一、マコトとマコト
東京郊外にある一軒家。その寝室。ダブルベッド。薄暗い中、菊池奈央という女と、佐野隆という男が寝転がっていた。菊池という女は両肘をつき、手の平の上に顎を乗せる恰好で佐野という男を機嫌良さそうに眺めている。佐野という男は、仰向けになり、そんな彼女をやや不思議そうな表情で見つめていた。
どうも二人は行為が終わった後のようだ。不意に菊池奈央が口を開いた。
「どうしたい? 君は何か私に訊きたい事でもあるのかな?」
「どうして、そう思うの?」
「君が変な顔をしていたからさ」
菊池という女はやや特徴的な喋り方をするらしい。少し逡巡した後で、佐野は口を開いた。
「いや、菊池さんが、どうして僕なんかと付き合ってくれて、オマケに結婚までしたいと思ってくれたのかが不思議でさ」
それを聞くと菊池は人差し指をこめかみ辺りでくるっと回し、それから顔をほころばせると、小さくくすりと笑った。
「もう直ぐ結婚するんだから、その“菊池さん”って呼び方も改めないと駄目だな」
「良いじゃないか。なんか、変な感じなんだよ。どうせ、世間に向けては今までの姓で通すんだろう?」
それを聞くと彼女は声を出して笑った。
「アハハハ。先ほどの質問といい、非常に君らしくて面白いな。
でも、確かにそうだ。呼び方なんてそれほど気にするようなもんじゃない。形式を重んじる人もいるが、少なくとも私達にはそれは似合わないな。よし。結婚後も、このまま苗字で互いを呼び合う事にしようか。ね、佐野隆君」
そう言ってまた彼女は微笑む。その後で佐野は直ぐに言った。
「話を終わらせようとしないでくれ。まだ初めの質問には答えてくれてないよ、菊池さん。どうして、僕なんかと結婚したいと思ってくれたのか」
菊池奈央と佐野隆の二人は、つい先日、婚約をしたばかりだった。プロポーズをしたのは彼女の方で、彼は直ぐにそれにOKを出した訳だが、どうもその時からずっとすっきりしない思いを抱えていたようだ。
「んー」
菊池奈央は指を天井に向けてくるくる回しながら、悩むような、それでいておどけているような表情を浮かべるとこう言った。
「そうだな。敢えて言うなら、君のその自己評価の低さ、かな? “ヘタレ”を公言していてそれを恥とも思っていない。そういう部分に特に惹かれた」
それを聞くと佐野隆は頭を掻いた。三度程。ポリポリポリ。そして、
「なんだい、そりゃ?」
と、さっきよりももっと不思議そうな表情で彼はそう尋ねたのだった。
佐野隆はライターをやっている。今は定期的な仕事があるが、収入はやや不安定だ。つまり、性格だけでなく経済的にも彼は頼りなかったのだ。佐野からしてみれば、彼女に自分と結婚する事によって得られるメリットがあるようには思えなかったのだろう。
或いは、菊池はメリットやデメリットなど考えなかった、という線も考えられるが、彼女と彼はそれほど情熱的に愛し合っていた訳ではない。それに、そもそも菊池奈央はそういったタイプの女性ではないのだ。理性先行で感情だけでは動かない。
佐野の疑問符を伴った言葉を受けると、菊池はやや悪戯っぽい表情でこう言った。
「そうだな。こう言えば分かってくれるかな? 君となら“カタツムリにならなくて済む”と、私はそう思ったんだよ」
「カタツムリ? 何の話だい?」
“こう言えば分かってくれるかな?”と前置きしたにもかかわらず、少しも分かり易くなっていない。むしろ分かり難くなっている。しかし、直ぐに彼女は説明を追加した。
「知っての通り、カタツムリは雌雄同体だ。その雌雄同体であるカタツムリは、非常に面白いセックスをする。オスの部分は、互いに自らの精子を相手に受精させようとがんばり、メスの部分はそれを防ごうとするんだな。
……まぁ、卑近な表現を用いるのなら、カタツムリは互いをレイプしようとする訳だ。その様はまるで格闘技を見ているようだと書いている人がいたよ」
それを聞くと佐野は肩を竦めた。
「それはなんとも凄まじいね」
菊池は続ける。
「これは、メスは相手の精子を受け入れる事にリスクがあるからだ、などと説明されているようだ。相手が病気を持っているかもしれないからね。対してオスは相手を受精させることに対してリスクをそれほど持たない。だから、オスである自分は相手に精子を注入しようとし、メスである自分はそれを防ぐって行動に出るのじゃないかと思う。
これはカタツムリの話である訳だが、なんとも含蓄あるエピソードだとは思わないか、佐野君? 人間社会の男女関係にも当て嵌められるような気がするよ、私は」
その菊池の問いかけを受けると「ふむ」と佐野は言い、少しだけ変な顔をすると、一呼吸の間の後で口を開いた。
「それで、菊池さんが僕と結婚したら“カタツムリにならなくて済む”と言った理由は?」
どうも彼はなんとなく分かったような、それでいて分からないような、曖昧な気分になっているらしい。
「私が言ったのは生物学上の性別の話じゃない。ジェンダー…… 文化的な性別の話だね。生物的には難しいが、人間は文化的には雌雄同体になる事が可能だ。つまり、今現在、男性的役割と呼ばれる役割も、女性的役割と呼ばれている役割も、どちらでも担う事ができる。
しかしだ。もし仮に、夫婦のどちらもが男性的役割を担いたいと思っていたなら、女性的役割を押し付け合う事になってしまう。レイプし合っている訳じゃないが、それで喧嘩にもでなったら、まるでカタツムリみたいじゃないか」
その言葉に佐野は大きく頷いた。
「なるほど。よく分かった。だから、“カタツムリにならなくて済む”か」
「その通り。君は結婚したら、家事も育児もやってくれるつもりでいるんだろう?」
「そりゃ。だって、菊池さんだって働いているじゃないか。しかも、君の方が収入は良いくらいなのに」
それを聞くと菊池奈央はゆっくりと微笑みをつくった。
「佐野君は、当然の事のように言ってくれたけどね、夫婦共働きでも家事や育児をほとんどやらない男親がこの日本においてはとても多いんだよ」
「女性も働いているのに?」
「そう。日本男性の労働時間は長いと言われているが、家事労働等も含めると実はそれほど長くない。反対に日本女性の労働時間は非常に長くなる……
もしも、そういう男に家事や育児をやれと言ったら恐らくは喧嘩になるだろう。私としてはそんな事に労力をかけたくはないんだ。その点、君はまったく心配いらないだろう」
その言葉に佐野は軽く頷きながら「まぁ、そりゃね。しかし、意外だな。そんな酷い男は結婚できそうにないと思うのだけど」とそんな事を言った。共働きでも日本の男親が家事をやらないという話が、彼にとってはややショックだったようだ。
「まぁ、実際、良妻賢母主義で、専業主婦が当たり前だと思っているようなタイプの男は未婚率が高いらしいけどね。つまり、結婚し難いんだ。男が結婚したかったのなら、女に家事育児を任せっきりにしない態度を示すべきだろう」
そう菊池が言い終えると、そこでもぞもぞと体勢を整え、両手の手の平を組んで枕代わりにしながら、佐野が言った。
「世の女性達はよく我慢しているな」
「我慢してない女性もいるよ。だから、この国の女性は結婚願望が低いんだ。そしてそれが出生率の低さにも影響している。が、日本の政治家の多くはこの点をまったく理解していない。
“お国の為に犠牲にならないとは何事か!”
って感じで女性批判をしているよ。観点がずれまくっているし、そもそも民主主義の発想じゃない。女性に犠牲を強いるんじゃなくて、結婚すれば女性も仕合せになれるような社会を目指すべきなんだ。そんな生まれて来る時代を間違えたような政治家達が、まだまだ現役なんだから、この国の国民はまったく不幸だよ」
菊池のそのため息まじりの言葉を聞くと、その所為かどうかは分からないが、佐野は何事かを考え始めた。そんな彼を彼女は不思議そうな表情で眺める。その視線に気づいたのか、彼は口を開いた。
「さっき菊池さんは、“カタツムリのセックス”の話は人間にも当て嵌められると言ったよね。つまり、生物的な性差が文化的な性差に影響を与えていると言ったんだ。やっぱり、そういうのもある程度は、持って生まれた人間の性質の所為なんだろうか?」
それを聞くと、菊池は片手を頬に当て「ふむ」とそう言うと、「なんだい? ライターの知的好奇心にでも火がついたかい?」とそう彼に尋ねた。
「確かに、仕事に活かせそうではあるけど、今は単純に興味があるんだ」
それを聞くと、彼女は少し考えるような仕草をした。うつ伏せになり、上目づかいで佐野を見ながら言う。
「他の国では、ちゃんと男性の家事参加は増えているし、日本でもずっと昔は男だって家事をやっていたから、“男はそんな生物だ”なんてのは言い訳に過ぎないと思うけど、確かに生物としての“オス・メス”の影響を人間は受けていると思う」
「性差なんてのは、遍く文化が創り出したものだ…… なんて主張をしている人もいるみたいだけど?」
「一部の過激なフェミニストはそうかもしれないね。でも、統計を取るとどう足掻いても差があるとしか思えない結果が出てくる。やはり、ある程度は男女の生物的性質は異なっていると認識するべきだと私は思うよ。それにもし男女間に“違い”がないのであれば、そもそも『男性中心社会』なんてものが生み出されるとは思えない。まぁ、“子供が産めるかどうか”だけで男性中心社会の発生を説明できない事もないが、やはりちょっと無理があると私は考えるね。つまり、男女には生物学的に差がある。
もっとも、ここが勘違いを生むポイントでもあると思うんだけど。
男女に“違い”があっても、それは傾向を示すに過ぎない。一般的な男性よりも背の高い女性もいるし、力の強い女性もいるだろう? だから、役割を決める上での指標に性別を用いるべきではないとは言える訳なんだけど、これを理解している人がどれだけいるかは大いに疑問だ……」
そこまでを語ると何故か菊池は口を閉ざした。不思議に思って佐野が「どうしたの?」と尋ねると、彼女はこんな事を言って来た。
「いや、ちょっとツマラナイなと思ってね。どうにも話がありきたりだ。どうせなら、普通の男女平等論じゃ扱わないような話からし始めた方が面白いと思って」
「例えば?」
「例えば、そうだな。そもそも生物は、どうして性別なるものを創り出したのか、その役割は何なのか、どう変化して来たのか……」
はい。
なんて流れで、“生物学的な性別”の話に入ってみました。ちょっと無理がありますかね?
まぁ、気にしないで続けちゃいます。
知っているとは思いますが、太古の比較的単純な生物には性別なんてものはそもそも存在してはいませんでした。単為生殖…… 自分が自分のコピーを生み出すことで生物は繁殖して来たのです。
ところが、これには一つ大きな問題点がありました。自分自身をそのままコピーするだけでは、あまり遺伝子は“変化”しません。“変化”しなければ“進化”もありません。そして“進化”しなければ、何らかの大きな環境変異が起こった場合、その変異に適応できず、一気に絶滅してしまう恐れがあるのです。
だからなのか、ある時期に生物は複数の遺伝子を交換し合い、それにより積極的に自己を変異させる、という事をやり始めました。そして、そのうちの一つに、性別を分けて交雑を行うという行為があります。つまりはこれが“性別”の創成ですね(細菌なども遺伝子を交換し合っているので、セックスだけがその唯一の方法という訳ではありません。因みに、菌類の中には性別の種類が千を超えるものもいるそうです)。
ミジンコは、通常はメスだけを産みますが、何らかの危機的状況に陥った場合にはオスを産むと言われています。これは“危機的状況”に陥ったことにより、自己が変異する必要に迫られたからだと説明する事が可能です。
恐らく、初期の性別の目的は、遺伝子を効率良く変化させる事だったのでしょう。ですが、そのうちに生物は違った役割を“性別”に持たせるようになってきました。つまりは、“性役割”です。ただし、この性役割の分担方法は生物の種類によって大きく異なっています。ある種では、オスが巣を作ったり。ある種では、メスが狩りをしたり。そういや、ライオンのハーレムの主は、縄張りを護る以外はほぼ何にもしないんでしたっけ?(そもそも役割じゃねぇ)。
と、こんな風に性役割は多種多様ですから、とても一般化はできないでしょう。そしてならこんな風な興味を覚えるはずです。生物学的に、人間の場合は、どのような性役割になっているのか?
しかし、これは中々に厄介な問い掛けなんです。何故なら、そういった役割が、遺伝子によってどの程度、生得的に宿命づけられているのか、つまり、後天的な影響によってどれだけ変わり得るものなのか、はっきり言ってその判断は非常に難しいからです(そもそも、遺伝子は単独では生物の形質を決定しないのですが)。
人間以外の生物でもこれは言える訳ですが、人間は行動を学習できる生物である上に、社会・文化の影響を色濃く受ける為、より複雑になります。だからこそ、社会で信じられている性役割に対して疑問を覚える人も多く、「男だからこう」、「女だからこう」という性別のステレオタイプを決める主張に対し、批判の声が上がりもするのです。
これは、人間という動物が二種の性別を持っている事を意味してもいます。何度も触れていますが、生物学的な性差(つまり、セックス)と文化的な性差(これは、ジェンダーですね)です。
性決定は、魚類などでは環境によって為される場合もあり、オスメスが入れ替わるような現象も起きますが、進化が進むとこのような性質は失われ、例えば、ワニなどでは生まれて来る時の温度で性決定が為され、哺乳類などになると遺伝子によって“ほぼ”性別は決定されます。
“ほぼ”とわざわざ強調して書いたのは、実は哺乳類などでも遺伝子だけで性別は決定されないからです。例え、遺伝子型XY(普通、男性の遺伝型とされる)であったとしてもその後、何らかの原因で、ホルモンなどの分泌が行われなければ、その人間は女性になります。
しかも、です。実は生物学的な性差も普通に考えられているよりもよっぽど定義づけは困難だったりするので(キャスター・セメンヤという女性陸上選手は両性具有である事が判明しましたが、女性の定義付けが困難である為、その後も女性選手として活躍しています)、こういう事を考え始めると、もうワケが分からなくなってしまいます。
そして、更に、当たり前ですが、女性や男性には様々なタイプの人達がいます。だから、先ほど述べたような「女性だから○○だ」という決め付け、ステレオタイプが成り立たないケースが多々あるだろう事は、ほぼ自明なのです。作中で菊池さんに語ってもらった通り、性別を役割を決定する為の指標にするのには無理があります。
ですが文化は、それを許さない傾向にあります(それが何故なのか考えてみるのも面白いかもしれません)。性別のステレオタイプを求め、そこから外れた人間達を異分子であるかのように扱いたがります。しかも、そのステレオタイプがどちらかの性に対し不平等な役割を押し付けるものである場合もおうおうにしてあるのです。
当然、先進国の多くでは、そういった不平等を払拭しようとする方針を掲げていますが、単なる建前であったり、どれだけ払拭しようとも色濃く性差別が残ってしまうケースが多々観られたりと、中々難しいのが現状のようです。
「……で、生物学的な観点から性別を観てみた訳だけど、これで何か分かるの?」
菊池奈央の話を聞き終えると、佐野隆はそう尋ねた。すると澄ました表情で彼女はこう答える。
「何事においても、基本的な部分を抑えておくのはとても重要だよ、佐野君。例えば、そうだな。性別というのが本来、多様性を促す為にあるのだと分かると、何故、世界中の社会で近親相姦が禁止されているのか、巧く説明ができる。
近親者は遺伝子が似通っている。だから、交雑しても多様性は増やせない。そんな無駄な行為を防ぐ為に近親相姦は禁止されているのではないか?とかね。
もちろん、その他にも男女の性質を考える上で、生物的な特性を捉える事は重要だ。先のカタツムリの話にも関連するが、女性は男性と違って出産にコストがかかる。だから、より慎重に相手を選ぶ傾向があるのではないか?と考えられる。
もっとも、進化論ベースの思考には注意も必要だ。進化には無意味進化も無駄な進化もある。だから、飽くまで参考程度に捉えておく必要があるんだな」
そう言い終えると、伏せた姿勢のまま、ベッドの上で菊池は足をまるでばた足をするようにパタパタとやった。それを見て、佐野は“考えがまとまらないのかな?”と思うと彼女を助けるような気持ちで口を開いた。
「まぁ、生物学的に性別ってものが何なのか分からないと、社会的にも性別ってのをどう捉えれば良いのか分からないよな」
佐野のその言葉を聞くと、菊池は足をパタパタさせたまま、まるで独り言を言うように彼にこう尋ねた。
「佐野君は、男女のステレオタイプ肯定派なのかな?」
「ステレオタイプ肯定派?」
「男はこうあるべき、女はこうあるべきって、社会が漠然と定めるモデルの事だね」
佐野はそれを聞くと、少し考えてからこう返す。
「別に肯定派のつもりはないけど、ただ、なくそうと思ってなくせるものだとは思えないな」
「なるほどね。それも一理ある」
そう言うと、今度は菊池は仰向けに寝転がり、天井を眺めると、その少しの間の後で、口を開いた。
「なら、積極的にステレオタイプを提示してやるってのも一つの手かもしれないな」
「何の話?」
菊池は説明を吹っ飛ばして話す事がよくある。そういう時は、大体は本人が考え事をしている場合が多いのだが、今もどうやらそのようだった。彼女は説明を追加した。
「男女平等社会に相応しい男女像ってのはどんなものか。男女には傾向差があるって事を認めた上で、積極的に提示してみるのも面白いかもしれないって私は思ったんだよ。今の男女平等論議では、どちらかというとステレオタイプを否定するだけのような印象を受けるからね」
「へぇ」と、佐野はそう応える。彼はまだ彼女の言う事が上手くイメージできていなかった。しかし、彼女は彼を置いてけぼりにして話を進めてしまう。
「名前は、マコトとマコト。マコトって男でも女でもある名前だからね。どっちかが女でどっちかが男だ。この仮想人格を、ネット上に提示する。ほら、ちょうどバーチャルアイドルみたいな感じだよ。でもって、皆で少しずつこの仮想人格に肉づけをして、具体的な人物像を育てていく。私達は促すだけで、極力自然なままに任せる」
そこまでを聞いて、佐野はなんとなく彼女のやりたい事を察した。
「もしかして、それを君が今関わっているあのプロジェクトのコンテンツか何かにするつもりかい?」
「その通りだ。そういう遊びがあっても良いだろうと思ってね。それに、或いは、意外に面白い試みになるかもしれない」
彼女、菊池奈央は、システムエンジニアをやっている。そして今は地域社会活性化の為のあるSNSサイトを立ち上げようとしており、もうすぐ始動するそのSNSに、彼女は何か良いコンテンツがないかとずっと考えていたのだ。
「まぁ、駄目で元々だ。そんなにコストもかからないだろうし。もし、上手くいって皆がこの仮想人格を成長させてくれるようになったなら、マコトとマコトが果たしてどのようなものになるのか、色々な意味で興味深いじゃないか」
菊池はそう言うと、佐野に向かってゆっくりと微笑んだ。