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第10話 魔王のお仕事

「えっ、あ、はい。承知いたしました」

 部屋の外では、何か低い声でぼそぼそと聞こえる。

 それに、リュウが、若干緊張したような声で、応対していた。


「ニーニア、魔王様が……」

 リュウが、部屋の中の俺を振り返る。

「お父様が?」

 俺は、立ち上がると、リュウの部屋の前に出た。


「……ニーニア。お前の守護仏による『お印授け』の儀式が整った」


 背が高く、灰色の長い髪をした、容姿端麗な『魔王』が、そこにいた。

 俺も、リュウと同じく、この魔王の前に出ると、緊張してしまう。


「ついては、明日、お印授けを行う。私は儀式による護摩行をしているから、お前も、今日は肉・魚を摂らないように」

「……はい」


 ついに、何らかの儀式が行われるらしい。俺は、背筋を伸ばして、できる限り失礼のない態度を取るようにしている。


「それと、ハーレムの件は了承した。お前の好きなようにやればいい。ただし、それで万が一、お前が失敗しても、それはお前の責任となることを忘れないように。これはいつも言っていることだがな」

「はい、わかりました」


 俺は、リュウと共に、頭を垂れた。魔王は、「話はそれだけだ」と言い残して、マントをなびかせて去って行った。


「……うう……緊張した~」

 俺は、未だに魔王の圧に慣れずにいた。リュウも、ほっと息をつく。


「緊張したら喉渇いちゃったね。部屋に戻ってお茶でもしましょう」

「お、いいね。やっぱ温かいお茶っていうのは、心を和ませるよね~」


 そんなことを言い合いながら、俺たちはリュウの部屋に再び引き返した。


「……そういえばリュウ、以前はかたくなに『ニーニア姫』って呼んでたのに、いつの間にか『ニーニア』って呼び捨てにしてるよね。なんで?」


 リュウは、お茶を入れるために、部屋に付いている簡易キッチンから、こちらを向いて、にこっと笑った。


 俺も、なんとなく、にこっと笑顔を返す。


 ……………………。


「……いや、無言で微笑まれても」

「んー。そうね。そういうの、もういいかなって思って」

「もういいって?」

「ほら、一応私って、今はニーニアの側室になるわけじゃない?それに、ニーニアのこと、本気で好きだってばれちゃってるわけだし?今更『姫』呼びもないかなって思ったのよ」

「ふーん……」


 俺は、納得したような、していないような、複雑な気持ちで、湯を沸かすリュウの後ろ姿を見つめる。

 ……リュウは、胸は平均的だが、お尻は安産型で、ぷりんと丸い形をしているな、と、どうでもいいことについ目が行ってしまうのは、元男の性である。


「あれ?肉と魚がだめって魔王……お父様が言ってたけど、それにしては、魔界って植物の姿ないわよね?」

 俺が、お茶を淹れて戻ってきたリュウにそう尋ねると、リュウは、やはりにこっと笑った。


「何も食べるなってことじゃないの?」

「えっ……」

「嘘嘘。冗談だよ。私たちって、一応、元は地上の種族だったじゃない?だから、一応、研究所で既に野菜や植物を育てる技術は確立されてるのよ。まあ、見ての通り、魔界って日の光が届かないから、観葉植物なんかは技術が追いついてないから、飾ったりできないんだけど」


 そうなのか?

 俺、城から出られてないから、詳しい魔界の生態とかわからんのだけど。


「ともかく、仏教徒である私たちの魔族グループでは、肉や魚を食べないために、急速に魔界でも植物が育つ環境を整える必要があったわけ。……まあ、それでも細分化すると、ネギやニラなんかの香草類がダメだったり、卵も乳製品もダメってする派閥もあるんだけど、その派閥では、やはり野菜や果物が必要とされたわけ。魔王様が『魔王』として魔界を統べているのも、その技術に力を入れ、顕在化に成功したからっていうのもあるのよ」

「ふーん、仏教徒ってめんどくさいのね」


 思わず、俺はそう、口走ってしまった。

 それもこれも、小佐田彰としての俺は、現代日本人らしく、仏教も神道もキリスト教も混在した宗教観を持っていたからだが。


 その瞬間、リュウの顔が「ん?」というような、疑問を抱えた表情になった。


 俺は、「しまった。魔界って全員仏教徒じゃん……!」と慌てて、なんとか笑みを浮かべる。

「そ、そういう宗派の仏教徒ってめんどくさいわね、って意味だけど!」


 リュウの表情が、納得いったものになる。俺は、とっさの俺の機転に感謝した。


「でも、こうしてお茶が飲めるのも、魔王様がインフラを整備してくださったおかげよ。上下水道もしっかりしてるし、電気も通ってる。暮らしていくのに不自由がないっていうのは良いわね」


 そうか、魔王って、ただ単にやたらとでかい椅子に座って、猫撫でてる仕事のわけじゃないんだな。

 民の生活を考えて、色々と細かい作業も行うってことは、魔王って、戦国大名とかと同じような仕事してるわけだ。


「……でも、それを受け継がないといけないのが、ニーニアなのよね。時々心配になるけど、しっかりね。魔王様の娘は、あなたしかいないんだから……」


 そう、リュウに告げられ、俺は「大丈夫!まっかせっとけ~!」とは言えなかった。戦国武将になる妄想は多々してきたが、まさか俺が次期魔王になろうとは。考えただけでも緊張で吐き気がした。

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