第19話 始まる、頂上決戦
沙良が戦場に赴いた後、戦況を見守っていた零が誰もいないはずの空間に向けて言葉を発する。
「トウザさん、頼む」
話し掛けた先には、いつの間にか先程見た鎧姿の男がいた。
トウザと呼ばれた侍は静かに頷くと、刀の柄に手をかける。
「参る」
言い終わるや否や、一気に跳躍して戦闘の最前線に躍り出た。
まるでワープしてきたかのようなトウザの動きに、軍の動きが一瞬止まる。
動こうと思った矢先、トウザが刀を一閃した。速すぎて何をしたのか、その場にいるほとんどの者は分からなかっただろう。
直後起きたのは、何人もの呻き声。
見ると、近くにいた軍の小隊が地面に叩き伏せられている。辛うじて息をしている所を見るに、峰打ちで死んではいなさそうだ。
異変を察知した別の小隊が加勢に向かうが、時既に遅かった。
たった1人に国の精鋭部隊が次々と斬り伏せられていく。
「あれは、我が国の五傑の1人! ナガレ・トウザ! 何故ここに!」
ヒディンズ長官が驚きの声をあげる。
「あら、武者修行中と聞いてたけど、何してるのかしらね」
戦うのが面倒になったのか、マハルが前線から戻ってきていた。
「そんなことはどうでも良い! こんな時こそ、同じ五傑である君の出番だろう!」
ヒディンズが苛立ちながら語気を強める。
「はいはい、分かってるわよ」
マハルは手をヒラヒラと振りながら、やる気の無さそうにトウザの元へと向かう。
だが、その軽い振る舞いとは逆に、周りの者がハッキリと分かる闘争心を剥き出しにしていた。
「こんな形で紅目の魔女と一戦交えることになるとはな……人生分からないものだ」
「そうね、3年前は一緒に戦争を戦った仲だったのにね」
世界でも5本の指に入る2人が対峙する。
両者の発する刃のような闘気にあてられ、周りの者は身体を動かすことが出来なかった。今までの騒乱が嘘のように静けさに包まれる。
先に動いたのはマハルだった。
一瞬で距離を詰めると、膨大な魔力を帯びた拳を繰り出す。
当たれば必殺の一撃をトウザは右に半歩脚を踏み込み躱した。その踏み込みと同時に手にした刀でマハルの胴を薙がんとする。
だが、それを読んでいたのか、マハルの回し蹴りが僅かに早くトウザの右側頭部を砕こうとする。
「ハッ!」
トウザが直前に踏み込んでいた足に力を更に加え、一気に前方へ飛ぶ。
この間僅か数秒。
両者の攻防を目で追える者はほとんどいなかった。
最初相対した時のような距離で睨み合う2人だったが、
「辞めだ」
残念そうに呟いたトウザが構えていた刀を降ろす。
「! ちょっと、まだ終わってないでしょ!」
抗議の声をあげたマハルに対し、
「噂には聞いていたが、紅目の魔女が先の戦争の後から不調なのは本当らしいな」
「!」
「前々からお前とは一度手合わせしたいと思っていたが、今の状態では話にならん」
トウザが刀を鞘に収め始める。
「……けんじゃないわよ」
小さく怒りに満ちた声が聞こえる。
「このような状態で手合わせなどしたくはない」
もうお終いとばかりに、トウザがマハルの言葉を打ち消す。
「ふざけんじゃないわよ!」
爆発的な闘気を解放させる。その勢いは、博物館内の窓ガラスが全て吹き飛ばすほどだった。
マハルが一瞬でトウザとの距離を縮める。暴龍のような勢いのまま、トウザの身体を拳で貫かんと――
「本当に残念だ」
――その拳が届くことはなく。
代わりに、マハルの首筋から一筋の血が流れる。首に当てられた冷たい刃は、彼女の昂りと熱を急速に冷ましていった。
余りにも呆気ない勝敗に誰もが呆然とする。
その後には、敗者側の混乱が待っていた。
最強と呼ばれた魔女が負け、軍に動揺が走る。
「何をしている、金色の魔女! それでも御三家か!」
魔法省長官の怒号が場内に虚しく木霊する。
対して、先程までの敗走が嘘のように、零の部隊が勢いを取り戻していき、戦況は五分五分になっていた。
「……殺しなさいよ」
再び始まった争いの中、トウザにだけ聞こえる声でマハルが呟く。
「そうか……残念だな」
余りにも淡白な言葉と共に、トウザが刀を振り下ろす。




