はじめに
『自然主義文学』というジャンルがあります。これは日本では私小説の一つのように思われているようですが、本来『自然主義文学』の“自然”は『自然科学』の“自然”です。もちろん、SFのような作品という意味ではありません。要は自然科学的発想で世の中を捉えて、小説として表現しようというものです。
似たような“誤った理解”の話は他にも多数あります。『数学』を自然科学の一種だと考えている人は多いでしょうが、実は『数学』は本来ならば人文科学に分類されるべきものです(そもそも数式って、“文”ですからね)。『小説』は今では『物語』と区別されない意味で用いられていますが、本来は文字通り「小さな説」、つまり「個人的な説」の意味でした。かつてはメッセージ性が込められている物語のことを小説と呼んでいたのです。
もちろん、これは「だから、どうした?」という話でもあるんです。元の意味からかけ離れた意味を言葉が持ってしまうのはよくある事ですしね。24時間やっているのに、『セブンイレブン』とか、ファミコンの情報は一つも載っていないのに『ファミ通』とか。
しかしです。その本来の意味を意識する事で何かしら役に立つというのであれば、これはその限りにあらずでしょう。その本来の意味を主張する事には、充分に価値があるはずです。
「本当は『数学』は文系の学問なんだ」
って意識してもらう事で、実は数学がシミュレーション世界でしか成り立たない学問なんだ、と皆によく分かってもらえるようになるかもしれません。数学の世界と現実には乖離があるんですよ。地球は球体なので、通常、学校で教わるような平らな面を想定したユークリッド幾何は、実は成り立ちません。地球上では三角形の内角の和は、厳密に計れば、180度よりも上になるのですね。
小説だって、「メッセージを訴える手法としてあるのが『小説』なんだ」って意識してもらう事で、メッセージ性を重視した評価基準で皆が小説を評価してくれるようになるかもしれません。それで社会問題等を扱った小説が高い評価を受けるようになったなら、世の中全体が良くなっていきます(個人的な意見ですが、評論家の仕事は、このようなスタンスで行われるべきものだと僕は考えています)。
さて。
この今書いている文書を僕は「小説だ」と主張して世の中に発表するつもりでいます。そしてこんな事を語って来たからには、ここでの『小説』の意味は本来の「小さな説」。つまりは「個人的な説」の意味です。
ただし、だからといって初期の文学作品のようなものをこの小説に期待しないでください。僕の意図は過去の『小説』を復活させる事にはありません。それどころか、むしろ、未来志向です。頭の堅い人が「こんなものは小説じゃない」と主張するかもしれないような、そんな内容の『小説』を僕は書くつもりでいます(まぁ、意外に普通の小説かもしれませんが)。
時代は進化し、様々な考えが生まれ、それだけに多様な観点から物事を捉えられるようにもなりました。ならば、小説だってそのように多様な観点、表現方法を持つべきでしょう。人間科学、社会科学はもちろん、自然科学の様々な分野、それらから学べる全ての事をできる限り活かすべきです。
そして小説を書き、公表するその目的は、『人間社会に良い影響を与えること』であるべきだと僕は考えます(もちろん、これは先ほど説明した小説の“評価基準”とも被ります)。
ただし、『人間社会に良い影響を与えること』というのは非常に漠然とした言葉でもあります。単純に考えても、短期間・長期間の差がありますし、個人レベルで影響を与えられる場合もあれば社会全体に広まらなければ、良い影響を与えられないものもあります。また、本人が無自覚なまま影響を与えられるタイプだって考えられるでしょう。
世の中には様々な価値観がありますから、そもそも“良い影響”の定義ですら、明確には定められないかもしれません。
ですが、それでも僕はここでこう主張します。
この小説は短期的にも長期的にも個人レベルでも社会全体レベルでも、そして無自覚な領域に対しても“良い影響”を与え、そしてそれはある程度の人類共通の価値観に則ったものである、と。
……と言うのは、まぁ、言い過ぎですが。
しかし、できればそんなものを書きたいと思っているのは本当です。
(これを読んでくれている人の中には、どうしてこんなもんをこの人は小説の冒頭に書いてるんだ?とか思っている人もいるかもしれませんが、もちろん、これにはちゃんと意味があります。あなたがこの小説を評価するつもりなら、よく考えてみてくださいね。
……なんてね)
因みにこの小説は、『ジェンダー及びに、人口減少問題、それらを乗り越える為の文化やコミュニティ等を含めた社会システム』がテーマです(なんか、いかにも欲張って失敗しそうな感じのテーマですが)。
ジェンダーってのは文化的性別、または文化的性差などと理解される場合が普通ですが、ここでは生物学的な性差とも不可分で、かつ(少なくともその一部は)土台となっていると判断し、それについて疑問符を投げかけてみる事から、この小説を始めてみたいと思います。
『生物はどうして“性別”なるものを創ったのか。また、そもそも“性別”とは、何なのだろうか?』
“……え? そこから?”
って感じですかね?