01
「…これ詰んでない?」
ベッドサイドに腰かけたまま、俺は頭を抱えていた
「異世界転生ってもっとこう、チートで楽々俺最強!みたいなもんじゃないのかよ…」
どうしてこうなった…
俺は少し前の事を思い出すと溜息をついた
俺は小学生の時に交通事故に遭って半身不随になり、いくつかの臓器を失った
その時に両親も亡くして、それからからずっと入院生活だった
とはいえそんなに不満はない
病院のスタッフや他の入院患者たちと楽しく過ごせたし、なんとか高校も卒業出来た
発展したVR技術により、まるで実際の学校に通っているかのように過ごせた事も良かった
しかし18歳を過ぎたあたりから移植した人工臓器に不具合が発生し、予断を許さない状況になる
そしてあと少しで20歳というところで、とうとう俺の体は限界を迎えた
急に抗えない感じがして目を閉じたのだが、それが最期だったらしい
「ん?おお?…ここどこ?」
気づいたら全てが白い世界にいた
辺り一面が真っ白で、立っているだけで方向感覚が失われてしまう
「なんだこれ?」
いつの間にか自分の前にパソコンのキーボードらしき物が浮いている
「ホントに浮いてるな…」
適当にキーを押すと目の前に画面が現れた
「!」
画面に表示された情報から俺は確信し、つい大きな声を上げてしまう
「これあれだろ、異世界転生!マジか!不運続きな人生だったけど、最後に凄いのきたな!」
興奮を抑えられないままに、キーボードを操作していく
「しかし神様とかが直接あれこれしてくれるワケじゃないのか、まあ気兼ねしなくて良いけど」
目の前に表示されているのは転生後の自分の設定画面だった
どうやらある程度自分で好きに決めれるらしい
「年齢か…、これ0歳からとかだと誰かの子供として生まれるんだろうか」
それは嫌だった
自分の両親はあの二人だけだ
10歳とかからも考えたが、そうするとしばらく誰かに養って貰う事になるかも知れない
「やっぱりすぐに冒険とかしたいよね」
19歳からそのまま引き継ぐことにして、身体的特徴の項目にある『健康』にチェックを入れる
その時画面端にある100の表示が99になった
「ん?この数字が設定に使うポイントかな」
他の項目にある頑強や俊敏などにチェックを入れると数字はどんどん減っていく
「取り消しは…できると、う~む、計画的に使わないとな」
自分の生前の肉体はかなり貧弱だったし健康は外せない
「さて後は…ジョブか、異世界と言えばやっぱり魔法だよな!」
派手に魔法を使いたい、その一心で魔法職のカテゴリを選ぶと最初の項目に魔術師がある
「うん、そのまんまだな」
選択すると数字が大きく減る
他の魔法職も一応見てみるが僧侶や精霊術師も同じくらいの消費ポイントだった
「錬金術師だけは随分と消費が少ないな」
気になったので項目のリンクを進んでいくとオリジナルで使い魔が作れる事が判明
使い魔専用スキルがあり、種類も攻撃・防御・魔法・補助とその数はかなり多い
念のため少し戻って確認する
他の魔法職も使い魔は使役できるが、既にある使い魔から選ぶ必要があり、スキルのカスタマイズはあまりできないようだ
「なるほど、オリジナル使い魔の設定で多くポイントを使うからジョブ自体の消費が少ないのか」
しばらくスキルを眺めていたが、ある事に気づく
「これ索敵やマッピングがスキルにあるって事はゲームみたいに標準装備じゃないって事だよな、危なかったかも」
たとえ最強の魔法が使えても道に迷って遭難したり、無防備な所に不意打ちをくらえば呆気なく死にかねない
復活できたらラッキーだが、そんなシステムが無い場合には一発でおしまいだ
何より死ぬ程の痛い思いはしたくない
そんな事を考えながら、じっくりと時間をかけて設定をする
「これで…よし!」
完設定画面を見ながら最後のチェックをする
タツキ 19歳 男 錬金術師
中肉中背 健康 状態異常無効 翻訳
ユニークスキル 10倍速
ユニークアイテム 錬金術大全
ジョブスキル クリエイトポーション
永続効果・経験値90%ダウンの呪い
フィー 使い魔 猫型ジャックランタン
認識阻害 索敵 マッピング アイテム探知 視覚・聴覚リンク 鑑定 弾道計算 行動予測 大容量インベントリ
永続効果・攻撃不可の呪い
認識阻害でフィーの安全を確保、視覚・聴覚リンクで斥候も可能にし、索敵で不意打ちを防ぐ
マッピングで遭難の心配を無くし、アイテム探知と鑑定で効率的に素材採取、それを大容量インベントリに入れれば大量の素材を難なく持ち運べる
その素材から錬金術大全のレシピでアイテムを作製すれば金策も捗るだろう
弾道計算で遠距離攻撃を察知し、行動予測で近接攻撃を回避する
ユニークスキルの10倍速で多少のレベル差もひっくり返せるだろうし、勝てないならばそのスピードを活かして全力で逃げればいい
あらゆる状態異常が効かないから行動不能にならず、危険な状況も打破しやすい筈だ
正直フィーにスキルを盛りすぎた
異世界での冒険に必要なあれやこれやを考えてたらついこうなってしまった
そのせいでポイントが足りなくなったが、デメリットのある呪いを自分にかける事で設定ポイントが増える事がわかり、なんとか解決した
経験値が9割もダウンする呪いと使い魔のフィーが攻撃できない呪いがそれだ
そのポイントももう無いのでジョブスキルは弄ってないが、これ以上呪いをかけるのはさすがにマズい気がする
「10%しか入んないのは痛手だけど、経験値は時間かければ稼げるだろう。今しか取得できない10倍速と錬金術大全の方が優先だ。状態異常無効も地味だけどすごいし」
実際にポイント消費も状態異常無効が一番大きい、次いで錬金術大全だった
「フィーはサポート型だからそもそも攻撃力は微々たるものだし、あれだけの補助スキルがあればどうとでもなるだろう。うん、完璧だ!」
最後は転生する場所を決める必要がある
「地図を見た感じ大きな国は帝国と王国か。どっちがいいかな、ある程度は文化的な暮らしがしたいし。でも平和過ぎてもつまらないからな…」
色々調べていると提示される情報の中に目につくものがあった
辺境都市メティス
帝国との国境沿いにある王国第二の街
近隣にモンスターの住む森や高ランクダンジョンが多数あり、そのドロップ品の恩恵で商業都市となった冒険者の街
「これだ!冒険者の街なんて最高じゃないか!」
昂ぶる気持ちのままに決定キーを押すと世界が更に真っ白になっていった