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孤独な魔王様  作者: 高梨王牙
全ての始まり
3/10

第二章 疾走少女の間違った恋愛

チュンチュンと小鳥がさえずり、眩しい位の光が、窓際のベットに降り注ぐ。

彼女アバドンは、ここ宿屋『恵みの雫』の一室で眠りこけていた。

昨日来ていたローブは、流石に寝るときは脱ぐらしく、彼女は今、下着のみの姿だった。

その残念な胸はサラシで覆われ、下の部分は、無駄な装飾のない黒いパンツだった。

アバドンは、タケミを助け出した後、彼女と別れ、それで二人はサヨナラだった筈なのに、何故かまた明日その桟橋で会おうと『強引に』約束され、この宿屋に当初の予定通り宿泊するのであった。

「...........ん....」

顔を朝日に名一杯照され、彼女は目を覚ます。

「くっ、ふわぁあ、よく寝た~」

上半身を起こして、欠伸を一つ吹かす。

ベットから降り、ドアの右側にあるクローゼットから、ハンガーに掛けてあった、自身のローブを取り出す。

手慣れた手つきで、ローブを直ぐに着る。

次にベットの側にあった化粧台で、ボサボサになっている、自分の髪型を指で解かしていく。

彼女の髪は艶が良いのか、指でもサラサラと解かせるようだ。

髪を整えた後、彼女は窓を開き、外の景色を眺めた。

本日は雲一つ無い、見事なまでの晴天.....ならぬ蒼天だった。

澄みわたるスカイブルーの空、その元で照らされる、家々の『赤』『黄』『緑』の様々な色の屋根による美しいコントラスト。

更に家々の下の水路には、この国の象徴ともいえる水が、大空からの光を名一杯受けとめ、サファイアのように輝いていた。

「さてと、この国は.....どんな『家族』がいるのかな」

彼女はそんな事を、眩しい位の蒼空を見つめ、呟いた。

ふと気付くと、とても香ばしい匂いが、下の階から漂って来るではないか。

「この香り.....朝食は手作りパンかな?水の国のパン......う~ん楽しみ!!」

そう一人呟くと、彼女は足早に部屋を出るのであった。








ジリリリリリンッ!!大音量で目覚まし時計が鳴り響く。

タケミはその音で目を覚ました。

ムクリと無言で起き上がり、目覚まし時計のスイッチを叩く、当然時計は鳴り止む。

「........眠い....」

今にも、再び眠りに着いてしまいそうな寝惚けた声で、彼女は呟いた。

次に学生ゆえの癖だろうか、時計を見て、現時刻を確かめる。

現時刻は午前十時半....今は夏休み中なので、今日が『平凡な』何もない日であれば、彼女が慌てる事は、なにも無かっただろう....

「うにゃああぁぁぁぁあ!!!!?」

即、彼女の絶叫にも近い叫び声が、ご近所の家まで響く。

一部の家ではなんだなんだ?と言う声が聞こえるが、今の彼女の耳には入らなかった。

「ああ!!最悪!初めての『デート』で遅刻するなんてー!!」

電光石火、急いで彼女は着ていた牡丹ぼたん色の寝間着パジャマを、乱雑に脱ぎ捨て、タンスから勝負服を取り出す。

王子様とデート(と言っても、彼女が勝手に思い込んでいるだけだが)の日の為だけに、昨日の帰り、なけなしのお小遣い叩いて買った勝負服。

フリルのたくさんついた、可愛らしさ重視の攻めのゴズロリ服、色はセーフカラー

お値段なんと税込み金貨1枚と銀貨三十一枚......はっきりいってかなり高い。

魔法女学院の生徒が出せる金額としては、ギリギリのラインだった。

即座にそれに着替え、矢のような速さでキッチンへ。

この家には彼女以外・・・・住んでいない為、キッチンやリビングは、朝から世話しなく聞こえる鳥の声に支配されていた。

「朝はサンドウィッチでいいや!」

そう言うや直ぐ彼女は、キッチンにある自作・・の大型冷蔵庫からハム、レタス、トマト、ピクルスを取り出し、冷蔵庫の上にある食パンを引っ張り出す。

流し台の下の戸棚から包丁を取り出し、それぞれの食材を手頃な大きさに切っていく。

それぞれが程よくスライスできたら、それを食パンで挟み、完成。

ものの数秒も経たない内に、見事なサンドウィッチが出来上がった。

彼女はそれをもって玄関に一直線。

「行ってきまーす!!」

誰も居ない家に告げ、ドアを開ける。

そのまま彼女はあの桟橋に向かって走るのであった。









時刻は九時きっかり、約束の時間まで後一時間程度。

宿屋からでたアバドンは

『時間まで余裕があるし、ゆっくり行こっか~』と、そんなことを考えながら、彼女は水路の側の道路を渡って、周囲の風景を楽しみながら、のんびりと、あの桟橋に向かっていた。

「流石は水の国.....水魔法のレベルが桁違い....」

彼女の呟きを、彷彿させるかのような光景が、そこにはあった。

魔法によって、水が空に浮いているのだ。

水が宙に風船のように浮き、空から降り注ぐ日の光に当たり、その下を虹で満たす。

まさに幻想的な風景だった。

その水をよく見てみると、何人かの子供がいて、そこで泳いでいるではないか。

つまり、この幾つも浮遊する水の正体は、魔法で創った即席プールだ。

普通の国の人では、こんな水の創作魔法出来やしない。

アバドンでさえ『自分でも出来るかな、いや無理か....』と考えるほどの高等魔法である。

「さてと…… 彼女タケミと会ったら、 どう説明しようかな~……. 率直に言えば!……… あぁ駄目!私を『男の王子様』と勘違いしている時点で無駄骨に決まっているよ~!!」

しかし、そんな風に景色を楽しんでいた彼女だったが。

桟橋の近くに来て暫くすると、頭を抱え、塞ぎ混んでしまった。

理由は昨日助け出した美少女『タケミ』である。

彼女はなんと、アバドンを『自分を助け出してくれた、正義の王子様』と勘違いしてしまっているのだ。

何故そう思われているかは、アバドンには大体思い当たりがある。

襲われる寸前に空から参上し、三分足らずで不良五人を撃退。

こんな事をされたら『王子様』と思わなくとも、確実に惚れてしまうだろう。

しかし、アバドンにとっての問題点はそこではなく、彼女が自分を『男』だと思い込んでいる事だった。

「初めて惚れた人が『女』だったとか知ったら………… たぶん心折れるよね?」

雲一つない、憎たらしい位に真っ青な空を見つめ、誰に語る訳でもなく、彼女はそう呟いた。

「おい、そこの君」

そんな風に考えると、彼女の下から、ふと声がするではないか。

彼女が視線を下に向けてみると、男がいた………武装の仕方からして、警備兵だろう。

『私に何の用だろう』とアバドンがポケ~と考えていると……

「男なのに『女の子』の格好をするのは止めなさい、国の風紀が乱れるじゃないか!」

そんなことを、彼女は言われるのであった。










現時刻、午前十時四十五分。

雲一つない青い空の下、水の国『アクレシヤ』を駆ける、一人の少女がいた。

「ち・こ・くーー!!うにゃああぁぁぁぁあ!!!!」

タケミだ。

やはり、未だ桟橋に到着していないらしく、水の上を走れそうな勢いで、住宅街を突っ走っていた。

走る彼女に合わすように、湿気を帯びた風が、彼女の銀髪をなびかせる。

どうやら、今日のために髪型をセットしていたようだが、もはやセットした髪は、汗と風で滅茶苦茶になっていた。

靴も、何時もは履かない革靴など履いているせいか、全力で走れないでいた。

「あーもう!!こんなことならアレを使うんだった!!」

休む暇などなく、彼女は走り続ける。

道行く人にぶつかりながらも、犬の尻尾を踏んずけ、追い回されながらも、自身を待っていてくれているであろう、王子様のいる桟橋へ突っ走った。

家を出てから更に三十分、時刻は十一時十五分、彼女はようやく桟橋にたどり着くのであった。

昼間の桟橋は、夕方の時と違い活気に溢れ、大人や子供、更には冒険者の人達が大勢いた。

優雅でゆっくりとした、水音がする橋の上、彼女が求めし王子様は………何故か橋の隅で、警備兵の男に職業質問されていた………。

「だ・か・ら!私は『女の子』だって言ってるのに~!!」

「嘘を付くんじゃない!君みたいな巨漢、どうやったって女の子には見えないぞ!!」

「煩いよ!!身長が大きい女の子がいても良いじゃない!!」

………何とも奇妙な光景である。

百七十センチ以上の警備兵が、相手を見上げて説教している。

何故王子様が説教されているか、彼女にはわからなかったが、ただ助けて貰った借りを返さなくてはと、謎の責任感を感じた彼女は、警備兵の元へ移動した。

「あ、あの!!警備兵さん!!その人は『私の』彼氏さんです!!」

「「ファ!?」」

顔を赤く染めて、恥じらいづつも、彼女は高らかに宣告した。

もちろん、『まだ』彼氏ではない。

デマではあるのだが、どうやら警備兵の男はいきなりの事で、少し動揺してはいるが、彼は人を信じ易い性格だったのか……

「えっ……と……そうだったんですか?」

と、一旦口論を止めて、アバドンの方に再度視線をむけた。

『あ、これは話しに合わせないと大★惨★事になるね』そう思った彼女は

「えっ…と、ハイソウデス」

咄嗟のため片言だが、話しを合わせる事にするのであった。

「そうだったのですか……まあそれは置いておいて、何故女装しているのですか?」

「それは…」

さっきまで自分は女の子だと言っていた手前、今更男宣言したせいで、警備兵から『それ、やっぱり男じゃないか』という様な、冷たい眼で見られているアバドン。

そこに空気を察したのか、タケミの補助が入った。

「彼、劇団の人なんです。こんど劇団が男女逆転劇をやるらしくて、私はそれを見に行くところだったんです。」

「本当かい?君」

「え?あぁ、本当です」

アバドンもアドリブで、話しをなんとか合わし、警備兵を丸め込める。

「全く、それならそうと言ってくれば良いのに………おっと仕事が!それじゃあ、次からは間際らしい事をしないように!」

警備兵は、少し怪しがっていたものの、一様納得したのか、ようやく自分の持ち場に戻っていくのであった。









「嘘だ………嘘だぁ~!!」

タケミは悲痛の叫びを上げて、地ならぬ床に項垂れていた。

原因はアバドンの性別を知ったことだ。

最初、彼女はやはりその事を、信用しなかった(どちらかと言うと全面否定)が、アバドンが

『私の裸を見れば解る!!』

と言い出し、タケミを強引に宿屋に連れ込み、自身が生まれた時の姿になることで、ようやく理解させたのであった。

「ゴメンね……私、女の子だからさ…」

再度服を着た後、アバドンが宥めるように、ものも言えぬ程に、ショックを受けた彼女に語り駆ける。

しかし、その優しい態度が、逆効果だったのかもしれない。

「きっと他に良い人見つかるからさ…」

「……………いいや…」

「え?」

タケミが呟く、そしてユラリと、吊り上げられた人形マリオネットの様に立ち上がった。

彼女の顔は少し赤く染まっており、そして、その瞳は………ハートマークだった。

「もう……『女の子』でも、良い!!と言うかアバドン様じゃなきゃ、私無理!!」

「ふぇ!?ちょ!!なんで!?タケミちゃん、落ち着いてぇ!?」

「ア・バ・ド・ン・様あぁぁぁぁ!!大っ好きでーーーーーす!!」

まるで銃弾の様な(アバドンにはそう見えた)速度で彼女はアバドンに飛び込みならぬ、ルパンダイブをする。

咄嗟の事で、更には、完全にそんな返答をするなどと、微塵も考えて無かったアバドンは、回避することなど出来るわけなく………

「ちょ……おわああぁぁぁぁぁ!!!!!??」

その豊かな胸に潰される事によって、意識を刈り取られるのであった。










水の国アクレシヤ、その深夜。

男は、その時も桟橋の見回りをしていた。

深夜の桟橋は、まるでホラー映画、または、サスペンスドラマの最初の被害者が出そうな位に、真っ暗で、明りは彼が持っているランタンと、街灯の心ともないオレンジの光だけだった。

「全く、夏だね~。もう深夜よるだというのに……暑くて堪らないな」

シットリと、張り付くような暑さの中、静まった住宅街の桟橋は、まるでここだけが切り離されたかの様に、水路を伝う水の音以外、物音一つしない。

「月が見えないな……今日は新月かな?」

漆黒の夜空を見上げ、一人呟く男。

そんな時だった…男の首筋に、チクリ…と、かすかな痛みが走ったのは。

「痛っ、なんだ?………!?」

刹那、考える間も無く男に激痛が走る。

まるで全身に、剣を突き立てられた様な痛みだ。

声を出そうにも、男はその余りの苦痛に、声を出すことが出来なかった。

(あぁぁぁぁ痛い、痛い!!くそ!毒か!?だめだ、眼が霞んできた…)

アッという間に意識が遠ざかっていく男。

彼が最後に見たモノは…………狂人の様なと笑みだった。

世界観説明(興味が、ないなら飛ばしても良いよ)


金銭と魔法


金銭


この世界の通貨は

『銅貨』『銀貨』『金貨』の三つである。

銅貨は大体十円から百円、銀貨は千円から一万円、金貨はなんと十万近くの価値がある。

ただし、これは日本円で見た場合である。


魔法


魔法は、科学に次ぐこの世界の素晴らしい技術だ。

科学よりコストが掛からなく、条件させ揃えれば、どこでも使える物である。

しかし、その反面リスクも高く、攻撃系統の魔法の使用は、時に自身の命を危険に去らすものが多い。

さらに魔法を使うには、かならずその魔法の属性に合ったものを、所持する必要がある。

水魔法なら水を、火魔法なら火を、雷魔法でも雷を持っていないと発動しない。

科学と違い、大半の人が使える代わりに、このような不便さもあるのだ。

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