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孤独な魔王様  作者: 高梨王牙
全ての始まり
5/10

第四章 疾走少女と魔王様の家族

アバドンは夢を見た。

真っ暗で何も見えない闇の中、自分がそこにある人と、二人でいる奇妙な夢だ。

ふわふわと、まるで宙に浮いているかのような、不思議な感覚の中、見たことのない剣を、腰に携えたその人が此方を見ているのだ。

首に変な珠(?)の様な物をかけ、真っ赤な、長い、腰当たりで髪を纏めていて、そしてゆったりとした、このあたりでは見ない服装を着ていた。

顔はぼやけているせいで、年齢や顔つきはわからないが、体つきから見て、多分女だろう。

その謎の女は、ただ此方を見ているだけ。

そして暫くすると、こう言った。

「…………そう……これが俺の生きざまさ!」

女がそう口にした時、彼女は泥濘から引き上げられた。

「………またあの夢…」

アバドンは呟いた。

この奇妙な夢は、これが彼女とって初めてではない。

彼女がここ最近、この国に来てからよく見る夢だ。

「一体あれはなんだろう……何を暗示しているの…」

彼女はまだ薄暗い空を見て、一人呟いた。







その日の昼は、この三日間の中で一番の曇り空となった。

鉛のような灰色の空は、今にも大粒の雨粒を降らせそうだった。

そんな悪天候の中、タケミはアバドンと自身の家で、ある話しをしていた。

「アバドン様~どうして駄目なんですか?」

「タケミ…あなた学生でしょ? 学生の本分は何?」

「学業です」

「ね? なら駄目だよ」

「えぇ~良いじゃないですか、夏休み中なんですし…」

彼女達が話し合っている内容は、タケミがアバドンの旅に、同行するかしないかだ。

アバドンは、彼女がついて来ることに反対している。

確かに、彼女が旅に着いてきてくれるなら、それはそれで嬉しい。

だか、アバドンの旅には『終わり』と言う概念は存在しないのだ。

彼女の旅の目的が『家族・・となれる人』を探す事なのだから。

そんな終わり無き旅に、学生であり、まだ、年端も行かないタケミを連れ出す事など、彼女には出来なかった。

「夏休みなら良い訳無いでしょう、私がやっているこの旅は、命懸けの旅なの!!死ぬかもしれないんだよ!!未成年者のあなたを連れ出す事なんて絶対しないからね!!」

タケミも負けじと反論する。

「確かに私は未成年ですけど、逃げ足と科学はピカイチです!!死なんて、アバドン様と共に過ごす為なら、ちっとも怖くなんかありません!!」

死なせたくないと、一緒にずっといたい。

似ているようで、全く似てい無い思想と主張をぶつける乙女達。

そして、そこでタケミが仕掛けた。

「ならアバドン様は、どんな敵が相手になっても一人で戦っても『百パーセント勝てる』って言い切れるんですか!?」

「え?そ、そりゃあそうさ!!そうじゃないと、ここまでこれなかったしね」

「呆れました、そんな考えでよく『家族をつくる』なんて見栄張りましたね!家族は、互いを支え会う物なんですよ!一人だけで突っ走って、『無双できる』って考えでは、家族を心配させるだけです!!」

タケミは強く、アバドンに伝える。

二人の間に、夏特有の生温い風が吹く。

睨み合いとでも呼べば良いのであろうか、そんな険悪な雰囲気は、突然表れた女将さんによってぶち壊われた。

「うるさぁい!!喧嘩するなら表でしなぁ!!」

その女将さんの凄まじい叫び声は、後に『アクレシヤの鬼の声』と呼ばれたらしい。









彼女タケミは、一人宿屋一階のバーでオレンジジュースを飲んでいた。

アバドンと口論をしたあと、彼女はここに来た、アバドンがどこへいったかは彼女は知らない。

時間は丁度、日が沈み始めたばかりだからか、人もあまりいない。

少しだけ香るヒノキの匂いの中、カウンターに項垂れ、コップをグイッと掲げ、中身を半分ほど飲み下す。

「アバドン様~なんで駄目なんですか…私はこんなにも貴女を愛しているのに……」

タケミは一人呟く。

本当なら飲酒でもすべきなのだが、生憎彼女は未成年者、飲むことなどは、出来なかった。

「アバドン様………」

タケミは、アバドンの気持ちがわからなくはない。

むしろ痛いほど解る、自分が経験したことでもあるからだ。

家族を失うその辛さを……

でも、だからこそ、彼女はアバドンの側に居たかったのだ。

彼女は、未だに諦めていない、アバドンへのこの気持ちを。

性別という、とてつもなく大きな壁があるが、彼女は諦める事など出来なかった。

タケミが心のそこから、初めてときめいた人、それがアバドンなのだ。

一目惚れだとか、馬鹿な女とか言われても良い。

それでも彼女のその気持ちに、偽りなぞなかった。

「…………くよくよしてても、何も始まらないか…よし!!」

ネガティブな考えを振り払い、少し憤りなどで、モヤモヤした頭を冷やすべく、彼女はカウンターから立つと、ゆっくりと宿屋から出ていくのであった。










曇天…それが似合いそうな、鉛色の空。

そんな天気の中、タケミは宿屋を飛び出したアバドンを説得するのには、どうすれば良いかを考えていた。

「アバドン様は、なんでかはわからないけど……家族が傷つくのが嫌みたいね……分からなくは無いけど、なんでそこまで嫌がるのかな…?」

そう、彼女が頭を回転させた結果、アバドンは家族の負傷を拒絶していた。

確かに、家族を失っているタケミだからこそ解る。

家族を傷つけられるのは、誰だって嫌だ。

しかし、アバドンの嫌がり方は、少し異常なのだ。

まるで、欲しい玩具おもちゃを貰えない子供のように、家族が傷つくのを嫌う。

それには必ず訳がある筈だ、タケミの脳細胞が彼女にそう伝える。

「……少し失礼かもしれないけど………過去に何かあったか、聞いてみようかな?」

しかし、即座に『何を考えているんだ』と心の中で自身にツッこむタケミ。

そんな個人の過去なんて、自分のちょっとした疑問で、聴いて良いものではない。

下手をしたら、それで嫌われてしまうやもしれない。

「そういえば…『こう言ったプライバシー関連の事は、本人が自分の口から言うまでは、聞かないのが筋なんだよ!!』ってお父さんも、昔言ってたな~」

悪天候のせいか、誰一人いない道路で独り言を呟くタケミ。

曇天が、彼女の複雑な思いに呼応するように、少しゴロゴロと唸った。

気圧も少し下がったようだし、雨が降りそうだ。

「うぇ、このタイミングで………どこかに雨宿りしないと…………」

彼女は周囲を見渡す、すると丁度良いところに、屋根の先が出た、雨宿り出来そうな建物があるではないか。

「ちょっと失礼しますか…」

少し駆け足で屋根の元に駆ける。

彼女が屋根の下に着くと、まるでタイミングでも見張らかったように、大粒の雨がふりだした。

ドザァードザァーと降り注ぐ雨で、道路に溜まっていた汚れが、洗い流されていく。

まるで、過去の後悔を拭き取るように……

「はぁ………どうしよう…これじゃあ宿屋どころか、家にも帰れないよ……」

タケミは、自分の嘆きなど知らんぷりで降る雨に向かって呟いた。

そんな時である、彼女が表れたのは。

「ん?…………タケミ!?」

「うにゃ!ア、アバドン様!?どうして此所に?」

アバドンだ、タケミは運悪く彼女に出会ってしまった。

「タ、タケミこそ……どうして此所に?」

「わ、私は少し訳ありで……アバドン様は?」

「えっと……この国の歴史を調べるために、図書館へかな?」

「そ、そうなんですか………ハッハッハ……………(不味いどうしよう、次なんて言おう!謝る?…いやこのタイミングで!?ないない!!え、どうする、どうする私!?)」

内心かなりパニックとなるタケミ。

アバドンの方も、タケミ程ではないが、若干出会うタイミングが悪かったのか、少し混乱している。

そんな状況が数秒続き、最初に口を開いたのはアバドンだった。

「ね、ねぇ…………さっきはごめんね…ちょっと言い過ぎたかも……」

「うにゃ!?へ、えぇと、大丈夫です、そんなに気にしていません」

「そ、そう?」

「こちらこそ、すみません……アバドン様の気持ちも考えず」

「うぅん、私も悪いよ、タケミに言われた後、少し頭を冷やしたんだ。

で、よく考えてみたんだけれど……タケミの言う通りだったね、家族の為でも、一人で突っ走って無茶しても、家族に心配させるだけだね……」

アバドンは、降り注ぐ雨を見つつ呟いた。

「タケミのお陰で気が付いたよ……ありがとう」

「い、いえそんな……」

「私は、まだ貴女みたいに、自分の過去を明かす勇気は無いけれど、いつか、貴女に話してあげるよ…それでいい?」

「えっ……と、結局のところ、私を旅に連れてってくれるの?」

「……貴女には完敗したよ…良いよ、その代わり学校は辞めて貰うけどね」

その一言は、タケミを決心させるには十分だった。

気が付くと、空は二人の今の心の様に、真っ青に晴れ渡っていた。

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