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08

「しかし何故こんな風に動けなくなるのじゃ?それにお主は何を投げておったのじゃ?」


「特製の速乾接着剤だ。それで関節を固めた」


「接着剤…そんな物で関節が固まるとは思えんが…」


「特製って言ったろ?材料も特殊だし作るにもかなり手間がかかるんだ。それにゴーレム用に作ったような物だし」


「ゴーレム用接着剤など聞いた事がないぞ…。ではあのガリガリ聞こえていたのはなんじゃ?」


「接着剤が固まりかけの状態で関節に巻き込まれると小石みたいになって関節に挟まる。それが潰された時の音だな、あの音がすると動きはかなり遅くなる。この辺がゴーレム用に工夫したところだ。普通に固めるだけなら時間がかかりすぎる」


「…なるほどのう。お主はゴーレムの足止めには慣れていると言っていたが、こんな方法があるとは思いも寄らなんだ」




テーベ村の近くにはストーンゴーレムが出る洞窟がある


重くて硬い拳は受けたら即死するほどの威力だが、足が遅いので逃げるのは容易だ


そしてストーンゴーレムは村にとって貴重な資源でもある


体を構成する石は優秀な建材として使えるし、倒した時に砕けた核は低ランクではあるが魔石として街で売れ、貴重な収入源となる


だから洞窟から出てきたはぐれストーンゴーレムを見つけたら、村人は喜んで倒しにかかる


そして大して被害も出さずに倒せてしまうのがテーベ村の村人たちだった


ただ問題が一つ、石の運搬がかなりの重労働だ


特に胴体部分の石は分割が難しく、重すぎて村の荷車や馬車は壊れてしまうので、力自慢の男衆が何日もかけて運んでいた


村長から相談を受けた俺は試行錯誤した結果、村の近くまでストーンゴーレムを誘い出して接着剤で関節を固める方法を編み出した


近くで戦って村に被害が出ては本末転倒なので無力化する必要があり、接着剤の出番となった 


この接着剤は材料がやや特殊だったが、ゴーレム狩りが捗ると聞いた村人が総出で集めてくれたので大量に作ってある 


調子に乗って何度も洞窟からゴーレムを誘い出していたら、レアなアイアンゴーレムまで出てきてしまったが、倒した時は村はお祭り騒ぎだった


村を出る時に置いていこうとしたが…


「鈍いとはいえ動くゴーレムの関節にこの接着剤を当てれるのはあんたくらいだ、村に置いても誰も使いこなせんよ。今度からはこの大量のゴーレム石材で専用の囲いでも作ってそこで倒すさ」


と木こりが言い、他の村人もみな賛同していたため、全部貰ってきた




「でも最初にシンシアが動きを止めてなかったら多分もっと大変だったと思う。あんなデカいのに速いゴーレム見た事ないぞ」


「そうか!そうじゃな!魔法耐性も高いから儂の強制停止もかなりレジストされたのじゃ!」


(まぁシンシアが全力を出し切っても短時間動きを止めるだけが限界なんだ、すごい性能なのは事実なんだが…暴走させてんだよな、コイツ)




ゴーレムが完全に動けなくなったのを確認してから近づく


シンシアがゴーレムの胴体部分に触れて呪文を唱えると分厚いカバーが外れ、緑色の球体が見えた


「これが核じゃ。さて暴走の原因がこれで分かるぞ」


核へ手を伸ばしたシンシアは魔力を流して操作しているようだ


「……………そうか」


手を離したシンシアは見るからに気落ちしている


「どうした?」


「暴走の原因は儂にあったようじゃ」


「シンシアが作製に失敗したって事か?」


「いや技術的なミスは無い」


「では技術以外には?」


「………ひとつだけ問題があったようじゃ」




シンシアの話を要約するとこういう事らしい


稀代のゴーレムマスター、シンシアは1体のゴーレムを約1年かけて作る


そして今回のゴーレムは記念すべき100体目であり、持てる全ての技術で最高の素材に命を吹き込むつもりだった


攻撃力・防御力・敏捷性・魔法耐性・学習能力・エネルギー効率・自己修復機能を出来るだけ高めた


そしてゴーレムの二大禁忌、自我の獲得と核の埋没をそのゴーレムに組み込んだ


そうして完成したゴーレムは自分がハイスペックである事を自覚し、自分の立場を創造主であるシンシアより上に据えた


要は舐められたのだ


こうして命令を無視して好き勝手に振る舞う暴走ゴーレムが誕生した


シンシアは暴走を止めようとするも、制御するためには核に触れねばならず、そのためには胴体部分のカバーを外す必要がある


そのカバーを外すにも直接触れて解除キー代わりに特殊な魔力を流す必要があった


しかし他の戦闘用ゴーレムではこの暴走ゴーレムに全く歯が立たず、圧倒的な強さで次々と破壊された


自分のゴーレムでは拘束は不可能と判断し暴走ゴーレムごと工房を結界で囲う


そして冒険者ギルドを頼りにメティスへ向かった


街について逆恨みした冒険者たちに絡まれている所へタツキが現れたのだ




話を聞いてまず思った


(コイツ…自分の事を稀代のゴーレムマスターって言い切りやがった…)


稀代を自称するとは見上げた根性だが、滲み出るポンコツ感がなんとも言えない


(あと、100年ゴーレムを作り続けてるって事だよな、シンシアって何歳だ?魔族とか言ってたし、見た目は10歳くらいに見えるが実はかなりの高齢なのか…口調が年寄りくさいのも肯けるな)


ツッコミどころをいちいち突っついては話が進まないので、ゴーレム関係以外はとりあえずスルーした


「自我の獲得が禁忌なのはわかるが、核の埋没はなんで禁忌なんだ?」


「核が弱点なのはお主も知っておろう?砕かれれば機能停止はするし、儂の様なゴーレムマスターの手かかれば、多少離れた場所からでも魔力を使い命令を上書きも出来る。暴走した時に容易く制圧が可能なんじゃ」


(なるほど、安全装置の意味合いがあったのか)


「弱点が剥き出しなら最高のゴーレムは名乗れぬと思ったのじゃ。他の者に操られぬ様に命令を上書きする工程はかなり複雑にしておるから、儂ですら直接触れねばならん。更に胴体部分の魔力耐性を最大限にしてあるのじゃ、遠隔操作では管理者権限もほとんど受け付けぬ。それが裏目に出てしもうたのう」


「まあ技術面では完璧な作りなんだ、そこは誇ってもいいんじゃないか?」


たたでさえ小さな背中が気落ちして更に小さくなっているので、ついフォローしてしまう


「…そうじゃな、技術面では完璧なのじゃ、あのゴーレムが儂の威厳を感じ取れなかったのが唯一の問題じゃった」


(…ん?)


「儂のカリスマ性を理解するのは、いかに最高のゴーレムとはいえ難しいのじゃろうな。存在が高みにありすぎて認識が追いつかなかったのじゃろう」


(…その発想は無かったわ、コイツ半端ねぇな)

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