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第9話 リュウから始まる。

「ユウヅキさんに断られた。ふむ」


 翌日、俺はリュウの部屋に出向き、ユウヅキ勧誘失敗の顛末を話していた。

 リュウは、どこか困ったような顔で、俺を見つめる。


「……ニーニア姫は、本当に、その勧誘方法で女の子がハーレムに入ってくれると思ったの?」

「え?だって、ユウヅキは私のこと好きだと思ったのよ。だったら、ハーレムに入った方が色々と好都合だと思うけど?」

「……なるほどね」


 リュウは、眼鏡のつるに手をかけ、ずれてしまった眼鏡を直す。俺は、その仕草を、何とはなしに見つめていた。


「あのね、ニーニア姫。女の子には『女心』ってものがあるんだよ」

「え……聞いたことはあるけど、そうなの?」

「そうなの。で、ハーレムに入るってことは、『あなたと愛し合いたい、他にも女の子がいてもいい』っていう意味なんだけど」

「そうだよね。なんか、私、自信なくなってきちゃったよ」


 俺は、しょんぼりと顔をうつむかせる。そもそも、あの軽薄男である峰岸清悟ならともかく、地味キャラでクラスでもほとんど目立ったことのない俺は、彼女なんているはずもなく、故に『女心』と言われても、そんなもの、全くわからないのであった。


「まあ、一度断られたくらいで諦めなくても良いよ。こんな統計があるんだけどね、『女性は、一回目の告白より、二回目の告白の方が告白成功率が高い』って話があるんだよ。つまり、一回目の告白はブラフ。ただのきっかけにすぎないの。でも、一度断っても、その女性の中では『そっか、あの人私のこと好きなんだ……』って悪い気はしなくなるわけ。で、その人のことが気になるようになる。そこで、二回目の告白をしてみたら、どうかな?」

「……うん、確かに、『そんなに私のこと好きなんだ!大事にしてくれそう!』とは思うよね」

「そう。女性は、本能的に、自分を大事にしてくれそうな人に惹かれるものなのよ。ハーレムってこと自体、そこら辺が曖昧っていうか、『他の子より大事にしてくれないみたい』って自信をなくしちゃう子も多いからね。どうしても、急にハーレムに入れって言われて、すぐ『はい』って返事しちゃう子はそんなにいないよね」


 俺は、リュウの話を、これまで受けてきた、どの授業の講義よりも、真面目に聞いていた。


「そっか……そうだね。それもそうだよね」

「……でさ。私、まだだよ?」

「え?」

「私、まだ、ニーニア姫から勧誘受けてないよ?」


 俺は、目をぱちくりさせる。リュウは、少し恥ずかしそうに、目を伏せた。


「え?え、ええと…………」


 俺は、視線を泳がせた。そういうこと!?そういう状況なのか、これ!?


「リュウ、さん」

「はい」

「本当に大事にするので、私のハーレムの最初の女の子に、なってください」


 俺は、深々と頭を下げる。なので、リュウの表情は見えなかった。

 しかし、よくよく考えれば、百合ハーレムを作ること自体、リュウの提案なわけで、既にリュウがハーレムに入ることは決定しているようなものだけれど、と後から思った。


「……うふふ、はい」

「『はい』!?」


 俺は、がばっと頭を上げる。リュウは、口元に手を持っていって、くすくすと笑っていた。


「いいよ。私、ニーニアのこと好きだもの」

「お、おおおおおおおおおお!!」


 俺は、握った拳を更に強く握って、雄叫びをあげた。

 

「……ニーニア、女の子の出す声じゃなくなってる、それ」

「え、あ、そうだよねっ!?気をつけるよ!」


 俺は、はっとして、自分がヤバい声を出していたことに気がついた。そうだ。俺は、今は小佐田彰ではなく、美少女ニーニアなのだ。


「あはは、でも、これで、やっとキスできるね、ニーニア」

「え!?あ……う、うん」


 そう。

 俺は、あくまで『美少女ニーニア』だけれども、同じ女性を愛するレズビアンな女の子、ニーニアなのだ。

 リュウは、『妊娠の可能性のない、女性だけのハーレムを』と言っていたが、俺にとっては夢のような話。女の子の体で、女の子を愛することができるという、素晴らしいシステムを作り上げた、リュウに感謝を捧げていた。


 俺は、立ち上がって、今度は自分から、リュウの隣に腰を下ろした。

「……ふふ」

 

 リュウは、不敵に、そして、どこか嬉しそうに笑って、俺の行動を目で追っている。

 そして、俺たちは、見つめ合った。


「……リュウ」

「……うん」


 リュウは、俺の呼びかけに、軽くうなずいて、そっと目を閉じる。これは、多分、俺から行った方が良いのだろうと思い、俺は唇を近づける。


 ふと、「鼻はどうするんだっけ?」という疑問が湧いてきた。次々に、「呼吸は止めた方が良いんだろうか」「てか、キスってそもそも詳しくはどうするんだ?あ、リュウの眼鏡は外した方が……」という疑問質問で、頭がいっぱいになる。


「……ニーニア?」

 リュウが、どこか不安そうな声で尋ねる。目もばっちり開いており、その視線すら不安そうに揺れていた。

 

 ……そこで、急に、ドアがノックされた。


「あっ、はーい!」

 リュウは、今までの空気が何だったのかと思うほど、軽やかに、なんでもなかったかのように返事をして、正座した状態から立ち上がる。

 

 ……俺は、本当に、自分自身の情けなさに泣けと言われれば泣けた。キスの一つも演出できずに、ハーレムなんて作れるのか!?俺。

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