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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第1章 2つの世界
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第15話 残された、手掛かり

 歩が外に出ると、既に日は落ち、月が街灯もない廃れた町を照らしていた。

 市場までの道のりを戻り、急いでグレッグの店へ帰る。


 店の大多数はとうに締まり、昼間にあれだけいた人も今は少なくなっていた。

 市場がある通りの奥が呑み屋街になっているのか、時たま喧騒が耳に聞こえてくる。

 人口的とは思えない魔法の明かりを持った街灯が、柔らかな光を放ちながら足下を照らしていた。

 ようやくグレッグの店に辿り着いた歩だが、店に明かりは消えている。それどころか2階の住居部分も深い闇に包まれていた。


「しまった……」


 歩は呟きながら、店の通用口から中に入る。

 窓から僅かに漏れる街灯と月明かりの光を頼りに、電灯をつけないまま2階への階段を駆け上がり、その勢いのまま、グレッグの私室をノックもせずに開け放った。

 誰もいないことを目で確認してから、念のため、他の部屋をしらみつぶしに探す。

 最後に、自分に充てがわれた部屋の前まで来ると、封筒が扉の下に隙間に挟まっているのに気付く。

 手紙にはこう書いてあった。


『歩へ

 火急の用件ができたので、2-3日店を閉める。生活資金は引き出しにあるので、自由に使ってくれ。

 シアは儂の知り合いに預けるから、心配するな  グレッグ』


 手紙を読んだ後、歩は難しい顔をしていた。


(この手紙じゃ、今シアが無事なのか分からない。誘拐が後か先か、嘘か真実か。……しかも、僕には明日の朝までにそれを確かめる手段がない!)


 歩が魔法世界に来て、僅か2日。

 グレッグだけでなく、この世界のどこかにいる麗羽の所在も分からない。

 エルの顔が頭に思い浮かぶ。

 だが、1回行っただけの道のりで正確な場所が分からなかった。しかも、人に聞くにしても、こんな夜遅くに誰に聞けば良いのか。

 電話をこの魔法世界で見た記憶もなかった。

 警察に聞こうにも、歩自身が身元不明人で逆に怪しまれるだろう。


(道行く人に聞くしかないのか。この世界との繋がりが薄すぎる)


 歩は焦燥の思いを抱きながら、今自分に出来ることに考えを巡らす。ふと、手元の手紙を見ると、2枚目がある事に気付いた。

 自分がそれ程焦っていたことを反省して、大きく深呼吸をする。


『追伸

 正直、お前がエルに連れられて来た時は驚いた。ある男とそっくりだったからな。本人だったら度胸があるなと2日間観察していたが、どうにも演技には見えん(記憶を失っている可能性もあるが)

 と言っても、こちらの情報を全て教えるほど情が移っている訳でもない。だが、お前が来てから事が動き出したのを考えると、全く関係がないとは言えないだろう。

 儂から1つだけ教える。図書館で以下の本を借りろ。ただし、これより先は何が起きても知らんから自己責任でな』


 2枚目の手紙の一番下には本のタイトルらしきものが記載してある。

 それを見ると同時に歩は駆け出していた。 


 図書館に着くと、まさに職員であろう若い女性が閉館作業を終わらせようと入口に鍵をかけている最中であった。


「すいません!」


 歩の響き渡るかのような声に職員の女性が酷く驚く。後ろから大きな声を急にかけられれば誰だってそうなるだろう。


「な、なんですか?」


 動揺しているのか、女性は眼鏡を掛け直す仕草を見せる。


「驚かしてしまい申し訳ないです。閉館する前に1冊本を借りたいのですが」


「本ですか……すみません、閉館時間を過ぎていますので、明日では駄目でしょうか?」


 目の前の男がただ本を借りたい人だと分かり、女性が胸をなでおろす。


「時間がなくて! この本を急ぎ借りたいんです!」


 歩の余りにも真剣な表情と突き出された手紙に図書館の職員は戸惑いを隠せない。

 だが、手紙に書いてあった本のタイトルを見て表情が一変する。


「すぐにご用意します」


 そう答えて、職員が図書館の扉を開け直し中へと入っていく。

 数分後、1冊の分厚い本のようなファイルを持って出てきて言った。


「こちらがお探しの本『世界への扉』になります」



 グレッグの家に戻った歩は借りたファイルを読んでいた。

 ファイルには見出しが付いており、ある程度分類されている。だが量が多く、全てを読むのは難しいと感じた歩は気になった項目箇所を開いていた。

 誰かが書き綴ったノートや古い資料のコピー、新聞記事などで構成されている。

 その中でも、歩は今有用な情報のみを抜き出すことにした。


 異界について――このページにはいくつかのメモがファイルしてあった。

『まず初めに異界は存在する。

 この世界に異界との扉が現れたのがいつかは定かではない。だが、全く異なる世界への扉があるのは明らかだ。ハッキリ異界との扉が開かれたのは歴史上2回、建国時とこれを書いている新暦1003年より3年前の1000年だ。

 建国時に何があったのかを示す資料はほとんど存在しない。意図的に破棄か隠されている。ただ、建国王の日記のみが異界からの侵攻があったことを示している』


『3年前については、まだ記憶も新しい。一般的には、テロ組織根絶のための戦いとされているが、実際は異なる。

 あれは対異界戦争だった。

 情報統制が敷かれる中、私は数少ない目撃者かつ、当事者だ。

 私自身が消される可能性もあるので、ここに知っている全てを書き記しておく。

 3年前にあったことは生涯忘れないだろう。扉から出てきた異形の者たち。人々だけでなく、生きとし生けるもの全てを蹂躙する様は悪魔そのものであった。

 異界への扉は決して開けてはならないのだ。情報統制した理由も頷ける。軍の精鋭も歯が立たなかった。紅目の魔女でさえもだ。

 我々が生きていたのは奇跡としか言いようがない。眩いばかりの光が奴らを倒し、扉を再び閉めたのだ』


 建国王の日記について――このページには、タイプされた原稿と新聞記事の切り抜きがファイリングされていた。


『建国王の日記については、存在自体が公になっていない。

 諸説あるが、日記には異界についての詳細な記述があると言われている。

 また、日記自体に強力な魔法が秘められ、一説には世界を滅ぼせるともある。日記の大部分を代々護り手の家が管理をしているとされる。どの家が護り手かは長年極秘になっているが、調べた限りでは名家の1つである一条家だと思われる。

 一条家についてだが、建国時からの名家であり、当時は建国王から信頼されていたとされる。

 しかし、新西暦953年に家が取り潰しになる。当時の当主が魔法省と癒着し、私腹を肥やしていたようだ。

 その金額が膨大で、重要な機密情報も流していたことから関係者は即極刑に処された。

 唯一幼い子供の兄妹を残して。

 新聞によると、兄妹は施設へ移ったらしい。兄は魔法が使えないという噂がある。

 また、当主による子供への虐待疑惑が一部で囁かれていた』


『一条家の没落には不審な点がある。

 機密情報を売買した現場を抑えられて逮捕されたとあるが、警察の鮮やかな手腕を見る限り、内通者がいたことは明らかだ。

 それについて触れている報道が全くない。魔法省側からも逮捕者が出て、当時の長官が辞任している。

 魔法を使える者が優遇される社会では、もみ消されてもおかしくない事件である。一層の注意が必要だ』



「……世界を憎んで当然か」


 必要と思われる箇所を抜粋し、読み終えた歩がふと感想をこぼした。

 最後に新聞の切り抜きを見る。新聞は当時の一条家没落の記事がいくつもあった。

 どこから入手したのか、幼い兄妹が写った古ぼけた写真も入っている。


「これは……似てる」


 写真の兄妹は先程会った零と沙良そっくりであった。ふと、写真を注意深く見ると、右手の薬指に同じ形の指輪を2人ともはめていた。


「時間的にこのくらいが限界な気がする」


 時間を見ると、もう夜中の12時になろうとしていた。

 不意に歩の体と脳に眠気が襲ってくる。

 おぼつかない足取りでベッドへ倒れこみ呟いた。


「やっぱりこれは眠気なんかじゃ……」

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