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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第2章 双つの生命
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第29話 戻ってきた日常と、続く異常

 あれから2週間――

 朝の通勤時間帯に、1人の男が南町商店街近くの駅に降り立っていた。

 白い肌に肩までウェーブのかかった金色の髪をした20代の西洋人。更に、高身長と絵に描いたようなイケメンであった。近くにいた女子高生数人がチラチラと男を見ている。

 女性を魅了するであろう青い瞳で辺りを確認した後、男は不敵に笑った。


「帰ってきた」


 そして、洒落た流行りの服装をした男は、女子高生の方へ近づいていくのであった。


「お嬢さんたち――」



 姉である真春から話をされた時、歩は仕事場である洋菓子店にいた。


「変な奴がいる?」


「そう、さっき外に出たら近所のおば様たちが噂をしてた。所構わず、女に話し掛けている男がいるって」


 真春は洋菓子店の制服を着ていた。白いワイシャツの上に緑色のチョッキ、下は黒のズボンである。真春の凛とした様子と黒い髪の毛が相まって、ちょっとした女性版執事のような雰囲気を醸し出している。胸元はきつくてボタンが閉まらないのか、大胆に解放されていたが。


「へぇ~、今時勇気あるナンパ師もいるもんだね」


 コックコートを着た歩が、洋菓子店のショーケースにケーキを並べながら答える。


「若い金髪西洋人、かつ、超イケメンらしいわよ」


 真春の投げかけた言葉に歩の手が思わず止まる。


「……もしかして、それ」


「帰ったぞー!」


 歩が言い終わらないうちに、店の扉が勢いよく放たれる。

 入ってきたのは、駅前にいた男であった。歩の姿を見つけるや否や、嬉しそうな顔で近づき肩を叩く。


「歩! 久しぶりじゃないか! 元気にしていたか?」


「ああ、1年ぶり。元気にしてたよ、ヒアック」


 ヒアックと呼ばれた男は、店を見回しながら、


「この店と街は変わってないなぁ。素晴らしい! 何より、女性が相変わらず美しい! ベルギーの女性も良かったが、この街が一番だ! つい声を沢山声をかけてしまった」


「やっぱり、お前か。辺りで噂になってるぞ」


 テンションが上がったヒアックに肩を組まれ、前後に揺さぶられながらも、冷静に会話をする歩。


「声もかけたくなるさ。俺の嬉しさが分かるだろう? 今日の夜は女の子と飲みに行こうぜ! なんたって、今はあのゴリラ女がいない街だぞ!」


「え?」


「ん?」


 数秒互いの時が止まる。

 歩が無言で後ろの扉を指差した。

 後ろからは、いつの間にか怒りのオーラが出ている。

 歩の肩に置かれた手が震えだしていた。ヒアックの表情を見ると、先程までのハイテンションとは打って変わって目の焦点が合っていない。

 機械仕掛けの人形のように、ヒアックの首が180度回転していく。


「へぇ、誰がゴリラだって?」


 怒りの蜃気楼が立ち上がっていた。


「いや、その、なんだ。帰ってたのか。なんて言うのかな、今のは……本音だよバ――」


 ヒアックの腹に真春の渾身の回し蹴りがクリーンヒットする。

 その威力は、店の壁を突き破り、彼方へ飛んでいくほどだった。ちょうど、ヒアックの真後ろにいた歩を道ずれに。


「なんで僕までー!」



 ――5分後


「というか、戻って来るなら連絡くらいしてよ」


 店にある休憩室のテーブルに向かい合いながら、歩が非難の目を向ける。五体無事で戻ってきたようだ。


「サプライズって人生に必要だと思わないか? まぁ、その結果、逆にサプライズを返されたわけだが……」


 ヒアックが、これまた非難がましい目で窓際に立っている真春を睨みつける。いつの間にか、顔面がボコボコになっているのは、気にしない方が良いだろう。イケメンの面影はなかった。

 当の犯人は、涼しい顔で視線を躱すばかりか、辛辣な言葉を投げかけていた。


「てっきり、女に刺されて死んでるかと思ってたけど」


「1年間ベルギーで修業してきたんだよ! 第一、俺が女性から刺される訳ないだろ!」


 精一杯悪態をついていたが、ヒアックの足元を見ると、足がガクガクに震えていた。


「くそっ、天国かと思ったら地獄だったとは!」


「その口を1回閉じようか」


 同じ過ちを繰り返そうとしているヒアックに、歩が間髪入れずに答える。傍には、拳を振り上げようとしている真春がいた。


「来るならこい! 久しぶりでビビってる訳じゃないぞ!」


 勇ましく言うヒアックだったが、その姿は完全に歩の後ろに隠れている。


「何はともあれ、店の準備をしないと」


 歩がヒアックを引きづりながら、店先に出ようとした時だった。


「おっはよー!」


「ちょっと、待ちなさいよ!」


 店の扉が元気の良い声と共に、再び勢いよく開け放たれる。

 見ると、制服に身を包んだ女子高生2人が順番に店の中へ入って来ていた。


「真緒! アンタ、自分の荷物くらい持ちなさいよ!」


 後ろから呼び止められ、真緒と呼ばれた女の子が振り返り、その大きな目を見開く。

 黒い瞳は好奇心に満ち溢れ、茶色の少しくせ毛のあるショートヘアからは活発な印象を与えた。可愛らしい顔が今は、不思議そうな表情をしている。


「凛、ごめん。全然気付かなかった……」


 溌溂とした声で、凛と呼ばれた女子高生に真緒が誤っている。

 凛と呼ばれた子は、名は体を表すとばかりの雰囲気を持っていた。瞳や背丈は真緒と同じくらい。目鼻立ちも整っており、顔つきも日本人に近いが、髪の色は鮮やかな金髪である。

 店の窓から入る朝の眩しい日差しを受けて、輝く様からは地毛であることが容易にうかがえる。ブロンドをツインテールに結わえている様子は子供らしさも見えるが、思春期特有の大人になりゆく過程が見受けられた。


「はぁ、分かったわよ。本当に好奇心が出ると一直線ね」


 ため息とともに怒りを吐き出すと、凛の険しくなっていたつり目が和らぐ。


「真緒、凛! 元気だったか?」


 ヒアックが満面の笑みを浮かべながら、飛び込んで来いとばかりに、両手を広げて出迎えのポーズをする。


「歩にぃ、久しぶり! それに、真春姉……お帰り!!」


 真緒が真春の豊満な胸に飛び込む。


「真緒……ただいま。身長伸びたわね」


 胸の中ですすり泣く真緒を優しく抱きしめる。実に綺麗な光景だった。隣で相変わらず両手を広げている男がいなければ。


「真春姉、本当に帰って来てたんだ……」


 真緒のように抱きつくわけではないが、凛が感慨深そうに胸に手を当てる。その目は明らかに潤んでいた。


「凛も元気そうね。また美人になって」


「凛も感動の再開ハグしようよ!」


 真緒が真春との間に1人分の空間を作り、手招きする。


「しょうがないわね」


 言葉とは裏腹に、凛が嬉しそうに真春の胸におさまる。


「良い光景だ。真ん中のゴリラ女を除け」


「あ?」


 ヒアックが顔パン1発を喰らい、床の上を悶絶する。

 まるでいつもの光景とでもいうように、歩が2人に話し掛ける。


「真緒も凛も2週間ぶりだね! 海外留学はどうだった?」


「チョー楽しかった! 歩にぃも元気そうだね!」


 真緒がピースサインで元気よく答える。

 一方の凛は目尻を急ぎ拭きながら、


「歩も元気そうね、……べ、別に向こうで気になってたとかじゃないから」


 歩に対し、つっけんどんな態度を取った。

 その答えに、真緒が茶化しながら突っ込みを入れる。


「え~、ニューヨークに行っている間、毎日連絡しようかしまいか悩んでいたのはどこの誰かな?」


「ちょ、真緒! いや、連絡しようと思ってたのは家族とか友達もいれてだから!」


「え~、本当でござるか?」


「真緒、アンタいい加減に……」


 賑やかな光景が広がる中、店の扉が三度放たれる。静かな開閉音と共に現れたのは、いつもの白衣を身に着けた人物だった。


「おや、今朝は賑やかだね」


「おはよう、亜紗。早くからから珍しい。どうかしたの?」


 亜紗と真春が微笑みながら会話をしている。

 2人は真春が魔法世界から無事に戻ってきた後、対面済みだ。あの時の彼女の笑顔は生涯忘れられないと歩は思いだす。


「なに、ある男がこの街に戻ってくると聞いてね。おや、もう来てたのか」


「亜紗さーん! 亜紗さんだけだよ、俺に優しく話しかけてくれるのは!」


 号泣しながら、ヒアックが亜紗の胸にダイブしようとする。だが、鼻の下を伸ばしており、それを見逃す亜紗と真春ではなかった。


「君は変わらないな」


「もう1回朝日を拝んできなさい」


 2人の蹴りが同時にクリーンヒットし、ヒアックが壁を再び突き抜け星になっていく――蹴られる直前に掴んだ歩の服の裾を掴みながら。


「おま、ふざけんな!」


 歩が捨て台詞を吐きながら、一緒に彼方へと飛んでいく。

 飛んでいく間際、女性陣の顔を垣間見る。皆、楽しそうだった。こちらの世界での日常を取り戻したことを感じ、歩が思わず笑顔になる。

 それも束の間、空を飛んでいる現状を顧みながら考えた。


(こんな日常で良かったんだっけ)



――同日、魔法世界にて

 いつものようにベッドに入り、歩が次に目を開くと、魔法世界で自分にあてがわれた部屋で目が覚めた。

 最近の日課になっている行動をしようと起き上がり、隣の部屋をノックする。返事がないのが想定内とばかりに、ドアを開け中に入った。


 6畳ほどの部屋には、簡素な家具が数点と子供用のベッドが1つあった。

 ベッドには、褐色の肌をした少女がスヤスヤと寝息を立てている。

 歩は、部屋のカーテンと窓を開け、朝日の眩い光を呼び込む。

 まだ、少女が起きる気配はない。

 少女の傍に近づき、声をかけた。それでも、起きる気配のない少女に対し、歩の顔が曇る。

 

 少女――シアは、博物館での事件以降目が覚めないでいた。

次も1週間後を目途に投稿します

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