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となりの世界は魔法世界  作者: きの
暗殺者が守るもの
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第61話 聞き取りと、最悪の展開

――魔法世界


「と言うように、オーナーの部屋に入るには専用のカードキーが必要です。これを持っているのは、本人と私のみ。扉は分厚い鋼鉄製、部屋の前には24時間体制で屈強な警備が付いていますので、安全は相当に保障されています」


 シャリアが目の前に座った歩に説明している。歩は頷きながら、質問をした。


「相手がシャリアさんや真春さんだった場合は?」


 その質問にシャリアが驚いたような表情をする。顎に手を当て考えた答えは、


「面白い質問をしますね。警備の男どもは軽く蹴散らせるでしょう。ただ、あの扉を破るのは骨が折れますわ。対魔力コーティングがされてますし、一定以上の衝撃が加わった場合、闘技場全体に非常警報が鳴る仕掛けになっていす。決して不可能ではないですが、私ならやりたくないですね」


 考えながら答えているのだろうが、時折その瞳には心底楽しんでいる様子が伺えた。



「ここから出る時はないのかだと?」


 オーナーが訝しむように歩を見る。その手は、葉巻が握られており、部屋は少し煙たい。歩は次にオーナーの部屋に来ていた。


「予告状が来てからは一切出ておらん。出る気はない」


「あそこの窓は?」


 歩が指をさした先には、闘技場を見渡せる壁一面の窓がある。今はカーテンが閉まっていたが。


「試合以外は窓もカーテンをしておるし、窓自体が特殊なガラスで作らせたからな。この部屋から出ないことが一番の安全よ!」


 強気なオーナーの答えにどこか違和感を感じたが、歩は別の質問をする。


「そういえば、会って日が浅いですが、シャリアさんは凄く有能な方ですね」


「良い女だろう?」


 打って変ったかのように、オーナーが笑みを浮かべる。余程自慢のようだ。手招きをするので、近づいていくと、耳元で囁くように歩に言った。


「抱き心地も最高だぞ」


 その顔は下品かつ不快極まりなかったが、歩は適当に興味あるように頷く。


「あんな素晴らしい女性をどうやって傍に置いたんですか?」


「知りたいか?」


「ぜひ」


 歩の問いに、オーナーが上機嫌そうにクックッと笑う。気持ち悪いなと思いながらも、それを全く表に出さずに歩は話に耳を傾けた。


「シャリアは闘技場の元チャンプでな、その姿に惚れ込んだわけよ。闘技場に出る奴は大抵金が目当てだから、金でシャリアを買おうとしたんだが、全く相手にされなくてな。ちょいと調べたら……」


 ここでオーナーが言葉を区切り、葉巻をふかし始める。香りを楽しんだ後に大きく息を吐いた。吸い込んだ煙以上に吐いた量が多い気がして、歩は内心嫌な気持ちになる。


「本職が殺し屋で、単に腕を磨くために参加していてな。だから、作戦を変更して、その親元と直談判したんだ」


「殺し屋なら、お金でどうにかなりそうですけど」


 歩が話の途中で口を挟んだ。本来なら失礼かもしれないが、歩の問いをオーナーは特に気にせず、むしろ何度も頷いていた。


「そうだろう。だが、シャリアは親元から離れたくないらしくて、手に入れるのに苦労したわ。全ては俺の交渉手腕よ!」



「姐さんっすか、姐さんは俺たちを救ってくれた恩人ですよ」


「その通り、姐さんがいなかったら、俺ら全員今頃ブタ箱よ」


 オーナーの部屋を後にした歩は、続いて屈強な警備員たちから話を聞いていた。来たのはある警備員の部屋だ。どうやら、2人1組で住み込みしているらしい。

 シャリアを熱く語っているのは、歩とそう年齢の変わらない男たちであった。1人はモヒカン、もう1人は角刈りのため、見た目は同じ年齢とは思えなかったが。


「オーナーは気に入らないが、姐さんの命令だから喜んで従ってるぜ!」


 モヒカン頭の男が親指を立てる。真っ赤なモヒカンが邪魔で話がいまいち頭に入ってこない。今気付いたが、鼻ピアスもしていた。角刈り頭が隣でしきりに頷いている。

 頭が悪そうに見えるが、これでも一応シャリアから一通りの訓練を受けているらしい。魔法も使えるとのことだ。

 シャリアについて聞くと、


「姐さんの過去? そんなのは、どうでも良いのさ。姐さんに救って貰った命、姐さんのために使うだけよ!」


 角刈りの男が、威勢よく拳を突き上げて言うのを歩は静かに観察していた。



 ある程度質問したいことを聞いた後、本日の警護は終わりで良いと連絡がある。


「さて、どうするかな 」


 そう言いながらも、歩の足は自然と孤児院に向かっていた。子どもたちの元気な声が聞こえてくる。

 だが今日は孤児院の子供とスタッフだけでなく、別の人物たちも来ているようだった。


「あ、この間のお兄ちゃん!」


「よう」


 孤児院に着くと、元気な子供の声だけでなく、ぶっきらぼうな声もする。聞こえた方を見ると、入口の柱に背を預け、片手を軽くあげるマルテがいた。相変わらず、腰には刀を下げている。傍らには、先日見た子供たちが歩を見つけて手を大きく振っていた。

 歩も手を振りながら、しゃがんで子供たちと話す。


「お、今日は遊びに来たの?」


 歩の問いに子供の1人、銀髪の女の子が答える。


「うん、時々遊びに来るのよ!」


 女の子の言葉に隣にいた大人しそうな男の子が反応する。


「ナタリーお姉ちゃんも来れれば良かったね」


 男の子は、銀髪の女の子と、その隣にいる女の子を交互に見る。

 こちらは、眼鏡をかけたおかっぱ頭が特徴的だった。


「ナタリー姉は無理でしょ」


 冷静に、ともすれば突き放すような言い方で眼鏡の女の子が答えた。その反応は普段通りなのか、男の子は特に平然としている。

 挨拶もほどほどに、ナターリエの家にいた子供3人は孤児院の子たちと遊びに行った。

 歩とマルテがしばらく入口付近で子供たちの様子を眺めている。その間、歩はマルテの様子をそっと窺っていた。

 気付いたことは、彼女の子供を見つめる視線が穏やかで年相応なものであることだ。しばらく子供たちの様子を見た後、歩がマルテに問いかける。


「お姉さん、元気?」


「ああ、今日は大丈夫だよ。うちの姉は生まれつき体が悪いんだよ……」


 それ以上は語りたくないのか、マルテが押し黙る。歩も深追いすることはせず、互いに無言のまま子供たちを見つめていた。

 5分ほど経った時だろうか、不意にマルテの気配が消える。

 その行動は、常人であれば全く気が付かない程見事なものだった。見えない空気を纏うようにして、孤児院を静かに去ったのだ。遊んでいる子供たちも孤児院のスタッフもマルテがいなくなったことに気付いていない。

 更に、程なくして歩も同じように姿が消える。そのことに気付く者はこれまた誰もいないのであった。



(どこに向かう?)


 マルテが気配を消していなくなった数秒後、歩は彼女の後を尾行していた。まだ夕方前の明るい時間帯である。孤児院を去り、彼女は自分の家の方へ向かっていた。だが、家へ行くかと思ったマルテの姿は小道に消える。

 歩も続くが、そこは細く入り組んだ陽の光の当たらない裏路地だった。薄暗い中には、得体のしれない物やゴミ、全く動かない人らしき姿もある。


(こういう所を行政は放っておかないで欲しいな)


 歩が周りを警戒しながら、 少し急ぐ。なぜなら、 その道に入った途端、マルテの移動速度が上がったからだ。油断していると、見失いそうになる。いくつもの角を曲がり、足を止めたのは、何の変哲もない1つの細道であった。

 道は行き止まりではなく、角に曲がれるようだが、マルテは角っこの壁に背を預けている。他に人はいないようだ。

 得体のしれない物陰に隠れながら、歩が様子を窺っていると、やがて薄暗い中から第3者の声が聞こえてきた。


「変更する」


 その声は曲がり角の奥から聞こえてくる。暗い路地の中から見えたのは、仮面を付け、外套を頭から被った人間だった。外套が黒いため、周りの景色と同化していて、仮面だけが闇の中に浮かんでいるように感じる。

 不気味な人物の短い言葉に対して、マルテは背中を預け、視線を交わさないまま答えた。


「変更? 何かあったのか?」


「修正が生じた。それだけだ。目的は変わらない――闘技場のオーナーの死だ」


 聞こえてきたのは、考えられる限り最悪の展開だった。

年末年始、休んじゃいました、、、

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