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となりの世界は魔法世界  作者: きの
第1章 2つの世界
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第9話 帰ってきた、魔法世界

 目が覚めた歩が初めに目にしたのは、隣で可愛らしい寝息を立てているシアの横顔だった。


(魔法世界に戻ったのか)


 体に異常がないか確認した後、周りの景色を昨日の記憶と照らし合わせる。

 間違いなく、一夜限りの夢だと思い寝たグレッグの客間であった。

 何より、隣にいるシアの存在と自分の体が感じている感覚が、この世界が昨日過ごした世界に他ならないということを感じさせていた。


「さて、行くか」


 寝ているシアをそのままに、歩が身支度を整え廊下に降りる。

 決意新たに外へ行こうとした矢先、厨房にいたグレッグから声を掛けられた。


「ちょいと仕込を手伝ってくれんかの」


「あ、はい」


 居候していた事をすっかり忘れていた歩であった。



 朝の仕込が終わった後、歩はとシアと一緒に図書館に来ていた。


「すごいよ、お兄ちゃん! 本がこんなに沢山ある!」


 初めて図書館に来たのか、シアが尋常ではない興奮を見せている。

 一方の歩は意気消沈した様子で本棚を見つめていた。


(そもそも、麗羽さんにしろ、姉ちゃんにしろ居場所を知らないんだった。グレッグさんに聞いてもはぐらかされるし。とりあえず、シアが本を読みたいと言うから図書館に来たけど)


 亜紗と会う時間までここで過ごすか考え込んでいた歩だが、袖をシアに引っ張られ、考えを中断する。


「ねぇ、お兄ちゃん! このご本読んで!」


「ん~。お兄ちゃん今ちょっと」


 シアの頼みをやんわりと断ろうとした歩の目に、差し出された絵本のタイトルが飛び込んでくる。


『くにのれきし スペーティアのたんじょう』


「これは……読もう!」


 敵を知り己を知れば百戦危うからず。

 敵がいるかはともかく、この魔法世界についての知識が全くない歩にとっては最良の本であった。



 昔々、この世界には、小さな国がいくつもありました。

 国々は互いに争い合い、戦争で沢山の人が死んでしまいました。

 誰もが希望を望んだ時に現れたのが、後の建国王になるアースオールでした。

 アースオールは相棒であり、魔法の発達に大きな影響を与えたグリン博士と一緒に騒乱を次々と治めていきました。


 まさに向かうところ敵なしです。

 アースオールは皆からの人望も厚く、人々にとって本当に救世主そのものでした。

 こうして、長かった悲しい時代は終わりを告げ、世界は平和になりました。

 一つになった国は、名前をスペーティアと呼ばれ、アースオールが初代国王になりました。

 めでたし、めでたし。



 少し面倒くさがりながらも、歩はシアの事を引き受けてくれたグレッグの店を後にして亜紗との待ち合わせ場所に向かう。

 グレッグの店は今日自主休業らしい。

 経営は大丈夫なのかと訝しむが、個人的には好都合だったので黙っていた。

 大きな通りから人気のない裏道に入り、しばらく進んだ所で歩が突然後ろを振り返る。

 誰もいない空間に向かい、


「で、いつまで付いてくるのかな?」


 その言葉に呼応するかのように複数の人影が現れる。

 その姿は見覚えのある真黒なローブで全身が覆われているため、顔や性別は分からない。その中の一人が前へと進み出る。


「尾行して申し訳ございません」


 その声色は若い女性のものであった。

 20前後だと思われるが、声と振舞から、どこかの令嬢と間違えてもおかしくない教養の高さが伺えた。


「僕になにか用ですか?」


 あくまでも冷静に距離を保って聞く歩に対し、ローブの女は穏やかに答える。


「お初にお目にかかります、私は沙良と申します。……あなたを迎えに参りました」


 頭に被ったフードを外して素顔を見せた女性は、どこかの貴族令嬢といっても不思議ではない美しさと凛とした佇まいをしていた。

 風に揺れる長い黒髪も手入れが行き届いていて、目を奪われる。


「迎え? タクシーでも呼んで送ってくれるのかい?」


 冗談交じりに答える歩であったが、女が真剣に考え込んでいるのを見て慌てて自分の発言を冗談だと弁明する。


「冗談ですか。たくしー……何だか楽しそうな響きです。何かの乗り物でしょうか?」


 もしかしたら森で会った黒ローブ達とは別人なのではないかと、本気で思ってきた歩であった。


「……タクシーはまた今度で。それよりも用事があったのでは?」


 先ほどよりも安堵して先を促す。


「あら、ごめんなさい。……実はあなたに会って頂きたい人物がいまして、私はその迎えの者です。お時間少しよろしいでしょうか?」


「……こちらも人と会う用事があるので、後では駄目ですか?」


 出来る限り穏便に済むよう、丁寧にこれからの約束の件を伝える。

 その説明に対し、女は口元だけで一目分かる作り笑顔を浮かべ、一言告げるのであった――


「その場合、人質に取っているシアさんの命は保証できかねますよ」

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