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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
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第44話 ゴーレムとの、戦い

 その男は非常に目立つ格好をしていた。

 全身を青と白のストライプ模様が入ったスーツに身を包み、頭には同じ模様のかなり高さのあるシルクハットを被っている。更に、胸元には蝶ネクタイ、手には高級そうなステッキを持っていた。

 まるで、文明開化の時代にタイムスリップしたのではと錯覚させる出で立ちである。

 本来なら、現れた男の非日常さに目を白黒させる所であるが、歩は男の言った言葉に考えを巡らせていた。


「父親……?」


 ワンテンポ遅れて、ようやく目の前にいるのが魔法世界での真春の父親だと認識する。


「わざと人気のない裏通りに入り、私が尾行しているのを確信したというところか」


 真春の父親の言葉に歩が辺りを見回す。

 歩が入り込んだのは、大通りをかなり外れた人気のない住宅街の一角だった。周りに民家や平家はあるものの、夕方のこの時間は皆働きに出ているのか、ひっそりとしている。

 地面は大通りと違って、舗装されておらず、土が剥き出しになっていた。おまけに狭い道が多い。歩が立っているのも、人1人が通れるくらいの道幅しかなかった。

 周囲の様子からは、貧困街とまでは言わないものの、この辺りがあまり経済的に余裕のない地域に見える。


(一番の問題は……)


 歩が後ろを振り返る。そこに道はなく、袋小路になっていた。

 真春の父親との距離は15メートルほど。


「真春さんのお父さんですか? はじめまして、一条歩です。僕に何かご用でしょうか?」


 歩が落ち着いた様子で話しながら、何かないかと自分の持ち物を確認する。持っていたのは、客のサインが記された受取書と筆記具、小銭だった。


「ああ、話の前にごめんね。装填」


 父親がステッキを地面に向け軽く叩くと、何かが地面に走った。

 歩が危険を感じて、前方に跳躍する。今しがた立っていた場所を見ると、地面から土で出来た腕が生えていた。人間の腕の形をしており、何かを探すように腕が動いている。


(これは……)


 歩が言葉を失っていると、


「アースハンド(大地の手)だよ。それにしても、良い反射神経をしているね。では、数を増やそうか」


 再び、父親がステッキを地面に向け軽く叩く。


「ちょっと、お父さん! 話があるんじゃ……」


 歩が抗議の声を上げる。だが、地面から出てきた複数のアースハンドが歩に迫る様子を見て、回避行動に移らざるを得なかった。

 現れた5つの腕が歩を取り囲み、拘束しようとその大きな手を広げる。地面を泳ぐように進むスピードは思った以上に素早かった。

 歩とアースハンドが入れ替り立ち替り動くのを見て、


「まるで、ダンスを踊っているようだねぇ。さて、私は少し見物させて貰うよ」


 フロットはポケットから煙草とオイルライターを取り出して一服し始める。恰好は奇抜だが、歩を観察する目つきや態度は只者ではないことを示していた。


「フロットさん、話を聞いて下さい!」


 歩は狭い道幅の中で、自分を捕まえようとするアースハンドを左右に躱しながら、父親に相変わらず呼び掛けていた。

 しばらくの間、追いかけっこをしていたが、襲われる隙間を縫うようにして歩が前方へ躍り出る。その勢いのまま走り、一気にフロットとの距離を詰めた。肌と肌が触れるほどの距離にまで近づいた時、


「!」


 歩が突然後ろに跳んだ。


「やはり、良い反射神経だ。勘も良いね」


 フロットの足元には、いつの間にか現れ、歩に向かって突き出された土色の腕があった。その腕は、アースハンドよりも太く岩のように硬そうな形をしている。

 何より、腕より下があった。出てきている途中と言えば良いのか。

 やがて、地面から姿を見せたのは2メートルの高さはあるゴーレムだった。


(来る!)


 土色をした人型のゴーレムが歩に向かって動き出す。筋骨隆々な骨格に、硬そうな岩でできた鎧を身に付けている様子は、ゲームに出てくるゴーレムそのものだった。1つ違うところがあるとすれば、


「!」


 その体躯からは想像できない程のスピードでゴーレムが近づいていた。足元を見ると、ゴーレムの足が地面に沈んでいる。地面と同化した足を大地がベルコトンベアのように自動で運んでいるように見えた。

 不意に、ゴーレムの腕から何かが発射される。

 体を捻り躱した歩が何かとみると、


「ツタ?」


 掃除機の巻き戻るコードのように、瞬時に緑色のツタがゴーレムの手元に戻っていく。

 今度は、両方の腕から数本のツタを歩に放った。しなやかな音を立てて伸びるツタを歩が紙一重で避けていく。


「気を付けてくれたまえ、私のゴーレムは体内に植物を生成しているんでね」


 フロットが美味しそうにタバコを吸いながら、他人事のように歩を見て言った。

 その間にも歩との差を縮めたゴーレムが、丸田並みに太さのある腕を振り下ろす。強烈な風切音が歩の数センチ隣で起きた。まともに受けたら無事では済まない攻撃をすんでのところで躱す。

 後方から、アースハンドが間近に来ている気配を歩は感じながら、


(前門の虎、後門の狼か。時間もそんなに無い……)


 ゴーレムの野太い腕が繰り出した横薙ぎの一撃をぎりぎりで避けた歩が、突然動きを止める。ゴーレムとアースハンドがほんの僅かに警戒したのか、歩と同じように一瞬止まるが、何事もないことが分かると直ぐに攻撃を再開した。

 ゴーレムの鋭く重い拳と、アースハンドの猛襲が歩に襲い掛かる。それに対して、歩は全く動こうとしない。

 フロットが怪訝な顔をする。

 次の瞬間、ゴーレムが貫いたのは、歩ではなく何か小型の物体だった。


「あれは……ライター!?」


 慌ててフロットが自分の懐を探る。そこには、さっきまで確かにあったオイルライターの姿が消えていた。

 歩を捕まえようと、勢いよくスピードを出していたアースハンドは、標的を急に見失い、その勢いのままゴーレムに激突する。

 ゴーレムにオイルライターのガスが飛び散ったのはほぼ同時だった。


「バイ」


 歩が手にしているのは、火のついたタバコ。

 躊躇いなく歩がそれを投げる。自身も巻き込まれる可能性のある距離にいるにも関わらず。


「!」


 フロットが驚いた顔をする中、火はガスに引火し、瞬く間に燃え広がる。植物という可燃物を持ったゴーレムを中心として、辺りが凄まじい炎に包まれるのだった。


「危なかったぁ」


 燃え盛る炎の中から直ぐに飛び出してきたのは、少し煤焦げた歩だった。

 濛々とした煙が空に向かって伸びている。


「全く驚いたよ。娘が興味を持つのもある意味頷ける。……ただ、私の魔法はそんなにやわじゃないがね」


 帽子のつばに指を掛けながら、フロットが燃える火に目を向ける。

 動いていた、炎が。

 ゴーレムもアースハンドも大してダメージを受けていない。体を燃やしながら、歩の方に向かって来ていた。


「さて、君はどうする?」


 フロットの問いかけに、歩は慌てることなく落ち着きを払っていた。


「ゴーレムが倒れるかどうか、そんなことはどうでもいいんです」


 一呼吸置き、息を思いきり吸い込んだ後、


「火事だーーーーーーーーー!!!」


 と、叫んだ。

連休中にできる限り書きたいです。

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