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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
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第47話 病院での戦いと、フロットの告白

「あぶな!」


 凄まじいスピードでユニコーンが歩の傍を突進していった。雷で出来た体躯が通り過ぎる度に周囲に焼け焦げた匂いがする。触るなどもっての外、突進に伴って起きる暴風により、病院のロビーは今や大部分が破壊されていた。


「さすがは五傑の1人、ソフィア・ブラガロードだ。こんな素晴らしい魔法が見れるとは! わかるかい? この魔法を再現するには、相当の魔力量と魔法操作の能力が必要なんだ」


 亜紗が興奮気味に歩に話しかける。


「今、その話はどうでも良くないですかね!?」


 吹き飛び無残な姿になったソファの背に息を潜めながら、歩が隣で冷静に話す亜紗を宥める。

 大きめの声に反応したのか、ユニコーンの視線がソファに向かった。


「博物館で使った亜紗さんの魔法でどうにかなりませんか?」


 その様子を見ながら、歩が亜紗に問いかける。直後にユニコーンの雷を帯びた突進が襲い掛かった。


「ああ、私もそう思っていたところだ。……装填、黒球!」


 ユニコーンの前に躍り出た亜紗が手に持った魔法杖をかざす。不気味な漆黒の球がたちまち人間サイズの大きさになり、目の前に迫っていたユニコーンを飲み込んでいった。対象を消した魔法は役割を終えたとばかりに掻き消える。


「うまくいったか。黒球はあまり素早い動きが苦手でね。まぁ、自分を囮にするのはもうしたくないな……? どうした、一条君?」


 自身の魔法の説明をしていた亜紗が不思議がる。


 バチン! バチン! バチン!

 聞き覚えのある音に亜紗の動きが止まる。歩が指差す亜紗の真後ろを振り返ると――倒したはずのユニコーンが再び姿を現していた。



「なるほど。消滅させると、補填される仕組みだったか。これは興味深い」


 2体目のユニコーンを魔法で飲み込み、3体目が現れたことで亜紗が自身の考えに確信を持つ。


「何か事態打開の方法はあります?」


「解決アプローチは2つ。これは先程の結界と同じで魔法石によるもの。1つは、魔法石の魔力がなくなるまで一角獣を倒し続けること。2つ目は力の源である魔法石を探して壊すことだ」


 歩と亜紗がソファから飛び出した。背中にユニコーンが駆け抜けたことによる強風を受けて、前のめりになりながら柱の陰に隠れる。


「だが、2つとも問題がある。先ほど言った1つ目の案は、魔法石の残り魔力が分からないから、あと何体倒せば良いのか不明。しかも、このまま戦い続けた場合、地下室を含めこの病院を破壊する可能性がある。2つ目の案では、どこに魔法石があるのか探すのに時間がかかる」


 小声で歩の耳元に亜紗が懸念点を伝える。隠れている柱の太さがギリギリ2人分で、触れあってこそいなかったが、ほぼ2人の距離は零距離であった。

 亜紗はかなりの美人であるにもかかわらず、歩は慌てることなく小さく冷静な声で亜紗に耳打ちする。


「ということは、ある程度時間さえあれば石の在処が分かるということですよね?」


「ああ、それとあの一角獣だが、ある一定以上の音に反応しているな。魔法石による魔法はあまり複雑なことは通常行えない」


 亜紗の言葉に歩が柱の陰から少し顔を出してユニコーンの様子を伺う。ユニコーンは何かを待っているように、ただ立っていた。


「試してみよう」


 亜紗が足元にあった瓦礫を遠くに投げた。床と接触した瓦礫が音を立てる。

 ユニコーンの方を見ると、音のした方向に向かって走り出していた。


「本当ですね。それで、どうやって石を探すんです?」


「これだ」


 亜紗が目の前に手をかざすと、小さな黒い球が出来る。次に、黒球を引き延ばすように手を上に伸ばすと、


「黒子の人形?」


 2人の目の前には、人形の形をした黒い何かがいた。顔がないため不気味に見えるが、1頭身で短い手足をしていたため、可愛らしさが優っていた。


「最近私が考えた試作品だ。魔法を探知できる。ただ、操作にまだ難があって、集中しないといけない。この広さを探すとなると、何体も作る必要があるから、どうしても一定以上の音も出る」


「つまり、囮がいると」


 歩を亜紗が見つめる。

 珍しく、その瞳には躊躇いが見受けられた。


「魔法が使えないから危ないとか、僕に何かあったら真春さんに申し訳ないって考えてます?」


 亜紗が沈黙で答える。


「大丈夫です、何の覚悟もなしに来てません。それに、逃げるのは苦手じゃないんですよ」


 親指を立てて笑った顔で亜紗に答える。その仕草よりも、歩の目を見た亜紗は自身の決意を固めたようだった。


「分かった。……一条君、頼んだよ」


「了解です」


 その言葉と共に、柱の陰から歩が飛び出す。ユニコーンに向かい、


「こっちだ!」


 ユニコーンが歩の声に応じる。亜紗が背後で風を切る雷の音を聞きながら、


「さて、こっちも始めよう。……集え」


 亜紗が大きく手を振ると、先程の黒い球がいくつも出てくる。手早く黒い球を引き延ばし、あっと言う間に黒子を何体も誕生させた。


「よし、行くんだ」


 亜紗の号令で、小さな黒子たちが一斉に散り始める。小さな足音を立てながら、各階に消えていった。



 一方、馬車の中では、


「家を抜けるって、貴族を捨てることよね。そんなことをしたら……」


「ああ、貴族の権利を捨てるだけでなく、もう魔法界に居場所は無くなるだろうね。逆を言えば、そこまでの覚悟がないとできない行為ということだ」


 フロットの声は良く通る低い声だ。その声色に隠された重い何かを感じて、真春が思わず押し黙る。


「ただ、さっきも言ったが確証はない。それに、私はソフィアくんの父親をよく知っている。彼が父として許すとは思えない。……まぁ、話を戻そう。君たちはソフィアくんの妹を調べているね?」


 言葉尻からも、真春に向ける視線からも確信を持っているようだった。


「ええ、偶然病院の地下をね」


「そうか……」


 フロットが真春の回答に考え込む。数秒経った後、口を開いたが、その顔は今まで真春が数回しか見た事のない真剣な表情だった。


「これからの話を聞いたら、この先は道が2つしかない。私と同じ共犯になるか、……もしくは糾弾するか。答えによっては、私たち親子の縁の問題にまで発展しかねない。マハル、その覚悟はあるかい?」


 表情にこそ出さなかったが、真春は内心かなり驚いていた。こちらに向けた顔つきは実の娘に対するものではない。それでも、真春は間髪入れずに、


「ええ、あるわよ」


「……そうか。なら、私の知っていることを話そう」


 そう言うと、フロットが一呼吸おいて話し始めた。


「事の発端は10年前に遡る。ブラガロード家には10歳になる双子の女の子がいた。妹は元来病弱でね、体調が悪化して……亡くなった」


「亡くなった? ずっと意識が戻らない状態じゃなくて?」


 真春が疑問を呈するのも無理はない。歩たちの認識では、魔法世界のソフィアの妹は現在病院の地下で意識不明の状態にあると考えている。現実世界では、意識不明になっているのは妹ではなく姉の方であったが。


「法律上は亡くなったのは確かだ。私も息を引き取る時に病院にいたし、身内のみの葬儀にも出たからね」


「法律上?」


 真春がオウム返しで言葉を口にする。何かを勘違いしていた。それに気付いているのか、いないのか、フロットが話を続ける。


「ああ、この国において、妹イリーナくんは戸籍上も死んでいる。だが、残っていたんだ……冷凍保存された脳が」


 誰かが唾を飲み込む音がした。真春はそれが自身であることに気付く。


「冷凍保存って、誰が? なんのために? 葬儀もしたのに?」


 真春の口から出てくるのは短い言葉の連続だった。自分が頭の中で整理できていないのだ。その様子に対し、フロットがゆっくりと子供を落ち着かせるように、


「1つ1つ答えよう。多分もっと驚くから、出来る限り順を追って話す。まず、妹の脳を冷凍保存したのは、姉であるソフィアくんだ。葬儀が終わるまで、私はもちろん、彼女の両親も全く知らなかった」


 フロットの話に真春が即座に質問しようとする。だが、それを手で制してフロットが話を続けた。


「もちろん、彼女は当時10歳。神童と言われていたが、それでも1人で行ったとは思えない。だが、今その話は置いておこう。とにかく、私が脳のことを知ったのはイリーナくんの葬儀から半年後だ。父親からソフィアくんがとんでもないことをしたと相談を受けて、ブラガロード家へ行った。そこで見たのは……妹の脳を移植された姉のクローン体だ」

隔週投稿はキープしたい

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