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第0話 始まりは、夢
「助けて」
今日も声が聞こえる。
いや、聞こえるというよりも、頭の中に直接響いてくるといった方が正しい。
「助けて」
辺りを見渡しても何も無い。周りは暗闇だった。
手を伸ばし、何かを掴もうとするが、上手くいかない。
そして、いつものように、
「今助ける!」
まるでそれまでというように、叫んだところで目が覚める。
「またか……」
男が自分の部屋の天井に向かって息を吐く。
男の風貌は至って普通だ。中肉中背、歳は20代前半に見える。黒髪で優しそうな瞳を持った青年である。
男の名前は一条歩。職業はパティシエである。
歩は最近よく見る夢に悩まされていた。誰かが助けを求める夢。
釈然としないまま、ベッドから起き上がり顔を洗いに行く。
変な夢を除けば、いつもの光景だとばかりに朝食の支度に取り掛かる――今日で日常風景が終わるとも知らずに。




