給士のお仕事 1
ファイが少し遅れて入ってきた。
「いやー、お待たせ。じいちゃんに買い物頼まれちゃってさ。もう、大変だったぜ……。ってお前目覚めたのか!?」
コクリとファーストが頷く。
「お前どうしてあの箱の中にいたんだ?何年いたんだ?あの遺跡はなんなんだ」
ファイは目を輝かせ、食い入るようにファーストに迫る。困ったように硬直するファーストをみたミサキは、慌てて止める。
「待ってくださいよ。ファイさん。ファーストさんは、喋れないんですから」
「そうなのか!?それは、悪いことをした。」
ファーストは羽ペンをすらすらと書く
『ここはどこ?』
「ここ?ここは、死の砂漠の唯一の安息の町、フレアリーの中央部にある宿だぜ。」
「ふぁ!?ここインドじゃないんですか!?」
驚きの声を上げるミサキ、憐憫の目で見るファースト、好奇の目でみるファイ。
『フレアリー……ってことは北部に西の神の神殿がありますね?一緒に案内してもらってもいいでしょうか』
「いいぜ、もともとその予定だったしな。その代わりと言っちゃなんだが、ほいこれ」
「その代わりと言っちゃなんだが――」
夕刻
ポックリハゲタカ亭は、大いに賑わっていた。
掻き鳴るは詩人のポルカ。響くは酔っ払い共のやかましい声。そしてグラスを割るミサキ。
「ひぃぃ、すみません、すみません!少々お待ち下さい」
「嬢ちゃんしっかりしておくれよ」
「はひぃ……」半べそをかきながら控室へと戻るミサキ。
「おつかれー、いやぁ……なんというかすまねえな。」
「ううぅぅ。っていうかなんでこんなにお客さんいるの!?」
「あぁ、この宿は普段踏破者様しか泊まらねえんだが、酒場だけは一般開放してるんだよ。まぁメインの儲けみたいなもんだな」
「……そういえば、昼にはお部屋にはだれもいなかったよね。泊まってる人たちって今どこに……?」
「あぁ、それはもう少ししたら来るよ。さぁ、もう1回だ」
「ひーん、行ってきますー」
その日ミサキは6皿の皿を割り、以降は皿洗いに回された。
ミサキは、誓った。日本に戻っても絶対にウェイトレスにはならないと。