第11話 連れられて、地下アジト
その頃、歩が沙良たちに連れて来られたのは王都から離れている寂れた町だった。
辺りに人影はなく、物音もしない。まるで、この町だけがこの国から取り残されてしまったかのようだ。
歩の目の前には、“封鎖“と辛うじて読める錆びた金属製の看板が立ててあった。
その先には、僅かばかりの形が残る家々の残骸が広がっている。道には瓦礫が転がり、逞しい命を持つ雑草が荒れ果てた町並みに僅かな彩りを与えていた。
廃墟の町を進むにつれ、ある疑問が歩の中に持ち上がってくる。
民家の傷跡――初めは天災か何かで町が壊されたと思っていたが、良く観察すると、何か大きな力で建物が抉られているのが見れた。
町の風化具合を見る限り、この地から人がいなくなってからそんなに経っていない事が伺える。
「ここで3年前に戦争があったんですよ」
周りに視線を張り巡らせる歩に気付いたのか、先頭を歩く沙良が答える。
「……それが全ての始まり」
続け様に呟かれた彼女の小さな声。
意識せずに出たのだろうか。
近くにいた歩にだけは聞こえていた。
ただ、沙良の言葉よりも彼女の表情に歩はゾッとする。
一瞬ではあったが、能面のように無機質な顔が歩の頭にこびりついて離れなかった。
歩の思いなど知らず、沙良たちはとある民家の中へ入っていく。
民家の中は外観同様に荒れ果てていた。
この民家が秘密基地だと思い、拍子抜けする歩を尻目に、どんどん沙良たちは家の奥へと進み、一番奥の部屋にたどり着く。
6畳程の大きさの部屋は、他の部屋と同様に数年放置され風化していた。
ただ、他の部屋と異なり、部屋の中央に床下収納を思わせる扉がある。
だが、収納用にしては、扉は金属性でかなり重厚な作りに見え、その大きさは人間1人が余裕で通れる位大きい。
まさかと思い、歩は沙良に視線を向けると、
「ええ、この下が私たちの拠点になります」
そう言って、扉に手を掛け開け放つ。重そうな音を立てながら、地下への入口がゆっくりと姿を現す。中はうす暗く、永遠に闇が続いているのではないかと思わせた。
「さぁ、参りましょう」
沙良たちが扉の先にある闇に吸い込まれるように入っていく。
続けて中に入った歩は、あまりの暗さに明かりを探す。が、ローブの幾人かが手を虚空にかざすと、眩いばかりの光源がその手に現れる。
「魔法ってのは便利ですね、火要らずだ」
その様子を見て、歩が感嘆の声をあげる。
「ここは魔法国家。魔法が使えるかどうかで、人としての扱いが違うんですよ」
歩の感想にわざわざ答えてくれる沙良であったが、その表情には先ほどの能面がべったりと張り付いていた。
「……」
(また、この表情……)
石造りの階段を降りながら、歩は胸の中で思うのであった。
階段を下ると、広めの通路へと出る。高さは2メートル程だろうか、3〜4人が横に並んでも通れる幅がありそうだ。
通路の壁には、等間隔に燭台があり、淡い光が赤々と周りを照らしている。
明かりもただの火ではなく、魔法の火のようだ。
もう魔法の明かりは必要ないのか、先程までの眩い光を消しているのが見えた。
無言で通路を進んでゆく一行。
(なんだろう違和感があるな)
歩が一緒にいる黒いローブの一団を見ながら、1人心の中で疑問を持つ。
「この先が私たちの拠点です」
違和感を確かめようとした所で、沙良の声に思考が引き戻される。
目の前には、鋼鉄の重々しい扉が立ちはだかっていた。
沙良が白く綺麗な手を壁にかざす。
すると、彼女の手が淡い白い輝きに包まれ、鋼鉄の壁も共鳴したかのように淡く輝き始めた。
数秒で光が収まると同時に、重そうな音を立てながら、目の前の壁が左右に分かれ開けていく。




