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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第1章 2つの世界
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第14話 自分?との、対話②

 話に一区切りついたのか、零が指の腹で眼鏡の位置を調整する。

 シルバーの細いフレームが部屋の光を受け、鈍色に反射していた。


「お兄様、紅茶をどうぞ」


 話の途中で席を外していた沙良が、湯気の立ったティーカップを運んでくる。

 まるで、話の区切りを見計らっていたようなタイミングだ。

 カップからは、紅茶の良い香りが辺りに広がっていた。

 使い古した感じはするが、手入れの行き届いた高価そうな器である。


 そのカップを音1つ立てずに飲む零の所作は様になっており、どこかの貴族と言われても納得であった。

 ふと、右手を見ると薬指に年季の入った指輪をしている。

 互いが一息ついた所で、歩が話を切り出す。


「で、肝心の僕が協力することは?」


「建国王は自分の生涯を日記に記していた。日記は膨大な魔力を帯びていて、たった1ページでさえ、そこいらの魔法使が束になっても敵わない魔力があるとされている。そして、その日記にはあることが記されている……異界への扉の開け方がな」


「異界?」


 歩が興味を示したのが嬉しかったのか、我が意を得たりとばかりに零の舌が饒舌になっていく。


「建国王亡き後、日記はその危険性を憂慮され世界にバラバラに散った。うちは代々日記の一部を管理していた元名家でな。異界の記述がある日記を探していたが、1年前にようやく欲しかったページを手に入れることができた」


 熱を入れ始めた零を尻目に、歩がふと横を見ると、兄の様子が物珍しいのか沙良が目を見開いていた。

 そんな妹の様子に気付かず、更に話を続けようとする零に対し、


「そんな凄い日記があるなら、皆血眼になって探すんじゃない?」


「日記のことを知っているのは、ごく僅かしかいない」


「もう一つ。僕がこの間知ったこの国の歴史には、魔族のまの字も出て来なかったけど」


「魔族、特に異界への扉が存在することを公表すれば、それを悪用する者が現れる。時の政府は異界に対する全ての情報を遮断し、国民には嘘の情報を流した。……そして千年だ。それだけの時間が経てば、人は忘れるものだよ」


 それまで饒舌に話をしていた零だったが、最後の方はトーンダウンする。

 だが、次に話し始めたときには、すっかり元この様子に戻っていた。


「これが日記の一部だ」


 零が懐から折り畳まれた真新しい紙片を取り出す。

 零が紙片を広げようとすると、紙片が青白い光を帯び、自動的に開かれていく。

 まるで持ち主の意思を汲み取ったかのようだった。


 驚いた事に、日記には文だけでなく、絵も書いてあり、パラパラ漫画のように自動的に動き始める。

 残念ながら、絵のレベルは幼稚園児が書いたような拙さであった。

 目の前で繰り広げられている光景を見て、歩が思わず呟く。


「本当に千年前のものなの?」


「紙片の1ページに膨大で特殊な魔力が込められている。俺も初めて見た時は、同じ感想を抱いたよ」


 まじまじと興味深そうに、歩は日記を見つめる。

 開かれた日記に書かれていたのは、建国王の取り留めのない1日の記録だった。


(重要な所を見せる訳ないか。何々、建国王の好きな食べ物は……チーズケーキか)


 ケーキを食べる建国王の動きが絵で再生される。

 絵の拙さで細かな表情は分からない。ただ、その顔は笑っているように見えた。


「さて、話を戻そう。日記によれば、扉を開くには鍵が必要だ。それは異界からの訪問者――お前のことだよ、一条歩」


「……それを信じろと?」


「ならば、君は一体どうやって、この世界に来た? 君が存在していること自体、異界への扉が存在する証明に他ならない」


「……」


 歩が押し黙るが、シアを人質に取られている以上、選択肢の余地はなかった。


「具体的に何をすれば?」


「ただ、扉の近くにいて貰えれば良い」


「近くにいるだけ?」


「扉は普段堅く閉じられている。だが、異界からの訪問者が来た場合、扉はしばらくの期間、開いたままになるらしい。と言っても開くのは、小さな穴程度だ。しかし、訪問者が扉に近づくと、穴が大きくなり行き来が可能になると日記にはある」


「なるほど。扉が開いたらどうするの?」


「魔族をこちらに呼び、世界を一旦白紙に戻す。魔法という差別を壊すつもりだ」


 歩がポリポリと頭を掻き、天井を見上げる。


「戦争でも仕掛けるの?」


「この世界を変えるには、劇薬が必要だ」


「……」


 零の問いに、歩は無言で返す。

 会話は終始零のペースだった。

 数秒ほど目を閉じていた歩が口を開く。


「1つだけ聞いて良い?」


「何だ?」



「……君の目指す世界の先には何があるの?」


 歩が発した一言で空気が変わった。

 零と沙良が思わず息を飲む。

 変わったのは、歩の目だった――鋼よりも固い意思がいつの間にか瞳に浮かんでいる。

 揺るぎない瞳はどこまでも見通しているかのような透明さを併せ持っていた。

 今まで完全に零のペースであったはず。状況的にも覆せる訳がない。

 だが、零と沙良の身体は全く動かなかった。いや、動けなかった。


「と言うのは冗談で。シアが人質に取られている以上、協力するよ」


 そういった歩の瞳は元の穏やかなものに戻っていた。


「……そうか。協力に感謝する」


「!」


 零の言葉に沙良が何か言いたそうな表情をするが、結局何も言わなかった。


「決行は明後日の日の出とともに行う。場所は……旧王立博物館。そこに異界への扉が隠されている」

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