに部屋に戻って行った。
…!?
ルナはまた魘されてベッドから起き上がる。辺りは真っ暗だった。
時計を見ると十九時二十七分…
また、あの夢を見た。
何度も何度も同じ夢、二人でふたご座流星群を見たあの夜。俺の大切で忘れたくない、だけど思い出すのも辛いくらい綺麗で幸せなあの瞬間。
これから俺はあの夢を何度見るのだろう…そして、何度思い出すのだろう…辛い…この感情を一生背負って行くのだろうか…早く楽になりたい…
「ルカ…置いて行くなよ…」
そう、呟いた。




