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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
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第39話 眠り姫と、病院の怪異

「なるほど、ブラガロードさんはお姉さんのお見舞いで来たんですね?」


「は、はい」


 病院の2階の休憩室で歩と凛は、先ほど出会ったイリーナ・ブラガロードと名乗る少女と話をしていた。

 少女はそわそわと落ち着きがなく、歩とあまり目を合わそうとしない。

 空気を察した凛が代わりに話し掛ける。


「そういえば、どこの高校に行ってるの?」


「あ、文明館女子大です」


「え、ごめんなさい。高校生だと思ってました」


 イリーナの年齢が自分より年上だと分かり、凛が謝り、敬語を使い出す。それに対して、イリーナが可笑しそうに笑いながら、


「ふふっ、良く間違われるんです。あ、全然敬語じゃなくて大丈夫ですよ。呼び方もイリーナでお願いします」


「そういうイリーナも敬語じゃない」


「あ! わわ、ご、ごめん」


 2人和やかに談笑している。金髪の美少女同士が会話する光景は、それだけで絵になっていた。一方の歩は、イリーナが凛と不通に会話している様子を見て、複雑な気持ちになる。

 そんな歩の変化に気付いたのか、イリーナが慌てて立ち上がった。


「あ、ごめんなさい。気分を害されましたか? すみません、私男の人に慣れていなくて、どうしても緊張してしまって……」


 必死に謝るイリーナの姿を見て、歩は申し訳ない気持ちになった。何とか話題を変えようと頭を巡らす。


「そういえば、どうして病院に? そのスーツケースと関係が?」


 イリーナの足元には、鍵が壊れて使えなくなったスーツケースがあった。さっきの事件の影響だろう。閉まらなくなったケースには、中身が見えないようにタオルが掛けてあった。

 自分のしでかしたことを思い出して、イリーナが改めて感謝の言葉を告げた後、


「実は私のお姉ちゃんがここに入院してまして、今日は着替えを持って行く途中だったんです」


「ああ、そうだったんだ。折角だから、ご挨拶でもしようかしら? こんな出会いでしたって話のネタが早速できたし」


 凛が冗談交じりに微笑みながらイリーナの方を向く。すると、イリーナは真剣に考え込む様子を見せていた。おもむろに顔を上げ、恐る恐る話を切り出す。


「あの、よければ私のお姉ちゃんに会ってくれませんか?」



 案内された病室は、最上階にある豪華な個室だった。かなり経済的に余裕がないと入れない類だと、歩が頭の中で思い出す。


「お姉ちゃん、入るよ」


 ノックをして、イリーナが引き戸に手を掛ける。静かな開閉音と共に、部屋の中に入る。

 そこにいたのは――ベッドに寝ているイリーナと瓜二つの女だった。



「双子?」


 凛の口から思わず声が出る。


「はい、私の自慢のお姉ちゃんです! と言っても、今は意識が戻らない状態でずっと眠っていますが……」


 イリーナの姉は、本当にただ寝ているだけに見えた。物々しい医療器具が体についている訳でもない。呼吸器もつけず、ただバイタルサインを測定する機器が横で無味乾燥な数字を逐一変えていた。

 病室の中は、個室だけあって広く、デザインや調度品も高級感を感じさせる。歩と凛は、場違いさを感じながらも、ベッドの傍にあるソファに促され座った。


「原因は分からないんですか?」


 歩がしない訳にもいかない質問を投げかける。歩と凛の真向かいに座ったイリーナは、


「はい、日本だけじゃなく、世界中のお医者様に見てもらいましたが、全くわかりませんでした。ある日突然目覚めなくなって。悪い所は何もないんです。ただ眠っているだけ、まるで夢の世界に囚われてしまったみたいに……」


 目を伏せて悲しむ様子と、予想以上に重苦しい展開に、歩と凛は言葉が出ない。

 その空気を感じたイリーナが慌てたように、


「その、来て貰ったのは、私がこんな性格なので同世代の友達が全然いなくて……。お姉ちゃんに凄く心配されていて。だから知り合いが出来たよって、報告したかったんです! すみません、いきなりで驚かれましたよね……」


 話の最中、イリーナは自信がなさそうに俯いた後、少し嬉しそうにはにかむ。しかし、話の最後の方でまた申し訳なさげに暗い顔になるのだった。声の大きさは尻すぼみになっていく。

 彼女の外見だったら、友達の1人や2人簡単に出来そうだが、見た目だけで近づいて来る人ばかりだったのかもしれないと歩は思った。

 いずれにせよ、重い空気が変わった訳でもないため、歩が腰を上げる。


「じゃあ、ちょっとお姉さんに挨拶させてもらおうかな」


 歩が健やかな寝息を立てているイリーナの姉の傍らに立つ。凛とイリーナも後に続いた。声を掛ければ今にも起きそうな寝顔である。

 イリーナが姉の手を取り、


「お姉ちゃん、私今日お友達ができたんだよ。もう心配いらないからね。あと、お母さんからのお土産が」


 そう言うと、イリーナが身に着けたポシェットから何かを出そうとする。だが、片手だけで取ろうとしてバランスを崩し、掌から何かが零れ落ちた。


「よっと」


 地面に激突する前に、それを拾い上げたのは歩だった。手を広げると、月の形をしたイヤリングが見える。


「ありがとうございます!」


 イリーナが姉の手を握ったまま、歩に礼を言った。歩がイヤリングを返そうとし、イリーナは空いている手で受け取ろうと互いの手が触れる。瞬間――


「アンタ、誰?」


「え?」


 歩がイリーナの目を見る。その瞳は優しそうなイリーナの目ではなく、険しいものだった。こちらを値踏みするような不愉快な視線を感じる。


(これは……)


 歩が考え始めた時、


「あの、どうかしました?」


 目の前にいる少女が言葉を発した。その顔を見ると、先程までの険しさは綺麗に消えている。代わりに、不思議そうな瞳で歩を遠慮がちに見るイリーナがいた。


「いや何でも」


 歩がイヤリングを渡し、誤魔化す。隣にいる凛も気付いていないようだった。

 違和感を感じながら、挨拶を済ませ病室を後にする。



「さっきどうかしたの?」


 イリーナと別れエレベーターを待つ最中、凛が疑問を口にする。


「いや、ちょっと考え事をね」


「そう。そういえば、さっきトイレに行った時、気になることを耳にしたんだけど」


 周りに誰もいないことを確認して、凛が小声で歩に耳打ちする。歩との距離が近いのに気付いたのか、頬には朱が差していた。


「ここ最近、患者の性格が急変しているんですって」


「性格? 容体じゃなくて?」


「ええ、看護師の人が話してたのよ。温厚だった人が急に怒るようになったり、逆に手を焼いていた患者が別人みたいに大人しくなってるらしいわ」


 ここまで言って、凛が歩との距離を少し離す。エレベーターが来たようだ。乗り込み下に降りる間、凛が再び話し始める。


「でも、翌日には元の性格に戻ってるみたい。精神薬か何かを誰かが入れてるんじゃないかって、話してたわ。怖いわね……」


「そう……だね」


 歩は生返事をする。何かがまた起きている。

次回も1週間後予定です。

戦闘はもうちょい先かな

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