表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
53/64

第52話 待ち望んだ、戦い

「ぶっ飛ばす? そう、面白いじゃない。まだ時間はあるから、乗ってあげましょう」


 ソフィアが真春の言葉に応じる。冷静な態度を見せていたが、近くにいた亜紗にはソフィアの中に渦巻く怒りの炎が見て取れた。


(ここまでは、計画通りか。全く無茶なことをする……)


 今回の計画を聞いた時、亜紗は一部懸念を表した。個人で対処するのではなく、国家の力を借りた方が良いと。ただ、国や軍を動かすにしても、時間がないだけでなく、今の軍には少し問題があるため躊躇していた。また、動かす理由にも問題があった。建国王の日記や異界の扉などは、一般的に伝説だったり、認知されていない。さしもの亜紗も、歩たちの策に乗らざるを得なかった。


(彼が戻ってくるまでに、時間稼ぎがどの程度できるかだな……)


「1つ質問が。そちらのエンドレフさんは参戦しないのだろうか?」


 亜紗が懸念していたことを質問する。


「ご安心ください。先ほども言いましたが、私は見守る役です」


 エンドレフの答えを聞いて、亜紗が心の中で安堵する。隣にいる真春も同じ思いだろう。


「そう、エンドレフと戦うのも楽しみだったんだけど」


 真春が思ってもいないことをおくびにも出さずに答えた。エンドレフは真春の言葉を世辞と捉えたのか、軽く会釈を返すだけだ。

 その時、椅子に座ったままのソフィアが口を出す。


「それで、勝負のルールは?」


「ルール? シンプルにどちらかが倒れるまで、で良いでしょう? それに、ここなら多少暴れても問題なさそうだし」


「良いでしょう」


 真春との会話を終えたソフィアが椅子から立ち上がると、その距離をゆっくりと詰める。


「「装填!」」


 合図があった訳ではない。だが、示し合わせたかのように声が重なり、両者に魔力が充填される。


「はぁっ!」


 強者2人の戦いが始まるのであった。


 先に攻撃を仕掛けたのは、ソフィアだった。魔力で強化された拳は、女といえど当たればただでは済まない。それを難なく躱した真春が、お返しに手刀を横薙ぎに撃つ。首筋に向かって放たれた手刀は威力、スピード共に申し分なかったが、何重にも展開されたソフィアの防御魔法によって阻まれた。


「相変わらず守るのが上手いわね」


「守るだけじゃないわよ」


 直後――真春の目の前に魔方陣が現れ、魔法が直撃する。その威力に後方へと真春が吹き飛んだ。


「やるじゃない」


 真春が無傷な姿を見て、ソフィアが舌打ちをする。


「腹立つ、なんで無傷なのよ!」


 その後も激しい攻防が続いた。真春のスピードとパワーのある攻撃に対し、ソフィアが魔方陣を展開して防御と攻撃を織り交ぜて対抗する。どこから来るか分からないソフィアの魔方陣に真春が攻めあぐねているようにも見えた。

 その様子を見ていた亜紗が、


「さすがですね。攻防のバランスという意味では、ソフィア君に分がある」


「確かにお嬢様の魔法は強力です。あの魔方陣で攻撃、防御、罠として設置も可能という点で汎用性が高い。加えて、お嬢様自身の魔力の高さ、若いながらも様々積んだ経験と類まれなるセンスも加味すれば、この国で敵う物は早々いないでしょう」


 亜紗の隣にいつの間にか移動してきたエンドレフに向かって自分の意見を述べると、冷静な答えが返ってきた。どこから取り出したのか、黒い日傘を開くと、亜紗に陽が当たらないようにしている。


「……ありがとうございます」


 思わぬ対応に亜紗が感謝の言葉を発するも、よくよく考えると、イノーレンツ家の執事であるから、このくらいは出来て当然なのかもしれないと思った。もっとも、身長差があるため、少し高い位置に傘はあったが。


「ただ、マハル様はまだ本気を出していませんね。まぁ、彼女が本気を出せば、国1つ簡単に滅ぶでしょうからセーブせざるを得ない部分もあるとは思いますが……」


 まだ始まって数分も経っていないのに、2人の状況をエンドレフが言い当てた。真春があまり力を出していないことに対して、何か裏があるのではと疑念を持っている。だが、問われた亜紗は、いつもの涼しい顔で、


「本気をまだ出していないのは、ソフィア君も同じなのでないですか? 得意の雷属性も出していないですし、何より彼女は――」


 亜紗が言い終える直前、目の前で信じられない出来事が起きた。


――遡ること数十秒前

 真春が鋭い攻撃を繰り出せば、ソフィアは魔方陣の防御とカウンターで応戦をする。


「得意の雷は出さないの?」


「あなたの方こそ、もう少し本気を出したら! あの時と同じように手加減してでも勝てると思っているの?」


 ソフィアが意味するあの時が魔法大会のことだと気付き、真春が怪訝な顔をする。その表情で悟ったのか、ソフィアが静かな怒りを湧き上がらせた。


「やっぱり、覚えていないのね。上等、嫌でも思い出させてあげるわ!」


 ソフィアの感情の高まりと共に攻撃が激しくなる。


「これが防げて?」

 

 ソフィアの声で、真春の前方を除く四方から魔法陣が出現し、一斉に眩い光が放たれる。今までの比ではない数と威力が襲い掛かった。

 対する真春はあろうことか、己の後方に魔法を放ち――自らの魔法による爆発的な加速を得て前方に飛ぶ。ソフィアの懐に入るや否や、その胴体に向けて拳を撃つ。


 奇しくも、この流れは以前に真春とソフィアが魔法大会で戦った時と同じだった。その時は、真春が完膚なきまでに勝ち、ソフィアは真春の奇策になすすべもなかったのだ。

 真春はこの時までソフィアとの魔法大会での出来事をほとんど覚えていなかった。

 だが、体は覚えていた。この数分しか経っていない戦いの中で、体が直感的に思い出したのだ。この目の前の女と戦ったことがあると。体から脳へ記憶が蘇るのに時間はかからなかった。

 ようやく、真春は理解する。この攻撃は罠であり、意図的に昔と同じにしていると。しかし、それに気付いたのは、既にソフィアに向かい拳をふるう所であった。


(止められない!)


 その時、真春の心の叫びを嘲笑うかのように、ソフィアがほくそ笑んだ気がした。

 ソフィアは向かってくる真春の攻撃を避け、手首を掴む。その綺麗な躱し方からは、どこを狙って来るのか、分かっているかのようだった。

 そして、真春の勢いとパワーを殺さずに、ただ重心だけを崩すと――そのまま勢いよく投げた。

 凄まじい音と共に真春が瓦礫に激突する。

 岩をも簡単に砕く威力を持った自身の攻撃が自分に跳ね返って来ていた。加えて、相当のスピードが重なった攻撃がだ。

 この間、僅かに数秒。後には、瓦礫が崩れたことによる土煙と、その中心を見つめるソフィアの姿があった。


「……今の見慣れない技はもしや?」


 目の前で起きた光景に、信じられない顔をした亜紗が隣にいるエンドレフに疑問を投げかける。


「柔術という今では使われなくなった武術の一種ですな。……お嬢様は大会で負けた翌日からいつも考えていました。マハル様に勝つことを。あの時は歯が立たなかったから、何としても見返したい。……それ以来、お嬢様の頭の中にあったのは、イリーナ様とマハル様のことだけと言っても過言ではないでしょう」


「……随分と重い気持ちですね」


 いつもの涼しい表情になった亜紗が答える。その様子にエンドレフが、


「どうやら、亜紗様が驚いたのは、マハル様の心配ではなかったようですな」


 問われた亜紗が一瞬頭に疑問を浮かべる。だが、すぐに合点がいったのか、


「ああ、そうですね。マハルの心配はしていませんよ。何故なら……」


 亜紗が視線を土煙の中心に向けた時だった。魔法による風が視界の悪さを跡形もなく消し去る。


「今のは効いたわ……」


 声と共に瓦礫の中から現れたのは、紅目の魔女――真春その人であった。


「! 芯は完全に捉えたはず……面白いじゃない」


 ソフィアが驚きつつも、不敵に笑う。


「激突する直前に魔法を逆噴射のように放ち、威力を最低限相殺しましたな。先程のお嬢様のカウンターで決まったと思いましたが、全く出鱈目な方だ。もっとも、無傷とはいかなかったようですが」


 エンドレフの言う通り、真春の体を見ると、相応のダメージを負っていることが伺えた。自分の強力な魔力を返されたのだから、立ち上がれる方が異常と言うべきだろう。


「! どういうこと……」


 これから第2回戦を始めようとした時だった。

 ソフィアが異変を感知し、遠くの空を見上げる。

 驚きと混乱に満ちた表情からは、あれだけ望んだ真春との戦いを中断せざるを得ないことが窺い知れた。


「私の魔法が削られている!?」


 ソフィアの悲鳴に似た叫びが辺りに響く。釣られて、皆が同じ方角に目を向けた。その先にあるのは――イリーナのいる病院であり、今は歩がいる方向に違いなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ