表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

第31話 ナンバーワンアイドル

「……え? 」

 俺は、間抜けな声を出してしまった。

 

 ナンバーワンアイドルを側室に……?

 ナンバーワンアイドルと恋愛……?


 どちらも、遠い国の言葉のようで、ぴんとこない。


 というか、この美少女・ダイアナを側室にするとか、考えたことなどない。


「はい! ニーニア様と、お付き合いさせて頂きますとも! 」

 ダイアナはそう答えて、ワクワクした表情で俺を見る。

 ……なんなんだ?

 この子は、俺という人間を知らずに、そんな重要なことを決めてしまって良いのか?


「……あなたは、良いの? それで。本当に、良いの? 」

 俺は、信じられないような目でダイアナを見る。

 ダイアナは、きょとんとした表情で、俺を逆に見つめてきた。


「ええっと、もしかしてニーニア様、恋愛とかしたことない人です? 」


 …………なんだこの子は。

 何で俺が恋愛経験がろくにないと、感じ取ったのだ?


「恋愛なんて、してなくても大丈夫ですよう! あたし、人に好かれるのは得意なんです! ニーニア様も、きっとあたしのこと気に入ってくれます! 」

 そう言って、ダイアナは、俺の左腕を取って、「握手握手! 」と両手で俺の左手を握った。


「……握手は良いんだけど……。でも、ずいぶん軽いノリで結構なことを受け入れちゃうのね、あなた」


 俺は、放された左手で顔の左側を覆って、残された右目でダイアナを見つめた。

「ええー? あたしのこと、もしかして軽い女だと思ってますう? これでもちゃーんと考えたんですからね! でも、あたし、元々女の人でも平気なんで」


 俺は、頭がくらくらするのを感じた。


「それって、男も女もいけるってやつ……」

「はい! バイセクシュアルですう! 」


 だろうな。

 そもそも、女の俺と恋愛したいって、ものすごいことを平然と受け入れてしまうあたり、この子の恋愛観はそういうことなのだろう。


「あ、でも、ニーニア様はすっごくお綺麗ですよ! こんな美人さん、芸能界でも滅多に見たことないですう! あたし、ニーニア様が来たとき、観音様がいらっしゃったかと思うぐらいに、ニーニア様が輝いて見えましたし! 」

「……それはどうも」


 俺は、それを社交辞令として受け止めた。

 俺の元の世界でも、「彰くん、かっこいいからモテるでしょ? 」と親戚の集まりで叔母によく言われていたからだ。

 今思えば、叔母は実際に俺がかっこいい・かっこ悪いかなどどうでも良いのだ。

 ただ、叔母の周りにはくたびれた叔父と、自分の息子しかいないために、若い男というだけで何割か増しに見えたのだろう。


 だから、俺は、超美少女のニーニアの体に宿ったことが嬉しかったが、だからといって褒められただけで自分が魅力的であることなのかは懐疑的であった。


「むう……本当のことなんですけどね……」

 ダイアナは、俺のドライな態度が気に入らないのか、そう言って黙り込んだ。


「ダイアナ嬢。このニーニアは、少しばかり人見知りをするのです。ニーニア、お前は十分に美しい。そんなに自分を卑下するものではない」


 空気を変えるためか、魔王がそう俺とダイアナの間に割って入る。

 そして、俺に向かって、言い放った。


「ニーニア、確かにお前の言いたいこともよくわかる。だが、ダイアナ嬢は魅力的な女性だ。活発で、お前をサポートしてくれるだろう。それに、彼女はナンバーワンアイドルだ。男性と噂を立てられるよりは、王族の娘で、女であるお前に嫁いだ方が良いという、彼女の事務所の意向もある」


 そういうことか。

 俺は、ダイアナをこれまでと違う目で見た。

『アイドルは、事務所から逃れられない』。

 それが、今のダイアナの事情なのだろう。


「そっか……あなたも大変なのね、ダイアナ」


 俺は、憐憫の情を含んで、ダイアナを見る。

 しかし、そんな俺の視線を、ダイアナはキリッと自我の強い目で見返す。


「そういうんじゃありません! ニーニア様まで……私をそういう目で見るのは止めてください! 」

 その、強い言葉に、俺は「しまった」と思っていた。

 そこが、ダイアナの『触れられたくないこと』であったらしい。


「ご、ごめんなさい……」

「……え、あっ!? も、申し訳ございません! 私、ニーニア様にとんでもない無礼を……! 」

 俺が謝ると、ダイアナも、はっとした表情をして、必死で謝った。

 それはそうだろう。

 この場には、魔王がいる。

 俺の父は魔王であり、この世界のトップでもあるのだ。


 魔王の娘に自分の意志を貫くという、そんなことがあってはならない。


 ……が、しかし。


「……ふふ。……ふはははっ。良い良い。ダイアナ嬢ほど、気のしっかりとした女性の方が、ニーニアには合うだろう」

 なんと。

 魔王は、俺に見せたこともない顔で、笑ってみせたのだ。


「しかし、ニーニアにも気持ちの持ちようがあるだろう。どうだ? これからダイアナ嬢には、魔王城で暮らして貰うというのは? 」


 その、とんでもない発言に、俺は口をぱくぱくとさせた。

 アイドルだぞ!?

 しかも、こんなに可愛い子を、側室にするために、一緒に住めと!?

 

「もお、魔王様ったら、それはニーニア様の口から提案されるはずだったじゃないですか! 」

 ダイアナのその言葉に、俺は、それがダイアナと魔王との企みであったと気付いたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ