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7、黒ウサ仮面とは仮の姿

 



 唇より上の部分を覆って隠すお面をくっと押さえつける。

 受付嬢をキョドらせた原因の一つは私がつけているお面だろう。

 私は、長い二つの耳がとってもキュートな、黒ウサギのお面をつけてギルドに乗り込んだのだ。


 理由はモチロン正体を隠すためだ。

 髪の色も声音も弄ってはいるが、念には念をいれて、顔の半分が隠れるお面をつけることにした。


 別にちっとも恥ずかしくなんてないんだからね。

 此処に足を踏み入れた時の静寂が、ガラスのハートを粉々にしたとか、そんなことは無いからね。


 入口で立ち止まったのは、このままドアの回転に流されて、外に出ちゃおうかなぁ~なんて事を考えていた所為じゃないんだから!


 だって私は強い子だもん。キースとローザの為ならこのような辱しめの一回や二回や三か……。


「のっ!調子に乗るんじゃねぇぞ糞ガキがぁ!」


 おっと忘れてた。羞恥心に頭ん中でもだもだしている場合じゃなかった。


 ありがとう、名も知らぬ先輩三下ヤラレキャラハンターくんよ。君の尊い犠牲を私は三秒ほど覚えていよう。

 麗しきローザ姉さんの記憶の中に、一瞬でも存在できた幸福を噛み締めれば良いよ。



 胸ぐらを掴むつもりだったのか、頭を押さえるつもりだったのか、仮面を剥ぎ取るつもりだったのか。

 男が伸ばした手はスカッと空を切っただけだった。ドンマイ。


(あ……力が入り過ぎた)


 かるーく地面を蹴っただけなのに、男の身長を超える高さまで飛び上がってしまったようだ。失敗、失敗。

 男が突き出してきた腕を足場にしてやろうと思っていたのだが、急遽ツルッパゲな頭頂部に変更する。靴底が滑らないか、大変心配です。


 心配は杞憂に終わった。

 片足でツルリン頭を蹴り、体を捻って向きを変え、男の両肩に着地する。

 驚愕の声をあげる時間も与えませんよ。


 男の頭を足で挟み込み、ふんっと体を振ってスキル発動。


「重力操作」


 たった一秒間の、圧倒的な重力の暴力。

 肩に少女を乗せた男の身体が後方にグラリと傾く。


 喰らえ!ふらんけんしたいなん!


 説明しよう。ふらんけんしたいなん!とは子どもの頃に見たプロレスの技、フランケンシュタイナーを間違って覚えてしまった某ゲーム製作会社に勤める某プログラマーさんの恥ずかしい過去を、ゲームキャラクターの攻撃技の一つにしようぜと、半ばいじりというよりそれイジメじゃね?な疑問が浮かんでくる、使用する度に某プログラマーさんが可哀想になってくる、足を使った投げ技なのである!


 蛇足だが、ふらんけんしたいなん、を正しく表記すると、フランケン死体なん!となる。『境スタ』の制作者は、きっとみんなどっかおかしいのだと思います。はい。

 だがしかし、中のヒトの腕は最強でして、フランケンシタイナン!とそれっぽく叫んだら、それっぽい技名に聞こえてなんかカッコイイという、笑えば良いのか聞き惚れればいいのかよく解らない仕上がりになってました。やっぱ『境スタ』の制作者もファンもどっかおかしいのだと思いました。


 少女が自分の身体の二倍はある男共々後方に回転し、男を床に叩きつける絵は、かなりシュールだったようです。

 皆さん無言で固まっています。


 なに驚いてんの、お前らプロハンターだろ。

 これくらいの技、キースや師匠は勿論、テイトくんも軽々こなすぞ。

 さて、第二ラウンドといこうか。

 掛かってこいツルッパゲさん!

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 あれ……起きてこない、よ?


 ツルッパゲさん、もしや、気絶していらっしゃる?


 

 ちょ……ぅえっ?私かなり手加減したよ?頭部ホールドから2秒で床とお友だちなるところを、たっぷり5秒はかけたよ!


 因みに重力操作は本来、相手の身体を浮かせて反転→地面に叩きつける、の両方に作用させるのだが、今回は身体を浮かせる時にちょこっと使用しただけなんですけど?


 あれ。あたくしの予想では、この後ツルッパゲさんが『このガキその程度で調子にのるな』とか『不気味な面をしやがってよ』とか、そんな展開になるハズだったりしたのですが……しないのです、ね?



 輝く頭皮を指でつんつんしてみたが、無反応であった。

 どうしよう、返事がない……ただの屍、ぢゃない。大丈夫、殺してはいないからっ。


 どうやらハゲタコは思ったより弱かったらしぃ。

 きっとランクも低い雑魚だったのだろう。


 えーと。別に遣り過ぎてない、コイツが雑魚過ぎただけだ。


 潰れたカエルみたいな姿で床にへばりついている男を一別し、死んではいないからOKだ、と軽く頷く。


 しっかりするのだ私。

 例え予想外の展開でも、動揺を見せてはいけない。

 そんな無様なローザの姿など、人前に晒してはいけないのだ。

 

 と、取りあえず強さは見せつけたから、今後無駄に絡まれることはないよね。

 うん、目的の一つは達成した!頑張った、私。

 ハジメテの異世界だもん!

 はじめはこんなもんですよ。

 場数を踏めばそれらしくなれる、ハズ。

 だ、だだ大丈夫だ!

 例えちょとやらかしても黒うさぎさんは世を忍ぶ仮の姿だ。

 ローザの名には傷ひとつつけないからね。


 ゲーム&漫画会の暗黙のルールにより、どんなに激しく動いても落ちない仕様になっているうさぎさん仮面をそっと押さえる。

 このルールは肩に引っ掻けているだけのジャージの上着が、どんなに激しく動いても落ちないのと一緒のヤツです。何の漫画かは敢えて言うまい。


 パンパンとわざとらしく手を叩いてついてもいない汚れを落とし、踏みつけられて床でくしゃっている紙を拾って窓口へ。

 

 必死に背伸びをして精一杯腕を伸ばし、テーブルの向こう側にいるお姉さんに向けて用紙を差し出した。


「破れたので新しい登録書を下さい」


「はい!当ギルドへようこそ!はじめてのご登録ですね?字は書けますか?字は読めますか?代筆、代読は登録時のみ無料サービスとなります!」


 その説明(マニュアル)って、もう一回聞かなきゃダメでしょうか?


 受付のお姉さんによる、私情混じりの長ったらしい説明(マニュアル)の後、無事に新しい用紙をゲット致しました。

 精神的には全く無事ではないようです。

 ああ、そしてなんということでしょう。


「やっぱり、カウンターに背が届かない」


 18歳のローザ姉さんは172センチメートルの高身長でスレンダーでしたが、8歳のローザは同い年の子どもたちと比べると、心なしか背が低いようです。

 モチロン、ちみっこローザ姉さんも安定の可愛さであることは、いちいち述べるまでもないだろう。





「あ、あのっ」


 登録用紙を片手に、やっぱり床で書くしかないかと思い悩んでいると、背後から声をかけられた。

 少し緊張した少女の声に、またテンプレ展開か?と振り向いて、私は言葉を失った。


 黒ウサ仮面を装着していてホント良かった。

 まぁ、ポーカーフェイスさまに支えられた無表情の外面(ソトヅラ)が、そう簡単に瓦解するハズはないですけどね。


 ただ。ポーカーフェイスはソトヅラだけに作用するスキルなので、精神は大荒れです。


 私の前に立っていたのは、12、3歳の少女だった。

 白銀の絹糸のような美しい髪に、淡いピンクの唇。

 小鳥のように愛らしい声音に、空色の瞳。

 まさにヒロインとそういっても過言ではない美少女は、ゲームのキャラクターの一人で、当然のごとく攻略対象である。


 そして、後に【カーバンクルの密やかなる宝玉】という、何となく感覚的にはわかる気がするけど、結局のところ何が言いたいの?と突っ込みたくなるような異名をつけられちゃう、幸薄そうなこの美少女こそ、崩壊エンド回避のために私が行う『ローザ姉さんを幸せにしようぜイベント・その1』に関わる主要人物だ。


 うん。鴨が葱を背負ってやって来るってこーゆーことかぁ。

 ん、で、なんで彼女が今このタイミングでカーバンクルにいてはるん?

 …………ん?えーと、ゲーム開始10年前。ここは王都のギルドで、目の前に彼女……あ、ああ、もしかしてあのイベントにあったアレ関係か。アレがいまから起こるのか。


「あ、ああのっ、わたしミリアっていいますっ」


 うん。知ってる。とてもよく知ってる。といってもゲームの中の貴女は二十代の美しい女性でしたけどね。

 

 因みに、ゲームに登場する順番こそ早いがNPCキャラ扱いなので、PCとして操作が可能になるのはゲームの後半になってからです。


 それでも公式サイト人気投票じゃ、ヒロイン部門、全キャラクター部門ともに常にトップクラスなんだよな。


「突然ごめんなさい!あのっ、もしよろしければ、少しお話をさせていただけませんか」


 胸の前で手を組んで必死に話しかけてくる彼女は、文句なく可愛いです。

 主人公(キース)じゃなくてもうっかりときめいちゃうのです。

 いや、ときめいていたのはプレイヤーであって、主人公(キース)はいつでもシスコンを拗らせていましたね、そーいえば。


 シスコンはともかく、まわりのハンターのおじさん、おばさん、お兄さん、お姉さん、オネェさんまでもがミリアちゃんに釘付けです。

 もしや魔力的ななにかが作用しているのでしょうか?と疑いたくなるようか注目度の高さです。

 キュートな黒ウサの仮面をつけた少女が要因ではないと信じてもいいですよね?ミリアちゃんがかわゆ過ぎるせいなのです。


 スキルで冷静な外面を装いながら、コミュ障な中身が悲鳴をあげています。

 もうやだおうちかえりたい。

 いや、ダメだわたし。

 頑張れワタシ。

 ローザ姉さんがゲーム通りに死んでしまってもいいのか?

 いや、嫌だ。絶対に嫌だ。そんな未来はもう見たくない。


 心に誓っただろう。

 私がローザ姉さんを幸せにしてやる!と。

 そして、その為ならば、どんな犠牲も厭いとわない。と。


「ふ、ふふ。いいでしょう」


「え?」


「貴女の依頼、このブラック・ラビットがお受けしましょう。レッドベアの討伐など、黒ウサギさんにかかれば赤子の手を捻るより容易いのです」


 自分の胸に掌を当てて言い切った。

 ネーミングセンスが残念すぎる件には触れないでいただきたい。

 

 大丈夫。ローザ=黒うさぎさんだとばれなければ、いくら恥を上塗りしようとも構わない。

 スキルでもカバー出来ないひ弱なメンタルがガタガタになろうともっ、堪えてみせよう、堪えてみせようではないか!

 エンディングの向こう側を見るまではっ!


「あ、のぅ。どうして、わかったんですか?私がレッドベアを倒してくれるハンターを探しているって?」


「え……」


 胸の前で手を組んだミリアちゃんが、とっても不思議そうな顔をしてローザを見ております。

 美少女二人の貴重なツーショットとか、なんて俺得な鼻血2リットル出る展開でしょうか。

 テレビ画面にサムズアップしながらベッドに倒れこみたい。

 ああ、なんで私がローザなんですかね、神様。


 さて。

 頭の上に疑問符を飛ばしているミリアちゃんに、ワタシはなんとお答えすればよろしいですか?

 

 Q.どうして依頼内容を知っていたの?


 A.ゲームの知識です。



 うん。おわた。






2016、11、19

ローザがミリアのゲームイベントを思い出す、という内容を追加しました。

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