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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
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第53話 2人の魔女と、邂逅

 ――どうしてお兄ちゃんはこんなに頑張るのだろう。

 あんなに苦しそうにして進むのが見ていられない。一方踏み出すたびに、痛みに顔をしかめ、時には膝をついている。

 それでも、立ち上がって進む様子に私はしかめっ面になる。

 朝、私はお願いをされた。すごく嬉しかった。お兄ちゃんの役に立ちたいと思ってたから。

 でも、今は少し後悔している。

 以前パパに聞いたら、魔法は今のお兄ちゃんにとって毒以外の何物でもない。

 大切な人の為ならわかる。でも、聞けば数回しか会ったことのない人らしい。

 そんな人のためにお兄ちゃんが傷つくのが嫌だった。

 両手に抱えたぬいぐるみをギュッと抱きしめる。


「どうして、そこまでするの……」


 言うつもりはなかったのに、勝手に口が動く。感情が抑えきれなかった。



「どうしてか。そうだね……」


 魔法障壁が張られた病院内を少しずつだが、着実に進んでいた歩がシアの言葉に立ち止まる。シアに背中を見せたまま、


「師匠に昔言われたんだ。正しいことをしなさいって。正しいことが何なのかわからない時もあるけど……。少なくとも、世界が滅ぶかもしれない方法が正しいとは思えない。それに……」


 歩が後ろ振り返る。


「寂しいじゃないか。妹さんが目覚めたときに見る世界がボロボロだなんて」


 シアが歩の返答に目を点にする。大きな瞳を閉じて何かを一生懸命に考え込んだ後、目を開けると、


「わかんない、わかんないよ」


 シアが俯きながら、小さな声を出す。だが、すぐに顔を上げて言った。


「でも、お兄ちゃんの事は信じれる! だから、私信じるよ!」



 一方、博物館跡地

 ソフィアが苦虫を噛み潰したような顔している。


「害のない、ただの平凡な男だと思っていたけど、違ったみたいね。とんだ計算違いだわ」


「あいつを甘く見ないほうがいいわよ」


 真春の言葉、今実際に肌で感じている異変にソフィアは動揺しているように見えた。しかし、


「それなら、マハル・イノーレンツ、あなたを倒して男の方も潰してあげるわ。殺しはしないけどね」

 

 ソフィアの魔力が一気に高まった。魔法で淡く輝く姿の中には、先ほどまでなかった鋭い音と紫色の光が見える。バチっと連続的に聞こえる音は、紛れもなく雷が発生している音だった。


「――雷電の魔女」


「またの名を雷電の女王とも呼ばれていますな。あれが、お嬢様の本気です。……さて、一筋縄ではいきませんぞ」

 ポツリと亜紗が呟くと、すかさずエンドレフが補足をした。


「オーディン・ウダー・グロム(紫電の一刺し)」


 先に動いたのはソフィアだった。

 一瞬のうちに右手から紫色の光が放たれる。ほとんど雷に近い魔法の軌道は、一直線に真春を指していた。

 超人的な勘か、攻撃を読んでいたのか、真春のすぐそばを閃光が通り過ぎる。光は音よりも早い。直後、雷鳴に似た音が耳をつんざき、光の通り道にあった瓦礫が一瞬で灰と化す。


「ベスチスレニー・シュトリキヒ(無数の雷撃)」


 躱されたことを特に気にしない様子で、ソフィアが言葉をつなぐと、無数の魔方陣が現れる。


「ゆけ!」


 ソフィアの合図で魔方陣から一斉に光が放たれた。雷の属性を帯びているのか、先ほどまでの魔法とは威力・スピードともに桁違いなことがわかる。

 眩いばかりの光が襲う。

 その中を真春はあえて前に飛び出してきた。

 無数の魔法を躱すのではなく、己の間力で相殺、あるいは魔法をぶつけ威力を削いでいる。1つ間違えれば、致命傷になりかねない状況にもかかわらず、確実にソフィアとの距離を縮めていた。

 そして、間断なき攻撃の合間、本当に針で糸を通すような隙間を縫って大きく前方へ跳躍する。

 不意打ちに近い形。そのまま、真春の拳がソフィアを捉えようとするか、


「!」


 真春の目の前に突如魔方陣が出現する。


(これは、罠魔法! しかも――)


 魔方陣から放たれようとしたのは、先ほどソフィアが放った紫電の一刺しであった。


「っ! はあっ!」


 信じられないことに、真春がその一撃を、天高く蹴り飛ばした。

 直後に、複数の魔方陣が出現し、真春に牙を剥く。


「はっ!」


 対する真春もほぼ同時に至近距離から魔法を放った。

 光の奔流がぶつかり合い、大きな衝撃を生んだ。爆風のような激しい風に両者の距離が離れる。


「ふ~、危ない危ない」


 風とそれに伴い発生した土煙の中から、真春が姿を現す。


「本当にでたらめな女っ!」


 真春の無事を確認して、ソフィアが苦々しい表情をする。


「で、これで終わり?」


 真春が威嚇気味にソフィアを見つめる。その挑発にソフィアが思いのほか反応した。


「あんたは変わらないわね。あの時だって……」



 ――10年前、魔法大会にて


「勝負あり! それまで!」


 審判の声とともに大歓声が沸き起こる。


「強い! ソフィア・ブラガロード! わずか10歳で史上初の3連覇なるか!?」


 実況席にいる暑苦しそうな男が、絶叫に近い音量を出して叫ぶ。

 満員の会場の注目を浴びているのは、1人の少女――ソフィア・ブラガロードであった。

 このときのソフィアは絶対的自信に満ちていた。高名な家柄、類まれなる魔法量、何をしても平均以上取れるセンス、その容姿からモデルもしていることもあり、国の内外から注目を浴びていたのだ。


「さぁ、今年の決勝戦は異例の戦いだ! 両者とも10代の少女!」


 実況の声でソフィアは初めて自分の対戦相手が同じ年頃だと気づく。


「始めて参りましょう! 1人目は、今や知らない者はいない、3連覇なるか! ソフィア・ブラガロード!」


 大歓声を受けながら、先にソフィアが闘技場のステージに立つ。応援の声にもしっかりと手を振って応えていた。


「続いてもう1人は、無名の新人! 決勝まで全てKO勝ち、ハル・マーデッド!」


 出てきたのは、なぜか身分を偽った13歳の真春あった。観客からの歓声に全く応えることなく、無表情でつまらなさそうに舞台の上に上がる。

 やたら綺麗な黒髪が印象的な美少女だった。ただし、目つきは最悪だったが。

 その態度が気に障ったのか、ソフィアが真春を挑発する。


「あなたが私の対戦相手? 見ない顔ね。まぁ、せいぜい私を楽しませてくださいな」



「勝負あり! 何ということだ! 勝者はハル・マーデッド! 圧倒的、圧倒的な優勝です!」


 実況の声が耳に入らない。ソフィアはただ呆然としている。

 最初こそソフィアが優勢のように見えたが、ある時を境に状況は一変した。

 最後の一手、相手の逃げ道をわざと誘導する罠も不発に終わり、難なく場外に落とされた。真春が強すぎたのだ。

 ソフィアが唇を噛み締める。

 真春はソフィアが最後の一手を繰り出すまで黒髪のままだった。今まで魔法を使用せずに勝ち進んだ真春が、大会で初めて魔法を使用したという事実をソフィアは知る由もない。

 ただソフィアが感じたのは、相手の強さ、悔しさ、そして、


「これで終わり?」


 自身と相手に対する怒りだった。


 ――現在に戻り、


「全く五傑同士の戦いとは末恐ろしいですね。今の魔法省が見たら、どんな顔するか」


 飛んでくる瓦礫の破片や突風を魔法で防ぎながら、亜紗がエンドレフに話しかける。魔法は2人を包むように展開されていた。


「まず、魔法が使えない私を守って頂いて感謝申し上げます。お2人の戦いですが、ここが王都から離れた場所で本当に良かったと思います。それに、」


 エンドレフがソフィアの方を見る。その瞳には間違いなく慈愛が潜んでいた。


「お嬢様にとって、良い機会だと思います」


 ソフィアが怒りをぶつける。


「許さない。私はあの日から血の滲むような努力をしてきた。マハル・イノーレンツ、あなたに勝つために! それなのに、あんたはあの年以来大会に参加しなかった!」


 ソフィアの感情の高まりに呼応するかのように、彼女の魔力が膨れる。周囲に展開している魔方陣からは怒りの雷鳴が聞こえてきた。


「私もあの子もこれで終わりなんかじゃない! その先をあんたに見せつける!」


 ソフィアの怒りを真春はただ受け入れる。


「上等じゃない。全て見せてみなさいよ!」


 ただ目の前の相手をぶちのめしたい。2人の間に去来する思いは今初めて重なった。

 最終ラウンドが始まる。



 ――病院にて


「やっと着いた」


 歩が病院の地下にあるイリーナのいる病室へとたどり着く。


「お兄ちゃん……」


 そんな歩をすぐ後から心配そうにシアが見つめている。それもそのはず。歩はボロボロだった。外見が傷ついているわけではない。だが、肉体の内側が絶え間ない魔法吸収により疲弊しきっていた。前に進むたび壮絶な痛みを伴っていたはずだ。今立っていること自体が奇跡に近い。


「さぁ、入ろうか」


 扉を静かに開け、中に入る。イリーナの病室には全くソフィアの魔法がなかった。一瞬、罠かとも思ったが、


(この部屋にだけは出来なかったのか……)


 部屋の中央にあるカプセルに近づく。そこには、昨日と変わらず目を覚まさないイリーナがいた。


「このお姉ちゃんがお兄ちゃんの助けたい人?」


 シアが横からカプセルを背伸びして覗き込む。


「うん、そうだよ」


 歩が簡潔に答えると、


「そっか。うん、わたし頑張るよ! 何をすればいい?」


 シアが笑顔を向けながら、歩に尋ねる。


「ありがとう。まずは、魔王様、聞いているんでしょう?」


 歩がシアの方を向いて言う。視線は彼女が抱いているぬいぐるみに注がれていた。当然、ぬいぐるみから返事は無い。


「……あのー、魔王様?」


 歩が再び話しかけるも、応答はなかった。

 その様子にしびれを切らしたのは静かにしていたシアだった。


「もう、パパ! お兄ちゃんにちゃんと返事して!」


 すると、


「……少し急用があってな。で、どうした人の子よ」


 竜の形をした可愛らしいぬいぐるみから聞こえたのは、紛れもなく魔界の王の声だった。

遅くなり申し訳ないです。

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