私と彼女は嘘をつく
第一章 「始まり」 まだ冬の風が残りながらも早くも春を感じさせようとする、夜道を潜りぬけ細々と光る看板を見えた。
地下へとつなぐ階段を下りキャンドルに灯された重い扉を押し開けた。
「いらっしゃいませ」その言葉と共に煌びやかなシャンデリアが友希を迎え入れた。
「本日、20時から面接をお願いしている、矢野です。」
「こちらの席に座って待ってて下さい」さっぱりと言い切りカウンターへ戻って行った。
「ありがとうございます」軽く会釈をしながら店内を見渡す。BGMがより一層友希を緊張へと包み込む。
「おはようございます」その声の先に視線を向けると、黒髪のロングヘアーを揺らしながらきっちりとしたジャケットと、白く光るブラウスがよく似合う女性が、友希に向かって微笑みかけ、まさに彼女自体がハイブランドの様に美しく魅了させて見せた。
「遅くなってしまって、申し訳けございません。ひろ子と申します。」
「初めまして、矢野友希と申します。今日はお忙しい中ありがとうございました」
ひろ子の丁寧な挨拶に、友希は失礼の無いように精一杯の挨拶で応える。
「早速ですが、当店では夜の20時から朝の5時までの営業になります。週に3日の出勤が出来る方を条件とした募集をしています。矢野さんはその辺については大丈夫ですか?」
5時まで…っと心の中で戸惑いを覚えながらもひろ子の威圧感に怯んでしまい威勢よく返事をしてしまった。
「5時までか…5時まで働くのに時給900円?断れば良かった」独り言が耐えないままゆっくりと歩き出した。
家に着く前にコンビニに寄る事が日課だった、特に欲しい物はなかったが真っ直ぐ家に帰る気分ではないからだ。
その理由は、友希には2つ帰る家がある。
一つは自分の家、もう一つは自分の夢への戦力となる場所だ。
自分の家といってもルームシェアをしているので一人暮らしではない、つまり友希は一人の時間をゆっくりと過ごせる場所がないに等しい環境だった。
決っして2人との関係性は不仲ではなかったが、鍵を差し込む瞬間気が重かった、2つの扉を開けると同時に自分の本当の姿を脱ぎ捨て、もう一人の友希として足を踏み入れなければならなからだった。
友希には夢があり歌手として成功する事だった。その為に東京へと上京し、カフェでバイトをしながら生計を立てていた。
夢と言っても莫大としていてこれといった戦略を持ち合わせていなかった。
そんな中思いついたのが バーで働く事で自分をアプローチする事ができ尚且つ時給が出るという安易な考えであった。
第2章 「初出勤」
「おはようございます…」細々とした声で挨拶をしてカウンターへと向かった。
「おはようございます、今日から一緒に働いてくれる事になった友希ちゃんです。」
ひろ子が常連客に友希を紹介し更衣室へと連れて行った。
「友希ちゃん、緊張してる?最初はここの雰囲気に慣れていってくれるだけでいいからね?あとは、笑顔!これが一番大事で難しかったりするんだよねー。少しづつ頑張っていこうね?よろしく!」っと言うと手を差し伸べた。
「はい!こちらこそ宜しくお願いします。」
ひろ子の優しい言葉に緊張が和らいでいった。
その日は、緊張しながらも無事1日を終えた…
友希はバーとカフェを行き来する生活にも慣れ、バーのお客さんにも名前を覚えてもらい芸能活動以外は順調だった。しかし、友希の思惑とは違う現実があった。歌手としてのファンを獲得するどころか、バーの店員としてのファンすら獲得出来ずにいた。
他のスタッフとの中も良好だが、思うように物事が進まない事に不満を抱いていた。来る客相は年齢層は高く気難しい客が多かった。
第3章 「ルーカスと友希」
そんな中、彼氏のルーカスとの時間は友希にとって安らぎのひと時だった。
ルーカスとの出会いは、友希が趣味で描いている絵を飾ってもらっているお店で出会った。
友希がいつもの様に、絵を何枚か持ってお店に行くと、オーナーと話し込んでいる外人がいた。
友希は声をかけず、ミルクティーを注文し席に座った。数分後オーナーが友希の元へ来た。
「矢野、お疲れさん!元気だった?」長めの前髪を耳にかけ直しながら友希の目の前に座る。
「陽司さん、お疲れ様です!元気ですよー!芸能活動以外は、、、」友希は吸っていたタバコを消し、オーナーに絵を見せた。
「今回ペース遅くない?けどこれとか、もろ友希って感じで俺好きだな!」オーナーが手にした絵は友希が大学時代に描いたものだった。
「あー。それ実は大学の時にコンペに出すつもりで描いたやつなんですよね。今回枚数足りなくて、物置から引っ張りだしたやつです」
「へー、友希って大学でも絵描いてたんだ?」
「趣味な感じですよ」
絵を見てもらっていると、オーナーのもとへさっきの外人が来た。
「陽司、もう出るよ。今日はありがとう!」
「またゆっくりおいでよ?新しい作品も出るからさ?あ、さっきの絵描いてたのこの子だよ」
友希は急な不意打ちにびっくりしながらもルーカスに挨拶をした。
「初めまして矢野です」
「初めましてルーカスです、よろしく!あの絵は君の作品だったんだね?君の表現は独特だね?」
「どうも、賛否両論はかなりありますけどね…むしろ否の方が」
「そうなんだ、また遊びに来るよ!矢野さん、また!」
ルーカスとはオーナーを通じて何度か会う様になり、お店以外でもよく2人でご飯や美術館へと足を運び2人が恋人になるのにはごく自然な流れだった。
そんなルーカスは友希にとって大事な存在だった。
最近の友希はバーとカフェでほぼ1日が終わり、芸能活動やお店に飾ってもらう作品に手をかける余裕がなく、友希本人も焦りはあったものの、現実的にお金には余裕がなく今の現状維持で精一杯だったのだ。
そんな友希を見かねて、ルーカスは気分転換に食事に誘った。
小さなお店であるが、プロレベルのミュージシャンが生演奏する、ショータイムがあるお店だった。
ルーカスは友希へサプライズの為にショータイムがあるのを内緒にしていたのだ。
「友希最近は順調なの?」
「仕事?芸能活動?」
「両方、でも最近忙しそうだね?ちゃんと寝てる?」
「んー。仕事は慣れてきたよ?掛け持ちはキツイけど…まあ働かないとはね?活動の方はさっぱり、時間もなければあてもないし…寝れる時は寝てるよ?ルーカスはどんな感じなの?」
「そっかー。体が1番出し、無理はダメだよ?それに目標持って状況したわけだから、そっちを優先しないとでしょ?俺は相変わらずだよ?」
「うん、そうだね。自分でも分かってるんだけどね、上手く回せなくて」
友希はルーカスの言葉に苛立ちを感じながら、心配してくれているルーカスに当たってしまう、自分にも嫌悪感でいっぱいだった。
2人に気まずい空気になっていた中、照明が落ちお店の端っこにライトが集まった。
ピアノの音が響き渡り、歌が始まると店内にいた客が静まり返り、一同を魅了させた。
友希もその歌声に聴き入っていた。それと同時にこの場の雰囲気を一瞬で自分のものにしてしまう事に嫉妬心も感じていた。
「友希どう?素敵だと思わない?このお店は毎日、色んなアーティストが歌を歌ったり、楽器を演奏したりするお店らしくて、最近の友希は活動に時間も使えなかったみたいだし、少しでも気分転換出来ればと思ってね!刺激受けた?」
にこやかに微笑むルーカスを見て、友希の中で自分と他人を比べられた様に思い、気持ちが一気に溢れ出した。
「なんのつもり?どうせ、私はあんなふうに歌えないよ!毎日ただ働いて、夢に向かってなにも努力してなくてさ?けど何?自分のペースでやっちゃダメなの?あんなふうに輝きつづけなきゃダメなの?今の私にはあんなふうになれない、なりたいけどなれない、実力もないし、ルーカスはそれをわざわざ見せつけるために、ここに連れて来たの?どうもありがとう…」
ルーカスは何も言えないまま、友希は感情をぶつけた。
「友希?何言ってるの?そんな事思うわけないでしょ?俺はただ、友希に気分転換して欲しくて、今日は誘ったんだよ?」
「ルーカスごめん、今は感情が乱れてて受け入れられない、誘ってくれたのに…ごめん、私今日は帰るよ。ごめんね?」
友希はルーカスの話しも聞こうとしないまま、店を出た。
つづく




