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04

俺はあれからずっと村長の家に寝泊まりしている


宿代は食事込みで1日ポーション1個


自分的にはポーション5個くらいを考えていたのだが、1個でいいと言われた


村長が言うにはそれでも貰いすぎなくらいらしい


試しに少し前に大怪我をして歩けなくなっていた村人に飲ませたところ、すぐに動ける程に回復した


「あれほどの薬は初めて見ました、よほど効果のある物なのでしょうな。街で買えばいくらするのか見当も付きません」


と言う事で俺の作ったポーションは中々の物のようだ


ただこの村には現金が少ないようで、あまり換金できなかった


なんせテーベ村には店が無い


自給自足の農村なのでほとんどが物々交換で成り立つらしい


そもそも色々な物が個人の所有と言うより村全体の物と言う認識なのだとか


厳しい環境で生きていく為には共同体として暮らす方が良いのだろう




そんな中で俺は冒険者は諦め、臨時の薬師として働いている


今日も木こりと村の外へ出かけていた


木こりが仕事する周辺で薬草を採取し、敵が来たら木こりに退治してもらう


「あんたのおかげで不意打ちをくらう事が無いから楽でいいな。たまに木を切るのに夢中で後ろから殴られる事がある。大した事はないが痛いのは痛いんだ」


…やっぱりこの人は普通の村人じゃないと思った




あと嬉しい事に経験値が入る


おそらくパーティを組んでる事になっているのだろう


一日平均3体ほどモンスターを倒しているが、おかげで諦めていたレベル上げが可能になった


しかもほぼノーリスクで



俺には経験値9割ダウンの呪いがかかっているが、この辺のモンスターは強いので経験値も多いらしく、それなりにレベルが上がっていた


予想通り錬金術大全はレベルによりアンロックされるようで、閲覧可能なページが増えている


周辺の薬草を採り終えたら勉強の時間だ


錬金術大全を読み込んで素材や錬金術の知識を深めたり、新しいポーションを作ったり


モンスターによっては村へ持ち帰るので、その時は俺も手解きを受けながら解体する


これがグロい


倒れたモンスターが消滅してアイテムが残るなんて事は無く、解体は一苦労だ




仕事を終えたら木材や解体した獲物を載せた荷車を引いて、日が沈む前に村へ帰る


その後は井戸水で水浴びをして汗を洗い流し、村長の家で夕食をいただき、疲労感の中泥の様に眠る


冒険者とは言えないが割と充実した日々を過ごしていた




そんなある日の朝


いつものように木こりと荷車を引いて歩いていると、村外れの道の側で子供達が遊んでいた


向こうある大きな木を的に石投げをしている


最初は微笑ましく見ていたが、石が木に当たる鈍い音が聞こえると俺は驚きを隠せなかった


10歳にも満たない子供が投げるにしては威力が尋常じゃない


「あれなんですか?投げる時に使ってる紐みたいなの」


「あれはスリングだな、紐の真ん中の広い部分で石を包んで振り回して投げるんだ。子供は遊びにするが、大人は畑にきた獣を追い払う時なんかに使うぞ」


「子供が投げるには音がすごいんですが…」


「子供のでも人に当たれば軽い怪我では済まないからな。俺が投げりゃモンスターも倒せるぞ。言ってもそうそう当たんねぇが」


「そうなんですか?」


「俺もガキの頃よく遊んだから知ってるが、投げ方を覚えただけじゃダメなんだ。石の大きさや形が少し違うだけで全然違うところへいっちまう。止まってる大きな的ならまだしも動く獲物の急所に正確に当てるのは無理だな」


「なるほどー」


会話が途切れた時、フィーが目の前を激しく飛び回る


(ちょ、やめろよ、おまえ見えてないんだから俺が反応したら怪しいだろ)


フィーは認識阻害により俺以外に見えていない


以前囮になった時は解除していたらしい


フィーはいろいろと規格外なので隠していた方がいいだろうと、村人にも存在を明かしていない


(なんだ?フィーはいたずらなんてした事ないし、何か意味があるはず)


以前アイテム探知やインベントリの使い方を見せたりした時も何か主張したがっていた


(さっきの会話で何かあったか?)


思い返してみるが、スリングの事くらいしか思いつかない


「すいません、少し珍しい薬草見つけたので採ってきますから先に行ってて下さい」


「お?そうか、あんまり遅れないようにな」


適当に言い訳をして少し離れてから聞いてみる


「スリングの事か?」


フィーはコクコクと頷く


スキルを表示させるようにイメージすると頭の中に文字列が浮かんだ


「この中で関係しそうなのは…弾道計算か!なるほど、これはアリだな」


フィーはまた飛び回りはじめる


(これはまだあるな?)


再びスキルを思い浮かべる


「視覚リンク…は無いか。あ、行動予測か?」


フィーの反応を見ると正解だったようだ


行動予測で敵の移動先に狙いをつけ弾道計算で正確に投げる、と言うところか


「うん、試してみる価値はありそうだ」


子供の投げたものでもあの威力だ


フィジカルに自信の無い俺でも遠心力を利用してかなりのダメージが期待できる


何よりこれは遠距離攻撃だ


接近戦のできない俺が待ち望んでた攻撃手段になるかもしれない


「さすがフィーだ、頼りになるな!」


手放しで褒めるとフィーは嬉しそうにクルクル回転しはじめた




「今日はずいぶんご機嫌だったな、よほど珍しい薬草だったのか?」


仕事を終えて村に帰る途中、木こりが声をかけてきた


「ええ、まあ。そう言えば昔はよくスリングで遊んだんですよね?作り方とかわかりますか?」


「スリング?なんだ、やってみたいのか?材料はただの麻紐だから簡単にできるぞ、後で教えてやる。なんなら家にあるのあんたにやるよ」


「いいんですか?助かります」


「あんたのおかげで怪我の心配なく仕事できるからな。これくらいなんて事ない」




その後は木こりに教わってスリングを作っていたら、何故か村長や村長の奥さんも自作のスリングを持ち出してきた


作る人で工夫の仕方が違い、なかなか面白い


次の日に腕前を見せてくれたが、奥さんが一番上手かった


しかも的に当てた時の音で判断するなら、木こりが投げたのよりも威力がありそうだ


(体格に恵まれてなくてもこの威力、期待できるぞ)


その日から薬草採取と勉強の他にスリングの練習を加える事になった

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