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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第1章 2つの世界
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第25話 赤毛の魔女と、2人の歩

 誰もが何故ここにという問いをしたかったが、エルの瞳に疑問の言葉を飲み込ざるを得なかった。

 魔族を見上げる眼差しは、怒りに満ちている。しかも、深い憎悪が見え隠れしていた。


「皆さん、下がっていて下さい」


「でも、エル!」


「大丈夫です」


 歩の心配する声にエルが一瞬、元の柔らかな笑みを見せる。


「なんだぁ、わざわざ自分から死にに来たのか」


 魔族がエルに向かい嘲笑の声をあげる。


「いえ、あなたを殺しに来ました」


「は? わはははは  面白い、面白いぞ、人間!」


 魔族が笑う中、エルは気に掛けることなく、言葉を紡ぎ始める。


「万物の意思よ、我は理を継ぐ者。理を斬る者。その力を我が身に見せよ」


 エルの体が赤く輝きを帯び、どこか暖かい光が体全体を包み込んで行く。


「開魔!」


 赤い太陽のような輝きがエルを包み込んでいる。髪はより幻想的な色合いの赤になり、頬には退魔の証であるが現れていた。


「馬鹿な! なぜ人間風情が我らと同じ力を持っている!」


 誰よりも驚いていたのは魔族だった。


「あり得ん!」


 魔族が口の中から光球を放つ。

 その光は先程見た破壊の光と同じであった。

 多くの者が死を予感する中、エルが前に進み出る。


「滅せよ」


 刹那、絶望にも似た魔族の攻撃が真っ二つに割れ霧散する。


「な……に!」


 4~5メートルはある、魔力で紡がれた巨大な鎌が空中に出現していた。

 その色は今まで何体も悪を断罪してきたような深紅に染まっている。


「斬り裂け」


 エルの言葉と共に、巨大な鎌が空を裂きながら魔族に向かっていく。

 その攻撃を空中に浮かびあがることで魔族が楽々と躱した。


「わはは、ノロいわ!」


「戻れ」


 遥か先まで行っていた鎌が、先程の攻撃とは比べ物にならないスピードで戻ってくる。

 その直線上には、余裕を取り戻した魔族がいた。


「グオオオオオオオォォ!」


 悪魔の叫びが辺りに響き渡る。

 見ると、野太い左腕が綺麗に切り落とされていた。


「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!」


 魔族が目の前で起きていることが信じられず、喚き散らしている。

 そんな中、歩はある変化に気付いていた。


「姉ちゃん、シアのことを頼む」


「良いけど、私も行かなくて平気?」


「いや、僕1人で大丈夫」


「そう。ま、こっちは怪獣大戦争見てて暇だしね」


 シアの手を歩の代わりに真春が握る。


「お兄ちゃん?」


 シアが不安そうに揺れる瞳で歩を見上げると、


「大丈夫。すぐに帰ってくるから」


 歩がシアの頭を優しく撫でる。


「それじゃ、行ってくる」



 崩れ落ちた博物館の地下にそれはあった。位置的には、異界への扉があった部屋の真下だ。

 地下は見た目よりも頑強に出来ており無傷で、明かりも非常電源が動いている。

 昔は展示室として使われた名残があるが、今は雑然と物が置かれ、倉庫のようになっているようだ。


「よくここが分かったな」


 地下室へ来た歩の方を振り向きもせずに、零が背中を向けたまま淡々と答える。


「これが君の本当の狙い?」


 零の目の前には、厳重に封印が施された展示ケースがあった。

 だが、最後の封印が解かれたらしく、小さい機械音と共に展示物が露になる。

 現れたのはどこかで見た紙片だ。


「これは……建国王の日記?」


「ああ、そうだ」


 零が紙片を大切に拾い上げる。


「それで何をするつもり?」


「決まっている。世界を変える。それだけの価値がこの日記にはある」


 零の瞳には以前見た固い決意が秘められていた。立ちはだかる者は全て粉砕するような意志だ。

 その眼光に怯むことなく、歩が問いかける。


「初めから魔族の危険さも、エルのことも知っていたんだろう? 彼女を呼んだのは君か?」


「だったらどうだと言うんだ」


「それなら、犠牲が出ることも回避できたんじゃないか?」


 歩が零に詰め寄っていく。その口調には非難が色濃く出ていた。


「犠牲なくして変革はない」


 零が無表情に答えた。その声の冷酷さに場の空気が一段冷えた気がする。

 だが同時に歩には、目の前の男が感情を押し殺しているようにも見えた。


「……後悔しているのか?」


「後悔? 皆、覚悟の上での決起だ」


 淡々と答える零であったが、歩の目を見て視線を逸らす。


「いかんな。お前を目の前にすると、つい口が滑りそうになる」


 手のひらで眼鏡を掛け直し、歩を真正面から見据える。

 その瞳に歩はとても嫌な予感がした。


「お前がここに来たのは想定外だが、手間が省けて良い」


「手間?」


「今、異界への扉は開いている状態だ。これ以上魔族が入ってこないうちに扉を閉める必要がある。その方法は……」


 零がおもむろに懐から拳銃を取り出す。

 回転式拳銃の武骨な黒いシルエットは歩に向けられていた。


「異界を開いた2人のアウェイカーどちらかが死ぬことだ」


 撃鉄を起こす音がハッキリと聞こえた。

 2人の間に数秒の沈黙が訪れる。


「いつから僕がアウェイカーだと?」


 命の危険に晒されているにもかかわらず、歩が物怖じせずに質問する。


「お前が初めてアジトに来た時、小さな機械に手を触れただろう? あれは魔法計測装置だ。この世界の住人は全員魔法が使える使えないに関係なく、魔力を有している。お前には全くそれがなかった」


「僕を殺すのも計画のうち?」


「いや、気が変わった。お前を生かしたままだと、今後の計画に支障をきたす」


「撃つ前にもう1つ聞いて良い?」


「何だ? 辞世の句なら聞いてやる」


 歩が短く深呼吸する。


「君の目指す先には何がある?」


「……破壊と変革。ただそれだけだ」


 零が答えるのと地下室に銃声が響きわたったのは、ほぼ同時だった。

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