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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第1章 2つの世界
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第22話 蘇る、魔女

「あああああああああああああああぁっ!」


 体中を駆け巡る異質な感覚に、マハルは言葉にならない悲鳴をあげた。侵入してきた何かが、マハルの中の何かを根こそぎ吸いつくしていく。

 歩の方も激痛を我慢しているのか、苦悶の表情を浮かべている。

 やがて、目も開けられない程だった眩い光が収まっていく。

 ほんの10秒ほどの出来事だった。

 館内にいた全ての者は、何が起きたのか分からず、光の中心部に誰もが目を向けている。


 そこには、黒髪の男女がお互いを抱きしめるようにして倒れていた。

 静寂の中、女の方がゆっくりと起き上がる。切れ長の目をまだ倒れている男に向け、不機嫌そうに話しかける。


「全く、アンタはこんな再開の仕方しかできないの、歩」


 文句を言いながらも、その表情には嬉しさがにじみ出ていた。


「久しぶりに会ったのに、その言い方はどうなの。……姉ちゃん」


 歩も起き上がろうとするが、途中で膝をついてしまう。

 その様子を見ていた真春が無言で肩を差し出す。


「ありがとう。正直、立ち上がるのがやっとだよ」


 真春の手を借り、歩はどうにか立ち上がると、真春に耳打ちする。


「……姉ちゃん。頼みがある」



「零! シア! 奥に行くよ!」


 歩の呼びかけで、その場にいた人の時が動き出す。


「何をしている! その男を捕まえよ!」


 魔法長官が叫んだ。

 その呼びかけに特殊部隊が標的を一斉に歩へ向け、魔法を放とうとする――


「させないわよ」


「何!?」


「マハル!?」


 真春が前線の部隊の前に跳躍すると、人間業とは思えない力で敵を薙ぎ払う。

 長官が驚きの言葉を発した。

 沙良との戦闘を中断して戻っていた亜紗も普段見せない表情をしている。


「これはどういうことかな、イノーレンツ家のご息女。返答によっては国家反逆になりますぞ」


「ふぅ……見れば分かるでしょ」


「見れば分かる? 今回の件は議会で承認された案件ということを忘れていませんかな?」


「さぁ、忘れたわね。少なくとも、私の弟を傷つけようとする奴は全員敵ね」


 真春の言葉を聞いて、長官の目がスッと細くなる。その直後、一際大きい声が博物館内に響きわたる。


「イノーレンツ・マハル、国家要請拒否を確認。特例条項第7項により、現時点をもって国家の逆賊と認定する! 生死は問わん!」


 長官の言葉を合図に、鎮圧部隊の目標が真春へと変わる。

 だが、最強と謳われる魔女に対し誰もが手を出せないでいた。

 睨み合いが続く中、1人の部下が長官の元へ報告を告げる。


「申し上げます。金色の魔女の魔力数値を調べた所、ほぼ無いことが判明しました」


 部下の報告に長官が満足そうに頷き、声を大にして命令する。


「金色の魔女は魔力を使い果たしている! 臆することはない!」


「あら、バレちゃった」


 真春が歩に向かって楽しそうにウインクする。


「冗談よ、冗談。そんな顔しないの。……大ピンチだから、とっておきのを出しますか」


 そう言うと、真春は自分の首に掛けたロケットペンダントから赤い小石程の宝石を取り出す。


「ふっ、そんな小さい魔法石でどうするつもりだ」


「マハル! それは!」


 真春の行為を見て、長官が鼻で笑う一方、亜紗は動揺していた。


「それは君が10年以上かけて溜めてきた高純度の魔法石だろう?」


 長年付き合ってきた親友が、ポッと現れた自称弟のために国を敵に回した。

 それどころか、大切にしていた魔法石を躊躇いもなく使おうとしている。

 その事実に、さしもの亜紗も驚きを隠せなかった。


 真春が魔法石を握り締めると、赤い宝石が淡く輝き出す。

 その光はどこか暖かみを有しているように思われた。

 だが、そう思ったのも一瞬。次の瞬間には、膨大な魔力が魔法石から真春の身体に流れ込んでいく。

 魔法使であれば、誰が見ても分かる圧倒的な魔力の奔流に皆が息を飲んだ。


「何をしている! 殺しても構わん、攻撃しろ! しない者は魔女と同罪にするぞ!」


 長官の脅迫じみた叱責に、我に返った特殊部隊が魔法を放った。四方から魔法の嵐が降り注ぐ。

 その場にいた誰もが、真春と歩の死を予感した。


「……お兄ちゃん」


 歩の呼び掛けで傍に来ていたシアが不安そうに歩の手を握る。

 その手は震えていた。シアの不安を打ち消すように、歩が力強く握り返す。


「大丈夫、うちの姉ちゃんは世界一頼りになるんだ」


 歩が死の恐怖など微塵も感じられない笑顔をシアに向けて見せる。


「装填」


 小さな呟きが聞こえたのと、魔法攻撃の光に襲われたのはほぼ同時だった。



「やったか?」


 標的が倒れたか確認をしようと長官が前を見つめる。

 だが、魔法攻撃による白煙が博物館内に充満しており、視認することは難しい。

 さしもの金色の魔女も、あれだけの攻撃を受ければひとたまりもないだろう。

 そう思った時――金色に輝く一筋の光が白煙を突き破る。

 それも一瞬で終わり、次の瞬間には、館内の白煙が吹き飛ぶ程の爆発的な光に全てが包み込まれていた。

 収まった光の中心から声が聞こえる。


「姉ちゃん、他にやり方はなかったの?」


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 床に再び倒れている歩に対し、シアが心配そうに見つめている。

 あの攻撃の中で何故生きているのか。疑問を浮かべる人物はいなかった。


「こんなに絶好調なのは久しぶり」


 全身に魔法を行き渡らせた体が淡く光を発している。

 綺麗な黒髪から光り輝く黄金色に変化した髪の毛は、一本一本が魔法の光を帯びていた。

 先程までの刺すような威圧感は消え失せている。

 その代わりに、ただ圧倒的な存在感に皆が釘付けになっていた。

 何よりも先程と違うのは、真紅に染まった瞳だった。

 何者をも惹きつける力強い意思はそのままに、今は穏やかな雰囲気を併せ持っており、まるで神々しいものを見ているかのような気分にさせる。


「紅目の魔女」


 誰かが不意に呟いた。

 そう――今ここに紅目の魔女こと一条真春が蘇ったのだ。

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