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となりの世界は魔法世界  作者: きの
暗殺者が守るもの
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第62話 深まる疑惑と、仮面の襲撃

「――以上が僕に見聞きしたことです。犯人は彼女だと思います」


 歩の告白に集まった面々に沈黙が流れる。歩が話している場所は、夜営業が終了した後のグレッグの店であった。集まっていたのは、真春に亜紗、ソフィア、エル、グレッグである。歩の膝には何故かシアが座っており、すやすやと寝息を立てていた。

 重苦しい空気の中言葉を発したのは、グレッグである。


「その嬢ちゃんが犯人だとしても、今すぐ捕まえることは出来んな。一連の暗殺について、犯人を特定する証拠は何もない。目撃者もいない。話を聞く限り、嬢ちゃんは実行役だろう。だが、今無理に捕まえても、依頼者を見つけなければ、第2の実行役が現れるだけだな」


 グレッグの言葉に対面に座っていた真春が頷いて言った。


「私の方は被害者を再度洗い直したわ。そしたら、被害者は政府高官以外にもいることが分かった」


 真春の斜め向かいに座っているソフィアが口を挟む。イリーナは家で療養中だ。


「高官以外に? 予告状があったの?」


 ソフィアの言い分は最もである。今まで、被害者は政府高官という前提だったはずだ。真春がソフィアを見て淡々と調べた事実を説明する。


「予告状はなし。ただ、手口がそっくりなの。恐らく同じ犯人によるものだと思う。被害者は3人、政府高官ではなくて裏の仕事を生業にしてる人間だったわ。接点は調査中」


 次に口を開いたのは、真春の隣に座っている亜紗だった。


「その殺害はいつなんだい?」


「初めて高官が暗殺される前よ。時期的には1年前ね」


 真春の回答を受けて、亜紗が少し考え込む。沈黙の後に、机に置かれた紅茶を一口飲んで、自分の所見を述べた。


「今の所、予告状が無い殺人について考えられる可能性はいくつかある。1つ、全く関係ない。1つ、練習として殺された。1つ、依頼者が別々。いずれにせよ、マルテくんの交友関係と過去を洗った方が良い。なぜ、今回オーナーが狙われたのかも気になる」


 ここで、弱々しく手を上げたのはエルだった。エルはある程度ショックを受けているようで、顔が少し青白い。だが、自分を奮い立たせるように一瞬目を閉じ、気持ちを切り替えて言った。


「あの、マルテさんの後をつけるのは?」


 エルなりにマルテが犯人ではないことへの希望的観測の発言なのかもしれなかった。だが、亜紗が涼しい顔でNGを出す。


「止めた方が良いだろう。相手が犯人の場合、相当の手練れだ。安易な尾行は気付かれ、最悪殺される可能性もある。一条君が逃げれたのは、本当に幸運だった」


 亜紗の説明に真春とソフィアが同意を示す。真春の頷きは別のものを感じたが。エルも納得したのか、潔く引き下がった。他に意見がないのを確認して、グレッグが全員を順に見渡した後、最後に何故か視線を歩に向ける。それに気付いた歩が、頭を軽く掻きながら答えにくそうに言った。


「もう1つ気になることがあります。マルテが会っていた人物が付けていた仮面は――シアが森で襲われた集団が付けていた仮面と同じものでした」



「ナターリエさんを診て頂けるなんて、ありがとうございます」


 深々とお辞儀をしているのは、孤児院の院長だった。孤児院に集まったのは、歩とエル、亜紗である。医者でもある亜紗に対して、歩とエルがナターリエの健康状態を診るように懇願していたのだ。


「分かった。私も聞いていて気になっていたからね。後、君たちがこれ以上無茶をしないように監督の意味も含めて行くよ」


 亜紗が承諾する際に言った言葉の背景には、これ以上今回の事件に歩とエルが深入りしないことを強く念押しされた経緯がある。

 孤児院からナターリエの家まで行く道すがら、歩たちは院長に世間話をしていたが、頃合いを見て歩が本題を聞いた。


「込み入ったことを聞くのですが、ナターリエさんは体調が悪そうに見えました。何か病気なのですか? 大人の姿が見えないのも心配でして……」


 丁寧かつ、本当に心配な姿勢を前面に出す。興味本位の質問ではないこと感じ取った院長先生は少し考えこんだ後、こう答えた。


「……そうですね、皆さんには話しても良いかもしれません。グレッグさんのお知り合いでもありますし」


 柔らかな物腰と口調で歩たちに話し始める。そういえば、グレッグとはどんな関係なのだろうかと歩は考えたが、今は院長の話に集中することにした。


「ナターリエさんは元々体が弱いだけでなく、心臓に疾患を抱えているんですよ。私が知り合った時には、既に母親は亡くなっていました。残る父親も2年前に亡くなり、身寄りがないのです」


「病院には行っているんですか?」


 歩が質問する。


「時々は行っているようです。ただ、経済的に余裕はなく、今は妹さんの稼ぎで何とか生活と薬を少し貰っている状況です。うちからも支援すると言っているのですが、彼女の性格でしょう。頑として受け入れてくれないので、今は週に1度差し入れを預けています」


 院長が言葉を選びながら答える様子を見ると、かなり複雑な家庭環境なことが伺えた。すると、今度はエルが院長に聞く。


「あの、ナターリエさんとマルテさんは血の繋がった家族なんですか?」


「ええ、2人は血の繋がった姉妹です。ただ、あの子の家にいる小さな子供3人とは血縁関はありません。3人は元々あの辺りにいた孤児で、いつの間にか一緒に住み始めたようです。孤児院に来るように何度も話をしたんですが、姉妹を慕っているのでしょう。離れたがらないのです」


 頬に手を当てて、院長は困惑と心配そうな表情をしながら語った。そうこうしている内に、一行はナターリエの家求で辿り着く。陽が出ている時間帯にも係わらず、相変わらずあまり治安の良い場所ではない。いつもは、マルテが孤児院まで差し入れを取りに来るらしい。

 薄汚れた玄関をノックすると、先日穴を開けた窓から視線を感じる。しばらくすると、扉の開く音がして眼鏡の女の子が姿を見せて言った。


「あら、院長先生、こんにちは。あなたたちも来たのね」


 相変わらずのクールな対応に苦笑しつつも、歩たちは家の中へと入る。台所は先日来た時と違って紙が散乱していた。紙といっても、大分質の悪いぼろ紙だ。そこには、絵がいくつも描かれていた。見られたのに気付いたのか、恥ずかしそうに慌てて紙を片付ける。

 その間に、奥から銀髪の少女と男の子が出てきた。歩たちの顔を見ると笑顔で、


「あー! 院長先生にお兄ちゃんたち!」


「こんにちは!」


 差し入れを渡しながら、歩が3人に聞く。


「あれ? 今日マルテさんは?」


「今日はねー、用事があるんだって! ねー!」


 銀髪の女の子が同意を求めると、男の子は勢いよく頷いた。マルテがいないことに安堵したのは、歩だけではないはずだ。

 挨拶もそこそこに、院長が奥の部屋をノックすると、扉の向こうから声がする。


「はい、どうぞ」


 少し細いが、しっかりとした声だ。部屋に入ると、ナターリエは先日と同じくベッドに寝ていた。前回来た時は暗くて分からなかったが、部屋には窓があり、今はカーテンと共に開け放たれている。窓から入る光が存外明るく、ナターリエの顔色を見るには十分であった。


「本日は私のためにありがとうございます」


 ナターリエがベッドから上半身だけを起こし、深々とお辞儀をする。顔色を見る分には、体調は悪くなさそうだった。面識はないが、ナターリエは白衣を着ている亜紗を見つけて、


「あなたがお医者様でしょようか? 私、ナターリエと言います。今日は本当にありがとうございます」


 再び頭を下げるナターリエに対し、亜紗の返事はいつも通り簡素なものだった。


「ええ、六道亜紗です。初めまして。では、早速始めましょう」



 一方、真春はいつものスーツを着て、路地裏に佇んでいた。ここは、魔法使の家が並ぶ区画である。路地裏と言っても、車が十分通れる広さがあり、道も十二分に舗装されていた。周りは民家の塀が壁のように立ち並び、日陰が広がっている。

 昼間であるはずなのに、辺りには人の気配がしない。それを確認した上で、誰もいないはずの空間に向かい真春が話し掛ける。


「いい加減、出てきたら? ここなら誰もいないわよ」


 静寂が続いた後、ふわりとした風が真春の黒髪を撫でる。

 風が止んだ後、真春の近くの日陰から不意に人影が現れていた。いや、今まで闇と同化していたと言った方が正しいだろうか。その気配の消し方は、常人では全く分からない程だった。

 姿を現したのは、仮面を被り黒い外套に身を包んだ人物である。その仮面は、歩が見たものと一緒だった。真春が相手を一瞥して、苛立たしげに言う。


「こっちは、これから商談の予定なのよ。用があるなら早くしてくれる?」


 真春の問いに、仮面の人物は無言のまま――


「問答無用ってわけね」


 真春の言葉通り、仮面の人物からは明確な殺意が発せられる。そして、外套から抜くように取り出した物に真春が驚きの声を上げた。


「! 黒い刀……」


 その刀の色と形状は、地下闘技場で見た忘れもしない漆黒の刃であった。


仕事が忙しくて遅れました、、、

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