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第5話 仏教が邪教!?魔界に堕とされた理由

「ニーニアには、皆を愛して欲しいの」


 そう、きっぱりと、さっぱりと、リュウは言い切った。


「この魔王軍には、それが必要なんだよ。私一人じゃなくて、皆を愛して。そう、ニーニアは一大ハーレムの女王になってほしいんだよ!」



――俺は、十数分前を思い返す。


 それは、リュウの部屋で、なんとか俺の記憶が戻らないかと雑談していたときだった。


 ふと、俺の耳に、美しい歌が聞こえてくる。そして、ハープか琴のような、弦楽器の音。


「?なにかしら?」


 俺が立ち上がろうとすると、リュウがぐいっと俺の袖を引っ張る。

「……?リュウ?」

 俺は、困惑したが、リュウは表情をこわばらせたままだ。


「だめ。今は、弁財天様は練習中だから、見に行ったら叱られるわ」

 弁財天?と、俺はクエスチョンマークを出す。宗教というと、俺の家では、正月飾り・クリスマス・節分・お盆と、一応の一般家庭でやるであろう行事を一通りこなすものの、さほどそれを気にしたことはなかった。つまり、宗教に対してズームすることもなかったのだ。


 弁財天といえば、俺が小学生の頃に、近くのお寺の池で、鯉に餌をやって遊んでいたことを思い出した。確か、その池付近が、いわゆる「弁天様」が棲む池だったと記憶している。


「リュウ……弁財天って……何の神様だっけ……?」

「!」

 俺がそう聞くと、リュウは、ものすごい勢いで俺の服をばさっとめくり上げると、背中辺りを指でなぞった。


「……ない……!ない!ない!吉祥天様の『お印』がない!」


 俺は、丈の長いワンピースを着ていたため、布で顔を覆われた形になる。……しかも、よく考えたら、パンツもブラジャーも丸見えだ!リュウは女の子といえど、この格好は恥ずかしすぎる。


「リュウ~~」

 俺がもごもごとつぶやくと、リュウは、やっとワンピースを元に戻してくれた。良かった、少しだけ息苦しかったのだ。


「吉祥天様のお印がない……?だからといって、他の御仏のお印もない……。どういうことなの……?記憶喪失と関係があるの……?」


 リュウは、ぶつぶつとそんなことを唱えながら、部屋を右往左往し始めた。リュウの部屋は、俺の目視では8畳といったところだが、そこを、リュウは腕を組みながら歩き始める。

 ……なんか、探偵のようである。


「吉祥天とか弁財天とかさ、魔界では、それを拝んでいるの?」

 俺がそう聞くと、リュウはやっと部屋を歩くのを止めて、俺の向かい側に座った。


「ここまで、記憶喪失が根深いとはね……。一度死んで、蘇生したのも何かの鍵なのかな……」

 リュウは、そう呟いて、ため息を漏らす。

 そして、急に、俺の顔を見ると、解説を始める。


「私たち魔族は、最初から魔界にいたわけじゃないのよ。元々は、皆、地上にいた種族だったの」

 リュウは軽く手を振る。すると、その空間に映像が現れて、人間らしき影が映った。

「その種族たちが、『邪教』を拝むと、魔族として、この魔界に堕とされることになった。魔王様も、私たちも、邪教を拝む一派なのよ。そして、その邪教というのが、いわゆる『仏教』なのね」


「仏教が邪教だって!?なによそれ!」

 俺は、思わずカチンときてそう文句を言った。俺は、宗教なんでもありの日本人だが、さすがに、小さい頃に可愛がってくれたじいちゃんが眠る墓のある宗教を馬鹿にされるのは腹が立つ。


「そうして怒ってくれると、仏様も嬉しいと思うよ。さて、邪教とされた仏教だけど、開祖のお釈迦様含む、多くの仏は、さほど気になさならなかったの。そして、それは、『悟り』に近い、位の高い如来・菩薩・観音・明王の仏ほど、そう思われたのね。でも、一番位が下だった、天部の仏は、違ったのよ」

 リュウが手をかざして、仏の、多分「天部」の一覧を呼び出す。


「天部の御仏は、仏教を守る守護の役割をしているからね。この理不尽な仏教弾圧に対して、強く自分の使命を望まれた。つまり、魔族として魔界に堕とされた信者たちを救おうと、そして地上を再び取り戻そうと考えたのよ」

 なるほど、実働部隊が天部、と考えるのか。


「そして、そのために、私たちのような力の強い信者に対して、体に『お印』を付けることによって、その法力を使うことを許した。たとえば、ニーニアのお父さん……魔王様は、守護仏を複数持っているわ。それほど魔王様の力が強いのだけど、そうして私たちは、魔界に順応すると共に、地上奪還を狙って『魔王軍』を作ったのよ」


 そこまで説明して、リュウはため息を漏らした。


「でも、今のニーニアには守護がない。かなり危険な状況よ。早急に、手を打たないと」


 そう言って、リュウは、映像に手をかざして、画面を消した。

「モニターで観るよりは、実際に駒で見た方がいいわね」

「駒?」


 すると、俺の目の前に、まるでチェス盤のように、本当に駒のように小さな仏像を並べた盤面が差し出された。

 そして、リュウはそれを部屋の真ん中のテーブルに置く。

 元々、俺は、そのテーブルの前に座っていたのだが。


「ニーニアの守護仏を決めるわ。この中で、気になった駒はない?」

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