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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
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第54話 意識へのダイブと、本気の決着

――魔界にて


「魂が繋がっている?」


 魔王との一戦が終わった後に呼び止められた歩は目を大きく見開く。

 視線の先には魔王がいた。玉座に座り、肩肘をつきながら、歩と特に隣にいるシアをじっと見ている。娘を見つめる瞳には慈愛が見て取れた。

 当のシアは歩と手を繋ぎながら、不思議そうに魔王を見ている。


「それは一体どういう……?」


「お前たちは今魂が重なり合っている。本来ならあり得ぬ。魂が繋がっているから、互いの位置を感じ取れるし、どちらかが死んだらもう片方も死ぬ」


「……解決方法は?」


「現状分からん。無理に引き離そうとすれば、命を落とす可能性もある。その子の記憶喪失もお前の体と魂が繋がっていることが原因だろう。互いが異界に転移してきた時に偶然混ざったとしか思えん」


 魔王の説明に歩が沈黙する。シアは事情が飲み込めないのか、キョトンとしていた。


「それが治れば、僕は元の世界だけに戻れるのでしょうか?」


 歩が自分の体で懸念していることを質問する。


「おそらくな」


「……分かりました。自分でも調べてみます」


(すべきことが1つ増えたな。いや、1つになって明確になった)


 歩が心の中で再決意した。


(あとは……)


 歩がしゃがんでシアと同じ目線に立つ。


「シア」


「なあに? お兄ちゃん?」


 シアが透明で澄んだ瞳を向ける。


「覚えてないかもしれないけど、目の前にいるのが、シアのお父さんなんだよ」


「え? ……おとうさん?」


 シアの大きな目が魔王に向く。まじまじと父親を見た後、恐る恐る切り出した。


「……パパなの?」


 その言葉に、魔王が目を丸くする。

 しばらく動かずにいた後、驚くべきことに魔王自ら玉座から降りてシアに近づいた。

 そのまま、歩と同じようにしゃがみこむ。


「今はまだ思い出せないだろうが、俺が父親だ」


 その瞳と言葉、態度から感じられるのは、親から子への愛情以外の何物でもなかった。



 結果として、シアは父親を受け入れた。何が魔王の態度に感じる所があったのだろう。娘を優しく抱擁した後、2人に向かって、


「本来ならシアをこちらの世界に置いておきたいが、残念なことに今ここはあまり安全ではなくてな。人間よ、お前にシアを預ける。心配するな、俺の魔力で守りもする。魂の方も調べんとな」


 その守る手段の1つが――例のぬいぐるみである。持っているだけで、対象者を強力に守るだけでなく、こちらから呼びかければ会話が出来る仕掛けだ。ぬいぐるみ型の携帯電話とも言える。最も、この存在を知るのは歩とシアだけであったが。



――現在


 シアが竜のぬいぐるみの頬にあたる箇所を引っ張りながら、


「パパ! お兄ちゃんに謝って!」


 烈火のごとく怒る娘を前に、魔王がタジタジになる。


「分かった、分かった。……すまんな、一条歩」


 殊勝に謝る魔王と娘のやり取りを見て、何故だか複雑な気持ちになる歩であった。



「この人間か……」


 魔王の低い声がぬいぐるみから聞こえる。シアが両手を上に伸ばして、魔王がイリーナの全体を見渡せるように頑張っていた。


「魔力粒が影響を与えているな。こいつが上手く体内で循環しないと、積み重なり最悪死を招く。マハルと言ったか。お前の姉よりも症状が重いが、取り除けば意識が戻るだろう」


 魔王が少し観察しただけで、イリーナの容態を看破する。それに対し歩が、


「ということは、イリーナさんにずっと触れていれば良い?」


 歩の発言にシアがムッとした顔をする。そんな娘の様子に気付いたかは不明だが、魔王がぬいぐるみ越しに嘆息していた。


「以前聞いた時も思ったが、そんな原始的な方法をよく行ったな。まして、今のお前には毒だぞ。全く、人間とは昔からアホな生き物なのは変わらずか。……よい、今回は俺が力を貸してやろう」


 魔王が指示を出す。といっても、その内容は歩とシアが手を繋ぐだけだったが。ぬいぐるみはシアのもう片方の手に抱えられている。


「手順を説明するぞ。この状態のまま、その娘に触れろ。俺の魔力でお前の意識を娘の中に入れるから、中心部へ行き一番の原因となっている魔力粒を除去してこい」


「え? それって結局力ずく……」


 魔王の手順に歩が頭に疑問を浮かべる。


「つべこべ言わずに行って来い! 時間がないんだろう?」


「え? ……はい!」


 答えるや否や、歩の意識が遠くなる。


 歩の目が覚めると、そこは真っ暗だった。少し先も見通せぬ暗闇の中である。何か光源がないかと辺りを見回すも、闇が広がるばかりだ。

 確かに感じるのは、今自分がイリーナの中にいるということだけだった。


(彼女に包まれている感じだ。それにしても、ここからどこに行けば? いや、待てよ)


 よくよく感覚を研ぎ澄ませると、少し進んだところから異常な何かを感じる。

 目が暗闇に慣れたのを見計らって、慎重に移動した。進んで気付いたが、自分の足音が全くしない。本当に意識だけで動いているようだ。障害物もなく、ただ闇が広がっているだけ。方向感覚が分からなくなりながらも、目的地へと進んで行く。

 あと少しで辿り着きそうだと思った時だった。


(誰かいる!?)


 正確に言えば、誰かが近づいて来ているのだったが、歩は混乱していた。

 今ここに、他の何者かがいるはずがないのだ。

 歩は急いで身を隠せそうな場所を探すが、周りが同じ色をしていたため、辺りにあるのかが分からなかった。


(くっ!)


 歩が取れた行動は、気配を出来る限り消して、息を潜めることだけだった。やがて、何者かの独り言と思われる声が聞こえてくる。


「この女も違ったか。まぁいい、次に行くか」


 暗闇にいた人物は歩に気がつくことなく、いつの間にか姿を消していた。

 相手がいなくなった後も、歩はしばらく動かない。考えを巡らせていたが、自分1人では解決が難しいと判断して再び前に進むことにした。


「ここか」


 広がっていたのは闇よりも深い闇だった。周りの闇を一層濃くしたような空間が目の前に現れる。


「これは、生きているのか?」


 歩が言ったのも無理はない。深い闇からは意思を持っているかのような感覚が時折感じ取れた。

 蠢く闇を目の前にして歩は、


「ま、これが何であれどうでもいいか。……さぁ、イリーナさんを取り戻そう」


 その片方の瞳には、静かな炎が灯っていた。



――王立博物館跡地


「「はあっ!」」


 魔法と魔法がぶつかり合う。拮抗した力は、互いを引きつけるように動いた後、爆発した。強烈な爆風と光が辺りを覆う。もはや、博物館跡地は微塵も昨日の形を保っていない。辺りは塵と化しており、森が丸々1つ消えている。


「そろそろ30分は経ちますね。これ以上被害が広がらないことを願いますが……」


 亜紗が変わらず防御魔法を展開しながら、横にいるエンドレフに話しかける。


「そうですな。ただ、そろそろ均衡が崩れてもおかしくない頃合いです」


 真春とソフィアの激しい攻防を見たエンドレフが、自身の知識と経験に基づいた予言をする。

 そして、その言葉通りに事態が動き出した。


「いい加減、決着をつけようじゃない」


 口火を切ったのはソフィアだった。


「そうね。いいわよ」


 真春が肯定、互いに距離を取ると、ソフィアが先に魔法を展開する。


「グロムアート・クリエートカ!(雷獄の檻)」


 勢いよく掌を地面にあてると、瞬時にソフィアの魔力が地表を走る。そして、魔力の光が辺り一帯の地面を覆った直後、魔法が発動した。空間がねじ曲がる。


「あれは!」


 少し離れた場所から2人を見ていた亜紗が声をあげる。


「対象を空間内に留める言わば牢獄ですな。一度入れば抜け出すことはほぼ不可能。更に、内部は雷が蹂躙しています」


 エンドレフの話に亜紗から驚嘆の言葉が飛び出す。


「全く、あんなに強力な魔法をここまでの範囲で展開できるとは……」


 亜紗の足元を見ると、すぐ傍までソフィアの魔法が迫っていた。


「どうやらお嬢様はこれで決める気ですな」


 雷鳴が轟いている。空は晴れているのにだ。空間に閉じ込められた途端に、真春はソフィアを見失っていた。


(来る!)


 真春が左前方に大きく飛ぶ。数コンマ後、先程までいた場所に雷の雨が突き刺さった。触れただけでも重傷になる攻撃が矢継ぎ早に繰り出される。真春の魔力防御でなければ、とっくに命を落としていただろう。

 恐るべき天性の勘と身体能力で、何とか攻撃を躱していた真春にソフィアが追い打ちをかける。


「オブスチャーヤ・アターカ!(全攻撃)」


 着地のタイミングを狙って、全ての方向から雷撃の波が押し寄せる。何者をも滅する逃げようのない一撃。真春はここに来てようやく本当に理解した。それほどまでの怒りだったのかと。

 躱せないと悟った真春は動かなかった。

 ただ一言、


「四天」


 雷同士がぶつかる轟音が響く。だが、そこに真春はいなかった。


「!」


 ソフィアが驚く。この領域にいる限り、相手がどこにいるのかは赤子の手をひねるよりも簡単だ。

 真春がいたのは、つい先程までいた場所とはかなり離れていた。


「ぶつけてあげるわよ。全力で」


 真春が人知れず呟いた。

 ソフィアが間髪入れずに雷を放つが、搔き消えるように姿が消える。


(私の攻撃スピードを上回っている!?)


 信じたくはなかったが、真春の速さを肌で感じたソフィアが戦慄する。真春がいるはずの場所に攻撃するも、肝心の真春が既にその場にいない。

 攻撃をする度に真春が近づいて来る。

 ソフィアの攻撃が当たらない。

 その間に真春がついにソフィアを探し当てる。

 対峙する2人の間に言葉はない。それなのに、両者が動いたのは合図をしたかのように同じタイミングであった。


「!」


 ソフィアが魔力を総動員して、雷を放った。威力・スピード共に今日最大の紫電は真春を完全に捉える。

 しかし、真春の速さが僅かに上回った。

 瞬きも出来ない時間で真春がソフィアの正面に立つ。


「四天・迅」


 容赦などない本気の一撃がソフィアを打ちのめした。

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