05
テーベ村で過ごすこと約2ヶ月
その間にスリングの練習と錬金術の勉強をしながらいろんな種類のポーションを大量に作った
村長や木こりの他にも村人達からいろいろな事を教えてもらい楽しく過ごしてきたが、それももう終わる
倒した獲物から剥ぎ取った毛皮を売りに木こりがメティスへ行くというので、それに合わせて旅立つ事にしたのだ
「お世話になりました」
「いえいえこちらこそ、おかげさまでこの村は当分怪我の心配は無用となりました」
「お役に立ててなによりです、村長もお元気で」
「ありがとうございます。よろしければまたいつでもいらして下さい、歓迎いたしますぞ。それでは道中のご無事を祈っております」
それから3日かけてメティスに到着した
馬車なら2日と聞いていたが、テーベ村唯一の馬車はボロボロな上に馬も年老いていたので仕方ない
「思ったよりかかっちまったな」
「歩くよりは早いし楽でしたよ、ありがとうございました」
「あんたにはすっかり世話になった。こんくらいはさせて欲しいぜ」
「こちらも世話になったので気にしないでください。毛皮が高く売れることを祈ってます」
「ありがとよ。出会った頃なら思いもしなかったが、今のおまえならいい冒険者になれると思うぞ。元気でな」
そう言って木こりを乗せた馬車は人混みに消えて行った
少し寂しい気持ちもあるが、それ以上に楽しみな気持ちが強い
「さて、どこから行こうか?ウキウキしてくるな」
冒険者ギルドに魔法薬店、服屋や道具屋にも用事がある
どこに行くかは木こりや村長から聞いた情報で計画した
「まずは金策から…いや、先に宿を取った方がいいと言ってたな」
話によると手持ちの金は安宿に数日泊まれるくらいしか無いらしい
宿代の足しにと、村にある貴重な現金でポーションを買い取ってくれた村長には感謝しかない
「なるだけ大通りにある宿屋にした方いいんだったな…」
人混みを掻き分けながら宿屋をさがし始めた
その日の夜
俺は安宿のベッドサイドに腰を掛け、頭を抱えていた
「…これ、今度こそ詰んでないか?」
(今日の出来事を整理してみよう)
木こりと別れてから、俺は大通りにある宿屋で無事に部屋を取れた
宿代は全財産で5日分くらいになる
とはいえ食事もするし、いろいろ買い物もしたい
しかし金策のため訪れた魔法薬店で驚愕の事実が判明する
メティスでポーションを売るには免許が必要だった
もちろん持って無いので俺のポーションは買い取り不可だ
ちなみに魔法学校の専門学科を卒業しないと免許はもらえないらしい
メティスの外で販売するには大丈夫らしいが、そんな所でポーション売っても誰も買わないだろう
自分のポーションの品質には自信があるが、それを証明する手立てがない
そのあたりを教えてくれた魔法薬店の老店主は、免許さえあれば俺のポーションをできるだけ買い取りたかったと話してくれた
目利きのようで、小瓶を見ただけで品質の高さを見抜いたらしい
こんな良い人に危ない橋は渡らせたく無いので、交渉もせずに引き下がる
あんなにポーション作ったのに…すごい量作ったのに…
次に俺は冒険者ギルドに向かった
目論んでいた一攫千金の夢は潰えたが、冒険者として地道に稼ぐのも良いだろう
異世界と言えば冒険者ギルド
そこには綺麗な受付のお姉さんと新人に難癖をつける荒くれ者が待っている筈だ
メティスに来た時点で既に夕方だったので、冒険者ギルドに着いた時にはあたりはかなり薄暗くなっていた
ギルドの中に入り受付らしい所へ向かう
そこでまあまあ綺麗なお姉さんとやりとりした後に、最悪の展開となる
冒険者登録を断られたのだ
何を言ってるかわからないかもしれないが、自分でもよくわからなかった
異世界に転生した人が冒険者登録を断られるなんて事があるのか?
俺はしばらく現実を受け入れられなかった
お姉さん曰く、メティス周辺は雑魚モンスターでもとても強く、レア度の高いモンスターはかなり凶悪な強さになる
よって五段階ある冒険者ランクの下から2番目、ブロンズ級以上でないと依頼は受けられない
新人は最下位のアイアン級なのでここでできる仕事は無く、他の地域でランクを上げる必要がある
昔から名を上げようと無茶をして雑魚モンスターに瞬殺される新人が後を立たず、今はこの街での冒険者登録は滅多にしなくなったとの事
例外として身分の高い人に保証されたり、紛れもない実績があればいいらしいが、どちらも俺には無い
ついでに錬金術師の冒険者は前例が無いらしい
冒険者の街メティスで生まれ育ち、成人してからはここで受付をしているお姉さんでさえ一度も見た事が無いと
それでも食い下がって、一度実力を見て欲しいと言うとギルドマスターに訊いてくれることになった
今日はもうギルドマスターは帰ったので明日また来てくださいと言われた
帰り際に、おそらくダメだと思いますよ、と言ったお姉さんの悲しい目が望み薄な事を伝えていて、俺は失意の中とぼとぼと宿に戻ったのだ
固いベッドへ横たわり天井を眺める
明日のギルドマスターとの件に一縷の望みをかけるが、ダメだった事も考えておく必要がありそうだ
その場合は他の街へ行くべきなのだろうが、おそらく路銀が足りない
馬車がいくらかわからないが、食費もかかる
なんとか次の街へ着いてもまたポーションが売れない可能性がある
と言うかほぼ無理だろう
考えてみれば分かる話だ
どこの誰か作ったかわからない、効果不明なポーションに自分の体を預ける事など出来ない
責任を負うからこそ保証となり、そのための免許だと思える
そうなると移動先で冒険者登録をして依頼を受ける必要があるが、場合によっては何日もロクに食べてないかもしれない
そんな状態でモンスターと戦って生きて帰れるのだろうか?
かと言って恥を忍んでテーベ村に帰ったとしてももう他の街へは行けないだろう
あの村は現金がないから路銀を蓄える事もできない
(…これはどうにもマズいな)
何も良い考えが浮かばない
俺は最悪な気分のまま冒険者の街での最初の夜を迎えた