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鬼は外、チョコは内  作者: チョコレート・オーガ~めいど いん なろう~
節分編
5/47

鬼はどっちだ?@れおまる

※すみません、企画主のミスで入っておりませんでした……遅刻作品ではありません。

ジャンル:コメディー

 唐突だが、私は鬼だ。だが見た目は普通の人間とほぼ変わりはしない。頭に生えている禍々しい角を覗けば、であるが、しかし人間にとってはたかがそれだけの事でも決して軽い話ではないらしい。

 私は人間たちにとっては馴染みの深いであろうお伽噺の「桃太郎」というものが嫌いだ。なぜ、鬼を悪く描くのだろうか。確かに、全く悪事を働かない鬼はいない。だが、それだって人間と変わらないはずだ。悪い人間と良い人間が混ざりあって存在している様に、鬼も悪い鬼ばかりではない。


「見つけたぞ、鬼めっ!」


 本当はこんな日に出歩くべきではないのだという事くらい分かっているのだが、生憎私にも仕事がある。しなくては生きていけないのだから、仕方ない。ちなみに事務職で募集しておきながら外回りばかりをやらせるという、所謂ブラック企業なのだが、そんなことはどうでもいい。

 今年もこうして鬼退治をやらかそうとする人間が私にちょっかいをかけてくる。そんなもので果たして食っていけるのか、慈善事業(ボランティア)なのか、はたまた単なる八つ当たりなのかは定かではないが。

 そんなことも、私にとってはどうでもいいのだ。


「なんだね、君は」

「俺はっ! 愛と正義の鬼ハンター、人呼んで桃太郎だ!」


 若者らしい服装に身を包んではいるが、見たところ間違いなく学生でも20代でもなさそうだ。まだまだ張りのある声ではあるが、衰え始めているのは隠せていない。

 とっくに善悪の分別もついているはずの年齢に差し掛かっているだろうに、掠れた声が哀愁を感じさせる。


「まあ、名前は別に聞いてはいないのだが、仕事は何をしている?」

「だから鬼ハンターだと言っただろ? たしかに昔に比べて(おまえら)に対し人間は受け入れてきてる様に思える。だがな、まだまだ大勢いるんだぜ? 鬼に怯えながら暮らしてる、か弱い市民はな!」


 しゃべる度にいちいちポーズをつけているその様子から、自身に陶酔しているのがうかがえる。鬼にもさまざまなタイプがいるが、人間はそれ以上に色々な考え方を持ったタイプがいる。私が人間の世界に身を置いている中で学習した事だ。

 率直に言うのならば、この男は「燗に障る人間(タイプ)」である。こいつが言う通り、悲しいが鬼が人間と交わるのが珍しくなくなったこの時代に於いても、(われわれ)を煙たがる人間はいる。それどころか、少なくはない。

 

「なぜ君は鬼を狙うのだ?」

「決まってるだろう? か弱い市民をおまえらの様な絶対的な悪から守るためさ! おまえらはクズなんだよ、弱いものを苛めて喜ぶ、最低な人種なんだ!」


 ほほう、こいつはなかなか芳しいのがやって来てしまったらしいな。どんな人生を歩んできたのかは知るよしもないのだが、定職に就けなかったのだろうな、という哀しくも無理からぬ背景まで透けて見えてしまった。たぶん、偏見ではないはずだ。


「それにしてもバカな鬼だぜ、わざわざ節分なのに仕事なんかしてるとはな!」


 自分で言うのも変かもしれないのだが、私はそんなに気が短い方ではない。とうぜん並の鬼と同じく怒るときはきっちり怒ったりもするが、声を荒らげたりするというのはあまりない。喉を痛めてまでぶつける言葉など、あまり持ち合わせていないからだ。

 だが、いま微かに、しかし確実に沸々と怒りがわいてきているのは隠せない。毎年節分になるとこの手の鬱陶しい蝿が目の前を飛び回るのだが、今年は残念ながら悪い意味で大当たりらしい。


「さあ……覚悟しときな、鬼やろう! 愛と正義の名のもとに、鬼を征伐してやる!」


 ……黙っていたが、クチャクチャ、クチャクチャと煩い。ガムを噛みながら喋るというのがこんなに胸糞が悪くなるとは、いい勉強になった。営業マンは印象が総て、口臭を抑える為の手段としてありではないかと考えもしたが、やはりよろしくはなさそうだ。

 さて、この様なバカの相手をしている暇はない。本音を言うなら一発くらいは殴っておきたいが、もしも拳を怪我してしまったら大変だ。客に見られでもしたら、印象に対してプラスになるということなどありえない。


「失礼するよ、桃太郎さん。残念だがそれほど時間に余裕のある身分でもないのでね」


 出来る限り感情を抑え込んで伝えたつもりだ。お願いだから、私にこれ以上構わないでくれ。アスファルトの染みにしてしまうことなど容易い。しかし、それではお互いに得をしないので、立ち去ることを選んだ。


「逃げてんじゃねぇーよ、そこのクズがよぉー」


 しかし、桃太郎ことバカは見逃してやろうとする私の背後に回り込んできた。フットワークの無駄な軽さが、またしても私を苛つかせる。金棒を置いてきて良かったと思う。いくら気が長いとはいえ、人間に比べて鬼は好戦的なのだ。意味の無い争いを好む野蛮なタイプも少なくはない。


「鬼にはこいつがいちばんきくんだよ、へっへっへっ」


 その桃太郎とやらは何やら安っぽい袋を取り出してきた。節分と言えば、これしかない。豆だ。ふざけているのか本気なのか。おそらく後者だろうが、もしもぶつけられたら、私は理性を保っていられる自信などない。鬼の血が意に反して、この場に血生臭い生き地獄を召還してしまうだろう。それだけは、避けなければならない。


「いぃぃっくぜぇぇえーーー‼︎ 俺の必殺技を、くらいやがれ‼︎ 俺の正義は絶対なんだ、悪の権化たる鬼の前に、くだけ散るはずなんかねぇ‼︎」


 コンビニエンスストアの袋に入っている固い豆を取り出して空高く掲げる桃太郎。いきなり道端の鬼に喧嘩を吹っ掛ける様な奴が正義とは、な。面白いぞこの気持ち悪い阿呆がァアーーー‼︎


「鬼はぁぁぁぁぁ、外ぉぉぉお‼︎」


 渾身の力を込めて、振りかぶって、私の顔面に豆を叩きつけてくれやがった桃太郎。断っておくが、痛くも痒くもない。だが、眼鏡が割れてしまった。私は別に自分の体を傷つけられた事にはなんとも思わないが、仕事のための道具を壊されたのならば話は別というタイプである。

 鬼にはこんな能力がある。何も力だけが鬼の総てではない。そう、例えば、こうやって。


「なっ⁉︎ なんだ、何をするつもりだ、ちくしょう前が見えねぇぞコラァ‼︎」


 体から煙を発生させて戦場を包み込む。しかし、こんなものは単なる目眩ましにすぎない。私の能力の真髄はこれから、である。まあ、こちらもそんなに大袈裟なものでもないのだが。

 私の外見はどこにでもいる普通の男だ。角さえなければ、毎朝電車に乗り込むくたびれたスーツに身を包んだ普通のサラリーマンにすぎない。


「ようやく煙が晴れてきたな。ふん、目眩ましなんてつまらない必殺技だぜ」


 この男はすぐに面食らうだろう。ついさっきまでいたはずのメガネ男はどこかに消え失せており、代わりにいたのは、麗しい淑女なのだから。まあ、自分で言うのもあれだが、研究を重ねた上での姿なのだから、言わせてもらいたい。


「はっ⁉︎ あっ、あれっ⁉︎ あの冴えねぇ兄ちゃんはどこに行っちまったんだ⁉︎」


 簡単に説明すると、私は男鬼から女鬼になったのだ。中身は全く変わっていないものの、外見は別人ならぬ別鬼である。この手の阿呆な人間は、絶対に攻撃することなど出来ないだろう。


「騙されてはいけないぞ、私は鬼のままだ」

「げっ、その声⁉︎ まじかよ、お前もしかしてあのむさい鬼か⁉︎ そうだ、鬼の中には変身ができる奴もあるらしいからな、まさかであっちまうとは、くそっ!」

「さあ、攻撃してみたまえ」

「なめんなよぉーー‼︎ 美人になりすまそうがな、てめぇは薄汚い鬼なんだよ‼︎ いぃぃっくぜぇぇえーーー‼︎」


 桃太郎は再び振りかぶり、鬼は外を繰り出そうとしている。やれるものならやってみればいい。メガネは弁償してもらう。


「…………くっ、くそっ、投げるぞ、本当に投げちまうぞぉ‼︎」

「どうした、やるならばさっさとやらないか」

「だめだ出来ない‼︎」


 案の定、桃太郎は必殺技を繰り出すことができなかった。こいつは男ならば暴力をふるい、女であればなにもしないのだ。最低なやつだ。


「本当の鬼は、貴様の様な人間ではないのか?」

「うわぁぁぁぁぁぁ‼︎ うわぁぁーーーー‼︎」

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