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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第1章 2つの世界
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第23話 決着する、頂上決戦

「何にせよ、これはチャンスだ」


「お兄様……」


 何か言いかけたようとするが、沙良が言葉を飲み込む。


「どうかお気をつけて」


 月並な見送りの言葉ではあるが、沙良にとっては本心である。背中を向ける零を見ながら、無事を祈るのであった。



 歩とシア、零が奥の部屋に消えようとする直前、魔法省長官が慌てて叫ぶ。


「奴らを奥に行かせるな!」


 その言葉を合図に、近くにいた部隊の何人かが歩たちを追いかけようとする。

 しかし、誰も追跡することはしなかった。いや、出来なかった。

 立ち塞がった紅目の魔女に圧倒されている。

 先程までの刃物のような闘気ではない。だが、誰もが息を呑んでいた。それほどまでに、美しさと神聖さが同居している。


「ここから先は誰であっても通さないわよ。通ったら殺す」


 当の真春が見ていたのは、鎧甲冑を着けた男1人であった。


「目的は同じらしいな。ここで睨み合うのも良いが、俺としては蘇ったお主と一戦所望する――紅目の魔女!」


 刀の柄に手をかけたトウザが地を走る。


「せっかちな男は嫌われるわよ」


 トウザが神速の居合を放つ――が、刀が抜かれることはなかった。

 真春が片腕一本で抜刀自体を止めている。


「アンタも本気を出しなさいよ」


「……どうやら本当に戻ったみたいだな」


 トウザが2、3メートル距離を取り、刀を構え直す。

 深く息を吸った後、一言。


「装填」


 言葉と共に、トウザの体が淡く発光する。


「土鋼よ、纏え」


 光が大きくなり、トウザの体が変容し始めた。

 全身が銀色の魔法を帯びた何かに覆われていく。その色は、幾重にも鍛えられた名刀のような落ち着いた色合いをしていた。


「いざ……参る!」


 俊敏な動きで真春に迫る。ただでさえ重そうな鎧姿だけでなく、全身を覆う鋼など始めから着けていないかのような身軽さであった。


「一閃ッ!」


 先程よりも明らかに早い攻撃が真春を襲う。

 だが、動きを完全に読んでいたのか、真春は体を捻り攻撃を躱すと、踏み込んできたトウザの胸に魔法で強化された拳を繰り出す。

 まともに受ければ立ち上がるのは不可能な一撃。にもかかわらず、真春の拳はトウザ本体に届かない。鋼よりも硬い魔法の鎧に阻まれていた。


「チッ」


 真春が拳を突き出すのと同時に、トウザは刀の刃先の向きを瞬時に変え、真春に第2撃を加える。

 その行動は、真春の攻撃を受けきれる確信がなければ出せないものだった。

 不可避の刃を真春はトウザ自身を蹴り飛ばすことによって逃れる。


「アンタ、相変わらず厄介な硬さね」


 苦々しい表情を真春が浮かべる。

 当のトウザは広間の端まで吹き飛び、壁に体を激しく打ち付けながらも、全く傷を負っていなかった。


「丈夫さが取り柄なもんでな。……飛べ、三日月!」


 トウザが素早く空間を斬った。

 魔法で生成された翔ぶ斬撃がミサイルのように真春へと向かっていく。


「ハアッ!」


 飛んできた魔法の刃を片手一つであらぬ方向へ跳ね返す。

 目標を失っていた斬撃は、易々と博物館の壁を切り裂き外へ飛んでいった。

 その間に真春に近づいていたトウザが立て続けに斬撃を仕掛ける。


「それよりも紅目の魔女、お前さん、戦の女神に愛され過ぎじゃないか」


「あら、褒めても何も出ないわよ」


 激しい攻防を繰り広げながら、会話が交わされる。


「初めて戦いを見た時から思っていた。俺の半分の歳なのに!」


 真春の岩をも簡単に砕く拳を刀で受け止める。


「くぐり抜けてきた修羅場の数が同じ! その若さでな!」


「!」


 トウザが防御から反転、近距離からの突きを繰り出す。

 真春の頬を刀がかすった。


「自慢じゃないが、俺も相応の修羅を若い頃から経験していてな。戦闘センス、魔法力、それらを差し引いても腑に落ちん!」


 トウザと少し距離を取った真春に対し、トウザが疑問をぶつける。


「考えた末の結論は……」


 トウザが大きく踏み込み、弾丸のような速さで真春に迫る。


「お前が年齢を誤魔化しているということだ!」


 渾身の一振りが真春を襲う。


「……誰が」


「!」


「誰が年齢を誤魔化してるですって……!」


 真春が振り下ろされた一撃を白刃取りで受け止めていた。

 こめかみに青筋をたてながら。


「終わらせてあげるわよ」


「何?」


 真春の表情が変わる。


「三天……」


 元から凄まじい魔力が更に肥大する。

 最早、軍も零の部隊もただ2人の戦いを見つめることしか出来なかった。


「来るか」


 トウザが身構える。


「連獄」


 背後に鬼が見えた――その刹那、圧倒的な手数がトウザに降りかかる。

 一発一発が必殺の威力を持つ暴力の雨に晒されて立てる者などいない。

 はずだが、トウザは刀一本で全てを受け止めていた。


「さすが紅目の魔女だな。今のは危なかったぞ」


「もう勝負はついたわよ」


 真春がトウザの刀を指差す。

 その先にあったのは、ひびの入った刀だった。


「やりやがったな。馬鹿力が過ぎるだろ」


 トウザが深く息をつくと、体を覆っていた魔法の鎧が解ける。


「刀が直ってから再戦してもらおうか」


「ま、暇があればね」


 すっかり落ち着いた戦いに1人水を差す人物がいた。


「貴様ら、サッサと奥に行かんか!」


 魔法省長官ヒディンズが軍の部隊に向けて檄を飛ばす。

 だがその直後、長官の真横に一筋の光が通り過ぎる。飛んできた魔法の光は、壁を易々と貫通しただけでなく、長官の髭を半分焦がしていた。


「ここから先に行く奴は殺すって言わなかった?」


 真春が長官を始めとして、その場にいる全ての人間に身も凍るような視線を飛ばす。


「クッ!」


 長官が歯がゆい舌打ちをした時だった。異変が起きたのは。

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