第21話 独白する、真春
この男は一体何なのだろう。
初めて会った時は、あの偏屈なグレッグ爺が雇った人物という興味。何の変哲もない男に見えた。
何故こんな男を?
でも、それだけ。すぐに興味はなくなった。
というのも、3年も続いている酷い頭痛が襲ってきたからだ。
3年前のことはあまり覚えていない。思い出そうとすると、頭に靄がかかる。何かが邪魔をしている気がする。
一体いつになったら治るのか。医者も原因不明でお手上げ状態ときている。
とりあえず、珈琲を飲んでから帰ろう。グレッグ爺は変人だが、珈琲の味だけは保証できるから気分だけでも少しマシになるはずだ。
そう思った時に、ちょうど例の男が飲み物を持ってきた。
「お砂糖は1つ半で良かったでしょうか?」
「え……ええ」
何故私の好みを知っているのか。疑問に思ったが、大方グレッグ爺にでも聞いたのだろう。
ただ、珈琲を受け取り、飲んで帰る。
いつもの日常、決定的な何かが足りない日常を繰り返すだけ。
……そのはずだった。
珈琲を受け取ろうとした時、偶然お互いの指先が触れ合うまでは。
その時、私の中の何かが弾けた。
頭にかかっていた靄に穴が空く。
同時に思い出される、忘れてはいけない大切な人の記憶。
私は思わずその人の名前を呟いていた。
だけど、すぐに頭に靄が覆い被さって、思い出した何かを忘れてしまう。
代わりに襲う割れるような頭痛。
何故自分がいるはずのない弟の名前を呼んだのか、酷く混乱したまま店を後にした。
何か酷い言葉を男に投げかけた気がする。
家に帰っても、疑問は解けず、気持ち悪さが増すだけ。
頭が割れて、どうにかなりそう。
苛立ちが募る。
そんな時に、魔法省から来たテロ鎮圧の要請は、格好の憂さ晴らしだった。
そう思っていたのに……。
いつの間にか男が目の前に現れ、私のペンダントを大切そうに触っている。
本来なら、ぶん殴っている所なのに、男の余りにも真剣な慈しみにも似た表情に何も出来なかった。
そういえば、このペンダントは何だったか。
何故こんなオンボロな物を毎日身に付けているのだろう。
疑問が再び脳内を駆け巡った時、私は自称弟を名乗る男に抱きしめられていた。




