第17話 博物館への、突入
歩が目覚めると、そこはグレッグの店に充てがわれた自分の居候部屋だった。
時刻を見ると夜明け前で、まだ辺りは闇に包まれている。月明りが窓から差し込んでいた。
店の外には、案内人である零の部下がいて、歩は用意されていた馬車に乗り込む。馬車に揺られて1時間程経った後、案内人から降りるよう促された。
目的地である旧王立博物館前に着いたのだ。
馬車を降りた先は森の入口で、ここからは徒歩になる。道は舗装されていたが、あまり人が来ず、手入れもされていないのか、草木や苔に大分浸食されていた。
目的地に近づくにつれ、歩の表情が厳しくなっていく。
しばらく道を進むと、それらしき建物が目の前に現れた。
「これは……」
目の前の建物は、石造りの荘厳な建物で博物館と言われなければ神殿と間違えるだろう。
高さこそ1階建てであるが、小中学校の校舎が丸々入りそうな広さがある。
当初は眩い白色だった色彩は、年月を経てくすんでいたが、それがかえって神秘的な雰囲気を作り出していた。
博物館の入口手前に着くと、黒いローブを身にまとった50人ほどの一団が整列して待機しているのが見える。
ほとんどが20代の若い男女であった。様々な人種が入り混じっている。
傍から見れば、怪しい集団にしか見えないが、彼らの表情は皆明るい。
集団の中には零の姿があった。部下に色々と指示を出していると思いきや、1人1人に激励の言葉をかけている。
零の部下たちは、これから自分たちがすることへ思いを馳せ、興奮しているのか、頬は紅潮している。
対する零の表情も歩と話した時とは違って、柔らかな微笑が見て取れた。
(まるで家族みたいな雰囲気だ。それにしても……)
歩の視線の先には、集団の中で1人異質な存在を放つ40代くらいの男が静かに佇んでいた。
180センチを超える体躯に、年季の入った漆黒の日本甲冑と腰に刀を差している。
頭部は何も着けておらず、寝癖が残っているボサボサの髪と剃り残した無精髭が目についた。
「お兄ちゃーん!」
歩の思考を断ち切るように大きな声が聞こえ、小さな影が抱きついてくる。
「シア! ……大丈夫だった? 怪我は?」
「うん! シア元気だよ!」
歩の見せる優しい表情を見て、シアが抱きつく腕に力をこめる。
「来たか」
黒い集団の中から、沙良を付き従えた零が声をかけてくる。
手ぶらな零に対し、沙良はローブ姿に魔法杖を持っていた。中央に大きく綺麗な宝石が組み込まれている。
「約束は守ってもらうよ」
「ああ、その娘は返す。ただし、その子も館内に入ってもらった方が良い。ここに置いて行くのは危険だからな」
歩は少し逡巡した後、零の提案に頷く。
「さて、役者が揃ったな。歩、お前は俺について来てくれ」
零が手で合図すると、黒い一団が綺麗に整列する。
「さて、世界を変える時間だ」
旧王立博物館への突入が開始されるのだった。
博物館の中は存外綺麗だった。
明かりは各自が手に持った松明のみで薄暗い。だが、外観に劣らない荘厳な内装や貴重な展示物が入っていたと思われる空の展示ケースが見て取れた。
ほとんどいなかった警備員は既に無能力化されているため、誰にも邪魔されずに零たちは奥へと進んでいく。
ちょうど建物の中間辺り、一際広い空間に出たところで、それは起きた。
先頭を進んでいた数人が次々と悲鳴をあげながら、宙を舞っていく。
同時に辺り一帯を強烈な闘気と殺気が支配した。
同時に、博物館の明かりが一斉に点灯される。
現れたのは、この世界で出会ったマハル。
この世界で出会った時と同じ、白いワイシャツに黒いパンツスタイルとパンプス姿であった。
「……姉ちゃん」




