06
結局あまり眠れないまま朝を迎えてしまう
出がけに宿屋の人に隣街への馬車代を聞くと丁寧に教えてくれた
全財産でも到底足りない事がわかり、次善策が潰える
微かな希望を胸に冒険者ギルドへ向かったが、旅の無事をお祈りされた
登録希望の新人を断わる際の常套句らしい
ちなみに実力を見る云々についてはギルドマスターがあっさり却下したそうだ
「錬金術師の冒険者など聞いた事が無い、試すまでも無い」との事
俺はお姉さんの憐みを含んだ視線を背に受けてギルドを出た
当ても無く大通りを歩く
まだ早い時間帯なので人通りはそれほどでもなく歩き易かったが、昨日と打って変わり気分は晴れなかった
(今できる事としたら、勝手にモンスターを倒して素材を売るとかそんなところか。…今度は冒険者登録してないと買い取らないとか言われないかな?)
その可能性があるので先に確かめたい所だが、どこで買い取ってくれるか知らなかった
(そう言えばギルドに買い取りカウンターみたいな大きなテーブルがあった、てことはこれもダメか…)
これだけの規模の街だから非正規な闇取引もあると思うが、安く買い叩かれる事は目に見えているし、運が悪いと摘発されるかもしれない
(はぁ、せっかくスリングを使いこなせる様になって冒険者らしくなったのにな。登録すら出来ないなんて予想外すぎる)
他の街へ行く金は無く、金策の算段もつかない
肩を落として歩きながらタツキは途方に暮れていた
そして割と早く立ち直った
(こうなったら道中のモンスターを食糧にして自分だけで歩いて行こうかな。そうなると野営の道具がいくらかかるかが問題だ、どこで売ってるか探さないと)
隣街への移動計画を立てながら歩いていると、道の一角が何やら騒がしい
(ゴスロリ…この世界でもあるんだな)
そこでは派手な黒い服を着た少女が10人程の男達に囲まれている
「儂は冒険者ギルドに行きたいのじゃ、誰か案内してくれぬか?」
(見た目にそぐわない話し方をするな…)
しかし少女の問いかけに応える者はいない
それどころが周りの男達からは少女への敵意すら感じる
(何だ?ヤバイ雰囲気だぞ…)
その時、一際大柄な男が近づいてきて声を上げた
「おいお前、人形館の奴ってのは本当か?」
「いかにも、儂が人形館の主じゃ」
「お前魔族だろう、なんでこの街にいる?」
「ちと困った事になってな、冒険者ギルドに依頼をしに来たのじゃ」
「冒険者がお前の依頼を受けるワケねぇだろが!お前のとこのゴーレムのせいでどんだけの被害を受けてるか分かってんのか!」
大柄な男は声を荒げて少女に詰め寄る
「それは儂の縄張りに入るからじゃろう。一度は警告もしておるし、殺してなどおらんぞ。多少痛い思いはしてもらうが」
「殺してねぇからっていいワケあるか!大怪我のまま帰る途中でモンスターに襲われて死んだ奴や、生き延びても再起不能になった奴が何人いると思ってやがる!」
「そこまで責任は取れんぞ。人の家に勝手に入り込んでおいて何を呑気な事を言っておるのじゃ?盗っ人猛々しいとはこの事じゃな」
「何だとてめぇ!」
男は太い腕を振り上げる
「まあまあ落ちつグボォ」
中に割って入ろうとした俺は、腹に大きな拳をモロに喰らい後ろに吹っ飛んだ
「ヤ、ヤバイっすよ。親分の力で殴ったら下手すると死んじまいます」
「あ、あいつ急に出て来るから…くそ、ずらかるぞ!」
親分と呼ばれた男は取り巻きを連れて逃げて行った
「お、お主、お主よ、大丈夫か?生きているか?」
少女はふっ飛んで倒れた俺を心配そうに見ている
「ありがとう、大丈夫だから」
そう言って立ち上がり服の汚れを払う
「怪我は無いのか?本当に大丈夫なのか?」
「ほら、これがあったから」
そう言うと服の下に仕込んでいた分厚い本を見せる
背の低い少女を殴ろうとしたので、狙いが分かり易かったのが良かった
さすがにあの威力をそのまま受けるのは無理だ
「しかし怪我は無いとは言え埃まみれになってしまったな。儂を庇ったばかりに、すまん」
「払えば落ちる汚れだ、気にしないでいい。それより冒険者ギルドへ行きたいって?」
「え…ああ、急いで依頼をしたいんじゃが、場所がわからんのじゃ」
「案内するよ、そう遠くないから」
「重ね重ねすまんのう、恩に着るのじゃ」
実は体のあちこちがかなり痛いので、バレない用にポーションを飲みながら案内した
そのまま何事も無くギルドに到着する
「世話になったのう、儂はシンシアと言う。魔の森にある人形館の主じゃ。落ち着いたら礼をさせて欲しいのじゃが…今は持ち合わせが無くてのう」
「俺はタツキだ、礼は気持ちだけ貰っておくよ。それじゃ」
「そうか、お主はいい奴じゃのう。ではまたな!」
ギルドには入る気がしないので入り口で引き返す
近くに冒険者らしき人がいたので野営用の道具を扱っている店を尋ねた
親切にいくつかの道具屋を教えてくれたので、最寄りの店から回ってみる事にした
(もう今日の宿代しか残って無い…)
しばらく道具屋巡りをして野営道具を買い込んだところで、道を行くゴスロリ少女が目に入った
ずいぶんと肩を落として歩いているので、さすがに放っては置けず声をかける
「また会ったな、シンシア。ギルドで何かあったのか?」
こちらに気づいたシンシアが顔を上げる
「タツキか…すまんのう、折角案内してもらったのに無駄にしてしまったのじゃ」
「なんでまた?」
「報酬を前金でギルドに預けねばならんのじゃが、儂は持ち合わせが無くて依頼を断わられてのう。報酬は金貨10枚の予定だったのじゃが」
(金貨10枚!大金だな!)
金貨1枚でも隣街行きの馬車代の倍くらいの価値だ
ちなみに宿代や食事代、野営道具などの値段を参考にすると、金貨1枚で10万円相当だ
「ただ受付の者が言うには、儂の依頼内容なら金貨100枚でも受ける者はおそらく居ないであろうとの事じゃ。そんな大金などさすがに用意できぬし、困ったのう。どうしたらよいのやら」
シンシアは悲しそうにしている
「ちなみに依頼って何?」
「ん?ああ…えーと」
シンシアが急に恥ずかしそうにモジモジし始めた
「実はな、儂の作ったゴーレムが暴走していてな。それを拘束して欲しいのじゃ」
「暴走ってなんだそれ…えーと破壊じゃなくて拘束なのはなんで?」
「いろいろと手を加えすぎてな、破壊は不可能なのじゃ」
「拘束っていうか行動不能にするだけでいいのなら俺も力になれるかも…」
「本当か?頼む、力を貸してくれ!このままでは儂の家が壊されてしまうのじゃ!」