第10話 強襲、グレッグ
少し前――グレッグとシア
(全く町の奴らめ、シアを連れて買い物に来ただけでサービスしおって)
夕方に差し掛かろうという時間、夕飯の買い出しのために市場へ姿を見せていたグレッグは、一人心の中で恨み節を言う。
その手には3人で食べるには、多過ぎる数々の食材が買い物袋から覗いていた。
「ねぇねぇ、おじいちゃん! お買い物ってすーーごい楽しいね!」
満面の笑みで話し掛けるシア。その笑顔を向けられ、思わず不機嫌になりそうだった顔がほころぶ。
(こんな顔をされたらな。それにこの娘を見ていると思い出す……)
瞬間、悲しみと後悔が入り混じった表情をするグレッグだが、幸いにして誰も気づく者はいなかった。
賑やかな大通りを抜け、家まであと少しという所、ふいにグレッグが立ち止る。
「おじいちゃん、どうしたの?」
不思議そうな顔で見つめるシアに対し、
「シアよ、良い子だから一歩も動くんじゃないぞ」
そう優しく微笑みかけると、
「そろそろ出てきたらどうじゃ? こんな老いぼれを付け回すとは、とんだ変質者だな」
一拍の後、全身を黒いフードで覆った一団が姿を現わす。
「で、そんなに殺気を放って一体何の――」
空を裂く風切音。
言葉を言い終わる前に黒いフードの一人が、取り出したナイフを投擲する。
陽光を受け、鈍色に光る凶器がグレッグの喉元に迫る。
そのスピード、照準共に正確無比。
常人ならば串刺しになるのが必定。だが、その男は――
「おいおい、いきなり危ないじゃないか。人通りもまだあるんだがな」
その手に持つのは先程のナイフ。
奇襲ともいえるその一撃を躱すどころか受け止めるその様には余裕が見れる。
「おじいちゃん、すごーい!」
事態が分かっていないのか、目を輝かせるシア。
一方、黒いローブの集団はナイフを止められた事に驚いたのか、少し動きが止まったものの、すぐに動きを再開する。
寸分違わぬ動きで左右から迫る2人の刺客。
その様子からは、相当訓練されている事が伺えた。
数秒でグレッグに肉薄、掌に持ったナイフで切り裂かんとする。
あと数ミリで死が迫るその間際――左右から繰り出された2人の手首を同時に掴み、捻りあげる。
老人とは思えない万力のような力で腕を締め上げられ、刺客が思わずナイフを手放した。
間髪入れずに、重い打撃がその腹に打ち込まれるのであった。
「さて、まだやるか?」
黒いローブの集団に向かって呼びかけるが、返答の代わりに今度は幾人かがその掌を突き出す。
すると、その手から淡い光が漏れだしてくる。
「魔法だと! 街中だぞ!」
舌打ちをし、前方に大きく跳躍するグレッグ。
ほぼ同時に先ほどまでいた場所で光弾が爆ぜる。
次々に襲いくる光弾を駆け抜け躱しながら、刺客との距離を詰める。
(一人目!)
一気に跳躍し、振り上げた脚で刺客の顎を打ち砕いた。
倒れそうになったその刺客を蹴り飛ばし、近くにいた別の刺客をよろけさせると、その顔面に重い一撃を叩きこむ。
「まだやるか……?」
小柄ながら刺客たちを見上げるその瞳、完全にこの場を支配したその空気――さながら獲物を目の前にする獅子そのもの。今度こそ刺客たちの足が止まるのであった。
しばしの対峙の後、一斉に去る黒いローブの一団。
グレッグはその去り際を見ながら、
(狙われたのは儂か、それとも……)
視線の先には相も変わらず目を輝かせているシアの姿があった。




