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第2話 魔王の圧力

 それから、俺は、ジョクトたちにいくつも質問された。


 誕生日は?魔王様の名は?魔界の様子は?自分の瞳の色は?


 聞いていくうちに、首を横に振り続けると、ジョクトとボルクスは段々と気の毒そうな、重病患者を見る目で俺のことを見た。

 なにせ、急に転生させられた俺は、全く何も知らされていないからなので、当然である。


「……魔王様には、ワシが言っておこう。おそらく、ショックを受けられると思うからな」

「あ、じゃあ、俺は姫に付いてるね!姫が何か思い出したら、ジョクトに報告するから!」


 そう言って、ジョクトは席を立った。

 ボルクスは、真剣な顔で、俺を見る。


「姫、姫がどんな風になっても、俺は姫のことが好きだからね」

「……うん?……あ、ええ……」


 俺は、戸惑ってしまう。もちろん、男に告白されたことはないのだが、それ以前に、俺は女子にすらモテたことは一度もなかったからである。

 そして、俺は、「ニーニア姫」がどんな顔をしているのか、気になってきた。


「ボルクス。鏡を持ってきて。何か思い出すかもしれないわ」

 ボルクスは、「そ、そっか!なるほど、そうだな!」と言って、部屋のサイドチェストにあった手鏡を持ってきてくれた。


 俺は、それをのぞき込む。


 まず、青い髪に目が行った。よくよく自分の体を見下ろすと、髪は背中辺りまで伸びている。少し癖毛なのか、毛先10cmほどはウエーブがかかっていた。

 その髪は、センターからやや右から分けており、美しい卵形の輪郭が映えていた。

 そして、極細の歯ブラシの毛先ほどもある長いまつげに覆われた、エメラルドの瞳が当たり前だがこちらを見つめていた。

 すっと通った鼻筋と、その下のリップも塗っていないのに艶やかなスカーレットの唇。そして、口角の少し下辺りにちょん、と鎮座しているホクロすら、美しい。


 俺は、完璧な美少女になっていた。


「こ、これが俺……いや、私……?」


 自分でも気持ち悪いが、自分で自分の顔を見ながら、俺はニヤニヤが止まらない。こんな美少女、アイドルでも女優でも見たことがない。

 ニヤニヤと笑うと、自然と口角が上がり、鏡の中の俺……いや、ニーニアは、美しく微笑んでいる。


「どうかな……?姫、何か思い出した?」

 ボルクスが、おそるおそるという風に尋ねる。俺は、小さく咳払いをして、できるだけにやけた顔を隠そうとする。


「いえ……何も……」

 俺がそう答えると、ボルクスは目に見えてがっかりしたようだった。

 しかし、俺は、俺が転生した「魔王の娘」が超絶美人だったことに、腹の中で笑いが止まらなかった。


「そうだね……姫、元気ないし。……あ、で、でも、ジョクトは、性格はアレだけど、ちゃんとした医療魔術の使い手だから、ジョクトに任せておけば大丈夫だって!記憶喪失だって、一時的なものだよきっと!」


 そう、ボルクスは言うが、おそらく「記憶」は永遠に戻ることはない。なにせ、ごく普通の男子高生だった俺が、ニーニアの体を乗っ取った状態にあるのだ。

 

 しかし、俺は、ボルクスの懸命な励ましに、「こいつ、良い奴かも」と思えてきた。

 だが、見た目に自信がついた俺は、「もっと良い条件の男がいるかもしれない」と、邪な打算を考え始めていた。


――と、そのとき。


「ニーニア」

 と、部屋のドアが開く音がしたと共に、呼びかけられ、俺は声のした方向へ顔を向けた。


「……あ、えっと。お父……様……?」

 豪奢なマントと、長い髪を翻し、おそらく「魔王」が部屋に戻ってきた。

 ボルクスは、椅子から立ち上がり、「魔王様!!」と敬礼する。


「……本当に、何も覚えていないのか……?」

 美麗なる魔王は、俺の顎に手を添えて、そう尋ねる。

「……はい。わかりません」

 俺がそう答えると、魔王は、「そうか」と言って、今度は俺の頬を片手で包んだ。


「……魔王様。ニーニア様の記憶喪失は、おそらく一時的なものでして……」

「一時的なものであろうと、娘が私の記憶をなくしているのだぞ?のんきなことを言っている暇はない。ジョクト、もし、このままニーニアの記憶が戻らないのならば、私はお前の首をはねる」

「あ、あの、お父様!」


 俺は、血なまぐさい方向に話が行きそうな雰囲気を察して、魔王の言葉を止める。

 魔王は、今度は俺の方に視線を移す。……その流し目だけで、ジュン、とショーツに染みができるほど、色気のある仕草だった。


「あの……ジョクトさんは、私の命の恩人でもあるのです。だから、首をはねるとかは……」

「……甘いな、お前は。これが、私の娘の言うことかと思うと、いささか腹が立つ」


 俺は、織田信長を前にしているような気分になった。多分、実際に信長を前にした手下って、こういう気持ちだったんだろうな、と今なら予想がついた。


「だが、まあいいだろう。ジョクト、ニーニアに感謝しろ。ニーニアの顔を立ててやる」


 俺は、ほっと息を吐いた。本当に、この魔王は、俺に甘いかと思えば急に厳しくなるのが読めない。


「は、ははあ~」

 ジョクトは、その場で、五体投地のような格好で土下座する。

 魔王は、「また、来る」と言って、診療室を去って行った。


「こ、こわあ~~~」

 俺は、思わずそう言ってしまう。本当に、「圧が鬼」の意味を、ひしひしと感じたのだった。

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