第43話 入院少女と、父親
魔法世界で建国王が活躍したのを500年前から1000年前に変更しました。
「ああ、お姉ちゃんが入院してるのは3年前からです」
花瓶の水を無事に取り替えた歩たちは、病室を出て2階の休憩室に座っていた。
「3年前……」
イリーナの言葉に歩が隣にいる真春の方を見る。視線を向けられた真春は何も答えなかったが、何かを考えている様子であった。
「本当にどうしちゃったんでしょうかね」
イリーナが物憂げな表情を浮かべる。
言葉をかけようと歩が口を開いた時だった。
「お姉ちゃんたち、綺麗だね!」
知らない女の子が話に割り込んで来ていた。5歳くらいだろうか、入院着を身につけている。目をキラキラさせながら、主に真春とイリーナの方を交互に見ていた。
「ありがとう。嬉しいわ。私は真春、こっちのお姉ちゃんはイリーナ。あなたは?」
驚いた様子のイリーナに対し、真春が微笑みながら答える。いつもの凛とした雰囲気も抑えめに、優しいお姉さんを演出していた。
歩がジト目で真春を見つめる中、女の子が喋り始める。
「わたしは有沙! お姉ちゃんたち、魔法少女リリーにそっくり!」
快活な有紗という少女が持っていた本を広げる。
そこには、アニメのキャラクターと思われる可愛らしい女の子たちが描かれていた。そのうちの1人を有沙が指差して、
「これ! お姉ちゃんにそっくり! 私大好きなの!」
どうやら魔法少女リリーの姉とイリーナが似ているらしい。本を見る限り、似ているのは金髪で美人な所くらいだが、この年頃の少女にとっては金髪美人が珍しいのかもしれない。
「お姉ちゃんはこっち!」
今度は真春の方を向いて、本に描かれたキャラクターを指差す。黒髪の成人女性だ。
「悪の組織の美人女幹部……」
真春が嬉しそうな顔から一変、複雑な表情をする。
そのキャラクターは、倒される側であり、更に子供向けのアニメにしては過激な衣装を着ていた。
ニコニコして喋る有沙の手前、何も言うことが出来ないのが表情に表れている。
「ふふっ、ありがとう。すごく嬉しい。私が子供の頃もこの魔法少女シリーズを放送してだんだよ」
ある種のショックを受け無言になっている真春に対し、今度はイリーナが有紗に答える。
魔法少女のアニメは毎年作られているらしい。
「私の時は魔法少女ミリーだったなぁ。こういう変身ポーズだったんだよ」
懐かしそうに変身ポーズを取るイリーナであったが、己の子供じみた行動に気付いたのか、俯き顔を赤くし始める。
「わわ、お姉ちゃん! 凄い!」
だが、有沙の方は興奮して、もっとやってとイリーナに催促している。
「……」
「どうしたの? 歩?」
歩がその様子をじっと見つめていることに真春が気付く。
「うん、ちょっとね」
歩が心ここに在らずの回答をした時、17時を知らせる時計の音が聞こえる。
「あ、私もうお母さんのところに戻らないと。お姉ちゃんたち、またね!」
慌てて自分の病室に有沙が帰って行く。
「じゃあ、僕たちもそろそろお暇しようかな」
歩が真春の方をチラッと見てから、イリーナに向かって話を振る。
「あ、はい。今日はありがとうございました。またいつでも来て下さい」
歩と真春が病院の外に出ると、目の前に呼び込みをしている、チラシを持ったバイトの学生が目に入る。
元気な呼び込みの声を聞くと、商店街の唐揚げ屋が1周年記念で大々的なキャンペーンをしている知らせだった。
「夕飯は唐揚げにしようか?」
歩が隣にいる真春に問いかける。
「そうね、いいんじゃない。私まだあの店のを食べたことないのよ。……夕飯も良いけど、彼女のことはどうするの?」
「そうだね、これから1本電話を入れるよ」
そう言った歩は携帯電話を取り出した。
次の日、魔法世界にて――
朝、歩が起きると、グレッグが真春からの言付けを預かっていた。
「全く、儂をメッセンジャーに使うんでないわ」
小言を言われた後、メモ用紙を開くと、
「本日夜の社交界でソフィアが来ることが分かった。私も行って接触する予定。出来るだけ時間を稼ぐから、あんたは亜紗と一緒にもう一度病院に行って詳しく妹の件を調べて」
メモ用紙には、社交界の時間と場所、亜紗との合流についても書かれている。
(姉ちゃん、大分急いで書いたのかな)
走り書きのメモを読み進めていくと、最後に気になる文言があった。
「今朝帰ってきた父親にそれとなくソフィアのことを聞いたけど、はぐらかされた。気をつけた方が良さそう」
(? どういうことだろう? そういえば、こっちの世界にいる姉ちゃんの父親について何も知らないな)
グレッグにでも聞いてみようと思った歩に、
「おーい、歩! そろそろ仕込みを始めるぞ」
当のグレッグから声がかかる。
「はーい! 行きます!」
ともあれ、まずは仕事がある。
仕事の合間に聞いてみようと思う歩であった。
「これにてお使い終了」
夕暮れに差し掛かろうとする時刻、歩はグレッグからの依頼で明日の食材を買いに外にいた。
何でも市場には売っておらず、グレッグの店から離れた場所にしか置いていない特殊な食材らしい。
店を出た歩が来た道を戻る。そこは、王都の外でエルの家に近い場所にあった。整備された道路の隣には青々とした緑と山が広がっている。
王都への城門に入り、グレッグの店にもう少しで戻る途中だった。
不意に歩が横道にそれる。少し速足でいくつかの角を曲がった。グレッグの店の周りはいくつもの小道があり、かなり複雑な形状をしている。
人気のない裏路地のような場所に来た時だった。歩が急に止まり、後ろを振り返り、
「僕に何か用ですか?」
誰もいない空間に向かって話し掛ける。
しばらくの無音の後、
「おかしいなぁ、気配は消していたつもりだったんだけど。なかなかやるね、一条歩くん」
1人の男性が姿を現す。
「あなたは……?」
見たことがない人物に歩が戸惑っていると、
「私かい? 私はフロット・イノーレンツ。マハルの父親といえば分かるかな?」




