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地下迷宮の探索者(仮)  作者: 宮坂貴文
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第一話:迷宮都市

 ざぶーん。と船体を打ち付ける波の音が聞こえる。

 俺は迷宮都市へと向かう定期船の甲板上で照りつける太陽を浴びながら海を眺めていた。

 

『うーむ。良い天気じゃ。どうじゃお主、オイルでも塗って体を焼いてみてはどうじゃ? 我は健康的に日焼けした男が好みなんじゃがのぉ』


 俺に憑りついている自称精霊のシェルファニールが気楽そうに声を出す。

 

「定期船の甲板でそんな事したら悪目立ちしてしょうがないわ。それに俺の肌は赤くなるだけで黒くならねぇんだよ。残念ながらな」


 俺が素っ気無く答えるとシェルファニールは詰まらなそうに不平を言ってくるが俺はそれを無視する事にする。

 俺が五歳の時にこいつに憑りつかれたから彼此十三年の付き合いになるのか……。

 シェルファニールは憑りついたのではなく、正式な契約を交わしたと言い張るのだがその内容を教えないし、こちらも五歳の記憶など曖昧なので正直物心ついた時には俺の中に居たという感じだ。

 今現在、精霊使いは珍しい存在では無い。

 迷宮都市が出来てからは成りたい職業ナンバーワンをずっと取り続けているぐらいだ。

 だが、このシェルファニールだけは別物だ。

 ハッキリ言えばこいつは性質の悪い悪霊と言っても過言では無いだろう。

 何故なら、他の精霊は体力と引き換えに力を貸してくれるのだが、こいつには別の対価が必要とされるからだ。肉体的な対価、所謂いわゆる血肉と言った物だ。

 俺が十歳の頃。山で崖崩れに遭い初めてこいつの力を使った時、とっさの事だったので対価を勝手に持って行かれて俺の左手小指は動かなくなった。

 俺はこいつの存在を一人にしか話していなかったので、この小指は事故による怪我と周囲の人間には思われている。今思えば話さなくて正解だった。こんな特殊な存在を知られれば、研究機関などが煩かっただろう。あの時、秘密にした方がいいと言ってくれた早霧姉さんには感謝しなくてはならないだろうな……。


『なんじゃなんじゃ。小指一本でけち臭い男じゃな。それで命が助かったんじゃから安い物じゃろ?』


「うるせぇ。どう考えてもぼったくりだろうが。小指とは言え動かせないのがどれだけその後の人生に影響が出ると思ってるんだ。握力は落ちるし、物を上手く掴む事も出来ないし、ジャンケンのグーも出せないんだぞ」


『「私はこれで会社を辞めました」は出来るんじゃから良いではないか』


「よくねぇよ! ネタも古いんだよ! 何年前のネタ言ってんだよ。そんなの今やっても誰も知らねぇよ。て言うか、何で俺はそれを知ってるんだよ!」


 自分でノリ突っ込みしながらもその情報源ソースはシェルファニールだったなぁと思い出す。

 小学生だった俺にこいつは何を教えてやがるんだ……。

 

 ゛当船は間もなく目的地、迷宮都市へと到着致します。゛


 船内アナウンスが聞こえてくる。視線を先頭に向けると薄らと景色の先に迷宮都市の港が姿を現してきた。俺は足元に置いていた鞄から迷宮都市の入国チケットと受験票を取り出すと胸のポケットにしまい、カバンを担いでタラップまで歩き出す。


 さて。まずは試験を合格して冒険者資格を取らないとな。


 迷宮都市に入る事自体はチケットさえ買えばだれでも入る事が出来る。だが、地下ダンジョンに入るには精霊使いとなる事と迷宮都市政府が行う試験をクリアーして冒険者の資格を取得しなければならないのだ。

 すでに学科試験と精霊使い適正検査は合格している。

 後は都市で行われる契約の儀式で無事精霊と契約出来れば晴れて冒険者として活動する事が出来るのだ。


『わざわざ契約の儀式なぞしなくても、我がすでにおるではないか。それを言えばもうお主は合格なんじゃぞ?』


「うっせー。お前なんぞ今回の儀式で新たな精霊と契約出来たらチェンジだよ。チェンジ」


 俺は吐き捨てるように言ってのける。


『うううっ。長年連れ添ったパートナーに対してなんというご無体な……。』


「自由に力を使えない精霊なんぞ、煩いだけの存在じゃねぇか。ブンブン飛び回る蠅と変わんねぇよ。俺は地下迷宮を探索して見つけなきゃいけない物があるんだ。その為には力が必要なんだよ」


『なんという言い草じゃ。昔はあんなに素直で可愛い男の子じゃったのに……。あの時、「おちん〇んから白い何かが出て来たんだけどどうしたらいいの?」と我に泣きながら質問してきた可愛い男の子は何処に行ってしまったんじゃ……』


「うるせぇぇぇぇ! それを思い出させるなぁぁぁぁ! てめぇ、よりによって早霧姉さんに聞けなんてほざきやがって!」


 こいつのせいで作られたトラウマの一つだ。

 思えば俺のトラウマの大半はこいつのせいだったような気がする。


「さーて。楽しみだなぁ。どんな子がいるかなぁ? やっぱりオーソドックスに四精霊系かなぁ? それともオンリーワンなレア系が来ちゃったりとか? こんなトラウマしか作る脳がねぇ三流ゴミ精霊とはとっととおさらばしないとなぁ」


『うぬぬぬっ。おのれぇ……』


 悔しそうに歯噛みするシェルファニールを無視しながら俺はスキップするかのように軽い足取りで港に到着した船のタラップを降りて行く。

  

 確か試験会場は港の大通りを真っ直ぐ進んだ所にあるんだったよな?


 俺は胸ポケットにしまった受験票の裏に記載されている地図を確認すると、試験会場に向かって歩き出した。




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