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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
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第48話 怒るユニコーンと、亜紗の推理

一方、病院では――


「さて、声をずっと出し続けるのも大変だし……」


 何回かユニコーンの攻撃を躱した歩が、空中に浮遊する獣を見て言うと、

 パン! パン! パパパン!

 連続的に甲高く響く音。ユニコーンが当然反応し、その大きな体躯を向けた先には、歩が手を叩いて音を出していた。

 纏った雷を鳴くように放電させながら、ユニコーンが音の方向へ鋭い体当たりをする。烈風と雷が過ぎ去った後には何も残らない。その中を歩は無傷で避けていた。ロビーに鳴り響くのは、リズム良く聞こえる手拍子とその直後に起こる風雷の音。

 驚くべきことに、歩は一歩も動いてはいなかった。それにもかかわらず、ユニコーンの攻撃を躱している。いや、ユニコーンが攻撃を外していた。

 一際大きい放電の音を放つ。

 魔法で作られたユニコーンに感情などある筈もない。だが、その行為は鳴りやまない手拍子に対して雄叫びをあげているようにしか見えなかった。


「見つけた!」


 歩がユニコーンを引き付けている中、小さな声を出したのは亜紗だった。地面に座り、魔法杖を持ったまま目を閉じ、自身の魔法に集中している。すぐ近くから聞こえる音は耳に入らないようだった。

 黒子の魔法を使って15分が経とうとする頃である。


「やはり、複数設置してあったか」


 目を閉じた亜紗の脳裏には、黒子たちが見ている映像が流れ込んできていた。淡い輝きを放つ魔法石が階段の下や机の上に無造作に置かれている。


「さて、時間がない。壊させてもらおう」


 亜紗が指令を伝えると、魔法石を発見した黒子が形状を変化させ、口を大きく開けた形になる。そのまま、食事をするかのように魔法石を一飲みにするのだった。


「これは!」


 歩が真っ先に異変に気付く。魔力の源を絶たれたユニコーンの体が瓦解しつつあった。


「さすが、亜紗さん」


 安堵した歩へ最後の力を振り絞ったユニコーンの体当たりが迫った。今までで一番大きい雷音を出した獣が歩を補足する。相変わらず全く動かない歩の眼前まで来たユニコーンだが、歩に触れる寸前で魔法のようにその体を消滅させるのだった。


「全く、君は。私をあまり冷や冷やさせないでくれ」


 ユニコーンの攻撃による風が収まり、後ろから聞こえる声に振り向く。そこには、事を終えた亜紗がジト目で歩を見つめていた。


「さぁ、地下へ行きますか!」


 ロビーを通り過ぎた先にある階段を使い、目的の地下へ向かう。本来は、位置的に非常階段として設置してあるのだろう。関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を堂々と越えながら歩は思った。

 階段を下りると、鍵のかかった扉が道をふさぐ。それを黙々と調べていた亜紗がふと声をあげた。


「おや、これは魔法で解除する扉だな」


「魔法で、ですか?」


 亜紗の独り言とも取れる言葉を歩が拾う。拾ってしまったと思った時には遅かった。


「ああ、開閉に魔力を流し込む鍵だ。このタイプの鍵のメリットは、セキュリティの強さにある。何せ、魔法を使えないと開かない。流す魔力も、決められた魔力量と形を流さないといけない。鍵を持つ必要がないから、紛失リスクもなし。しかも、これは最新のものだ。魔法石と連動させてある。石に予め魔力を注ぎ、その魔力を持つ者しか受け付けない代物になっている。まるで、」


「個人識別装置ですね! それはそうと、どうやって中に入りますか?」


 歩が熱の入りかけた亜紗の説明をぶった切る。


「む、心配はない。さっき壊した魔法石の中に、この鍵の分もあったようだ」


 冷静に戻った亜紗が、扉を押すと苦もなく目の前が開いた。


「さぁ、いこうか」


 細長い廊下に出て目的の部屋までは特段何もなかった。白い引き戸の扉も鍵の類はかかっていない。あまりにも何事もなく、イリーナがどこかに移されたのではないかと思った程だった。

 部屋に鎮座する楕円形のカプセルと、その中に青白く照らされるイリーナを見て歩はホッとする。


「なるほど、ふむ。ふんふん……」


 部屋に入るや否や、明かりを点けた亜紗がそこかしこを調べ始める。調査に熱中し出した亜紗には話し掛けない方が良いことを知っている歩は、カプセルの中にいるイリーナに近づいた。

 機械の青白い光に照らされ、彼女の白い陶器のような肌が病的に見える。一糸纏わぬ姿は、彼女のスラっとしたスタイルを強調させていたが、歩は全く別の観点から考えを巡らせていた。


(やっぱり、生きている。でもこの感じは……)


 透明な液体の中に浮かぶイリーナは全く目を覚ます様子がない。部屋の様子は、前回来た時と大差なかっ

た。部屋の半分を占めるカプセルと機械類、そこら中に積まれた専門書や書類が散らかっている。

 しばらくイリーナの様子を伺ったり、辺りの資料を読んでいた歩だったが、


「そういうことか……」


 静かな部屋の中で、背後から亜紗の呟きが聞こえる。亜紗の方を向くと、何やら機械のデータと書類を見比べていた。傍らには、この国の地図と思しき本が開いてある。彼女の顔は、いつも通りの冷静な様子であった。


「何かわかったんですね?」


「いくつか分かったことがある。1つ。彼女の容体だ。データやカルテを見る限り、意識不明の原因は分からない。それから、生命活動の低下が見られる。正直もう長くないだろう」


 亜紗が真顔で淡々と医者が患者に病気を告げるように話す。亜紗のことを知らない人であれば、動揺で言葉が耳に入らなかったかもしれない。


「次に2つ目だ。この部屋に積まれた書類や本のうち、下にあるものは最新の医療論文や治療についてが大半を占めている。ところが、上に積まれたものは……」


 亜紗が実際に机や床に積まれた本や資料を指差す。歩が近づき見てみると、確かに下や埃の被っているものは亜紗の言った通りのタイトルの資料があった。一方、上に置かれた本をいくつか手に取る。そこには、「バイオテクノロジー」、「魔法工学」、「国の歴史」、「美術名鑑」。どれも、ペンで字がびっしりと書いてあった。

 歩の行動を見て亜紗が話を再開する。


「3つ。ソフィアの字と見られるメモがいくつかある。後で見て貰ってもいいが、ある種の執念が垣間見える内容だ。これだけの資料を揃えて目を通すのは、相当な労力であり、狂気と言っても良いものを感じる。彼女が余程大事なんだろう」


「狂気……」


 歩が亜紗の言葉を反芻する。何かを考えている歩に気付きながらも、亜紗は、


「このカプセルの中の彼女については、いくつかの推測が成り立つが、今はそれよりも大事なことがある。ソフィアが何をしようとしているのかだ」


 そう言った亜紗は1枚のメモを歩に見せる。そこには、殴り書きされたいくつかの数字があった。


「これは?」


「緯度経度だ。これをこの部屋にある地図と照らし合わせると……」


 亜紗が地図を指し示した先は、森の中の一角であった。疑問を浮かべる歩に対し、亜紗が答えたのは、


「ここは、旧王立博物館跡。知っての通り、異界の扉がある場所だ」

投稿遅れました。すみません。

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