バレンタインが地獄の人たち@夜那
ジャンル:恋愛
バレンタイン。
それは地獄だ。
一般の人は、楽しみだろう。
チョコを前日に作り、浮足立ちながら今日を迎える人。
今日こそ告白しようと勇気を持ってチョコを作る人。
友達同士でチョコを交換しようと約束し、ラッピングを怠らない人。
本命の相手からチョコをもらえるかもしれないと夢を想像を働かせる人。
別にそのような気持ちを否定する気は全くない。
問題は別だ。
な・ん・で、チョコレートなのだ。
あの毒々しい香り!
元々、鼻がいいせいもあって、学校中がチョコレートの香りに包まれる今日は地獄だった。
そう。地獄以外のなんでもないのだ!
…………少し冷静になろう。
「はぁ……」
ため息をついて、外に出ようとしたとき、近くに置いてあるスマホが鳴った。
舞からだ。
タップする。
件名 友チョコ♪
ヤッホー。
友チョコ作れたかい?
舞さまは、一に作っているよ☆
明日は大変だね~里菜も頑張れd(@^∇゜)/ファイトッ♪
「………」
危ない、危ない。
腕が上がってた。
スマホを危うく投げる所だった。
「橋元ね……」
舞には橋元 一と言う、サッカー部の彼氏がいる。
橋元は競争率が高かったらしいので、舞は頑張ったのだろう。
そして、あの二人はたぶん、似合いのカップルなのだろう。
舞は口はあぁだが、一応美人なのだから。
橋元の方は同じクラスだが顔を忘れたので知らないが。
「はぁ……」
もう一度、ため息をついて玄関に向かう。
「どうか、匂いがひどくなりませんように」
ボソッと言って外に出た。
学校まで歩いていく。
匂い対策は一応しておいたから、今のところ匂いについては大丈夫だ。
さっきから道行く女子の学生の片方の手には、かわいらしい包みが握られているが。
あんなのの本当にどこがいいのだろう。
西洋のバレンタインでは恋人たちがゆっくりと過ごす日らしい。
なんで、日本はチョコレートなのだろうか、欧米の文化を取り入れるのならば、そのまま取り入れるべきだ。
誰だ、勝手にバレンタインをチョコレートにしたやつ、一生、呪ってやる。
そうこう考えている内に学校につく。
「う゛」
下駄箱に近づいた瞬間、匂い対策を貫通させる匂いがやってきた。
誰だよ、下駄箱に入れたやつ、汚ない。
相手も、持って帰るの大変なんだから、面と向かって渡すべきだと思う。
玉砕するなら、勝手にしてろ。
とにかく、私は臭いのが嫌いだ。
階段を駆け上がっていく。
すれ違い様、もの凄い速さで駆け降りる奴がいた。
あぁ~大変だ。
クラス前の廊下にはなんか人だかりがいた。
「……君いないね~」
「逃げられちゃったか~」
「机にでも置いておく?」
お前ら邪魔だ。どけ。
それに、大勢いるせいか、臭い。
「……う゛」
「あっすみません! いますぐどきますね!」
余りにの臭さに、思わず声を出すと、前にいた子たちが道を開けてくれたので、教室に入る。
とたん、悪臭が強まる。
臭い。
なんで今日に限って、鼻づまりが治ってしまっているのか、本当に運がない。
「やっほー里菜ハッピーバレンタイン♪」
「その、ハロウィンのノリはなんだ」
近づいてくる舞を一刀両断に切り伏せる。
「もう、つれないなぁ~はい、これ友…「チョコレートはいらない」カップケーキだよ」
そういう言葉と共に手渡された、ラッピングされていないカップケーキ。
つまり、ここで食べろということ?
「がんばって作ったんだよ~食べて食べて」
仕方ない。食べるか。
匂い対策の物を取ると、周りの悪臭が鼻の中に漂ってきた。
「……う゛」
臭い。
真面目につらい。
ん? でもこの臭い。
まさか、舞『頑張ったの』って。
鼻の息を最大限止めつつ、両手を使いカップケーキを二つに割る。
見た目は私でも食べられるプレーンのカップケーキ。
だが中身は………。
「チョコレートソースを中にいれる馬鹿がいるかぁぁぁ! ゲホッ」
悪臭が鼻の中になだれ込み、思わず咳込む。
そして臭いを遠ざけようと、割ったカップケーキをほうりなげる。
「あぁぁぁぁっ!」
舞が悲鳴を上げるが気にしない。
あの悪臭をいれる馬鹿が悪いのだ。
鼻を手で抑えながら、慌てて臭い対策を装着していると舞の悲鳴が聞こえた。
「一君! 危ない~!」
見ると舞の彼氏、橋元一に向けてカップケーキが飛んで行っている。
あのまま、制服が汚れれば良いのにと思ったが。
橋元は華麗に割ったカップケーキを二つ、手で掴んだ。
そして、食べる。
「あぁ~っ! 里奈の分なのに! 一君!」
舞は地団駄を踏んでいるが、私は心から橋元に感謝をした。
橋元はニヤリとキザに笑うと舞を抱き寄せた。
そして、耳元で囁く。
「これでチャラだよ? 舞?」
「う………うん」
ため息を吐く。
リア充はリア充してる所を人前で見せないで下さい。
嫉妬じゃなくて、見ているこっちが気持ち悪い。
「………う゛」
悪臭が口から鼻へ通る。
なぜチョコレートは存在するのだろうか。
気分が憂鬱だ。
まぁ、後で舞に土下座でもさせておけば少しは気も紛れるか。
▲▽▲
昼休みになった。
一緒に食べようと言う舞を差し置いて、私は部活の先輩の所に会いに行った。
結果。
天使だった。
真面目に天使だった。
「あの、これ…」
「ジャムね。まぁ、ありがとう」
にこにこと微笑む先輩。
笑顔。
マジ天使。
これでこそ時間を浪費した結果があるもんだ。
先輩は微笑みつつ、小袋を私に手渡した。
「これ、お返しね、いつもありがとう」
「は、はい!」
先輩マジ天使。
中身はクッキーだった。
プレーンの!
先輩にもう一度、礼を言い。
私は教室に戻る為近くの階段を降りはじめた。
………が。
歩みを止めた。
通路で人が座り込んでいる。
誰だ? 汚い。
それになんか臭いし。
でも、これじゃあ通りにくいしなぁ。
一度ため息をついた。
……………………………………………………………………………………………………………………………
バレンタインは最悪だ。
主に肉体的に。
この時ばかりは自分の顔を呪いたくなる。
そんな類のことを、タメの一に話したら、鼻で笑われた。
「去年は僕も大変だったけどね~、今年は舞がいるから、さ」
「………」
一瞬、こいつの首を絞めたくなったのは間違いではない。
「まぁ、悠紀も大変だよね。去年は上級生のお姉様方に殺されそうになったじゃないか」
「あぁ。あれか」
去年のバレンタインを思い出す。
確か、上級生の女子に囲まれて。
…………死にかけた。
あれは本当に死にかけた。
「まぁ、藤咲さんが来なかったら死んでいたね」
藤咲里菜。
こいつの彼女の親友。
「本当にあれは助かった」
「『すみません、悪臭がするのでどいて下さい』だっけ? むっちゃ笑えた~」
「で、上級生が道を開けた瞬間に逃げていったよな~」
あれがなければ、俺は今頃本当に精神科行きだった。
今でも思い出したらゾッとする。
しばらく、歩いていくと学校の校門が見えてきた。
なんか、いつもと様子が違う。
本能が警鐘を鳴らしている。
自分の顔が強張るのが一瞬でわかった。
これは去年の時と同じだ。
「さぁ悠紀。筋肉痛に耐えながら逃げ続けるが良い! ハッピーバレンタイン!」
「悠紀君?」
「神崎先輩?」
「神崎君だ!」
「……っ痛ぁ!」
ふざけて、手を大きく広げる一にひじ鉄を喰らわせてから、俺は魔の手から逃げるために走り始めた。
▲▽▲
~♪
「………っ間に合った」
なんとか、朝の魔の手から逃れ、ホームルームギリギリに間に合う。
「……桐村、モテる奴も大変だな」
息を切らしながら教室に入るとなぜか担任に憐れみの目を向けられた。
「だったら、先生その顔くださいよ……」
「さすがにそれは無理だな」
担任にアッサリと言われた。
まぁ、その後。
なんなくホームルームは終わり、また、地獄が始まる。
でも、俺はここで逃げると言う馬鹿なことはしない。
なぜかというと、昼休み……本当の地獄に向けて体力を温存しないといけないからだ。
「悠紀~大丈夫だったか?」
後ろの一が話しかけてきた。
「あぁ、お前は?」
「おかげさまで傷一つ負いませんでした♪」
「うぜぇ」
「あ、紙袋足りる?」
話を変えるな。
「あぁ。まぁ一応用意はしといた」
行くのも地獄。
帰るのも地獄。
本当に、こんな日のどこが良いのだろう。
「そういえば、呼び出しはどの位?」
「今のところ三つ。だがそのうち二つ場所が一緒だ」
「それは……修羅場だね」
ちなみに、俺の周りでは一つ上の上級生の女子がうろうろしている。が、俺達が会話をしているので話しかけるタイミングが掴めていない。
「で、いくのかい?」
「出来れば、な」
そうしないと俺の評価が悪くなる。
だが、あの地獄から抜け出るのもつらい。
「あれ、舞が藤咲さんに土下座されている」
一の指差した方を見るとその通りの状況が起きていた。
さすがに可哀相に思えたので一応言っておく。
「……助けなくていいのか?」
「いいや、大丈夫だよ。藤咲さんは舞を大切にしているからね」
あっけらかんと言う一に軽く呆れた。
「……それに、あの舞の表情が……」
「………」
一は危険人物決定だな。
~♪
気がつくと、机には教科書が置いてあったはずなのに、ラッピングで埋め尽くされていた。
「…………はぁ」
本当になんでこんな日があるんだ。
▲▽▲
地獄が始まった。
普段の部活で行うランニングの倍は走らされている気がする。
ったく、なんで女子はこうもかれも襲い掛かるようにチョコを渡そうとするんだ。
チョコを渡したいなら呼び出すか机に置け。
あ、でも。呼び出しは嫌だが。
さっきも修羅場になったし。
まぁ、チョコは作ってくれてありがとう、と言って、どっちとも貰って、後から起こる面倒なことからは逃げたが。
誰だ、バレンタインを女子が男子にチョコレート渡すって決めた奴。
おかげさまで明日は筋肉痛だ。
日本政府もどうにかしろ、西洋では恋人と暮らすっていうじゃねぇか。
変な風に捩じ曲げるな。
そこまで考えに至った時、ふと周りが静かなのに気づく。
「…………はぁ…はぁ」
息が荒い。
走りすぎたか。
ここは五階と四階の間の階段。
やみくもに走っていたから余り覚えていないが、まず、三階の教室から始まり、下駄箱の辺りを通り、修羅場となった屋上に行き、次の呼び出しの体育館へ行ったはず。
で、今、俺はここにいるんだから…。
頭が痛くなった。
そのままズルズルと階段に壁を背にして座る。
疲れた。
……………………………………………………………………………………………………………………………
「そこの、誰か。生きてる?」
藤咲里菜はそう、目の前の人、桐村悠斗に向かって言った。
言っておくが桐村悠斗は運動神経と容姿が良いことで学校の有名人である。
知らない人はいない…と言いたいが、この藤咲里菜は興味が無いことは覚えようとしない。
無論、同じクラスメイトである桐村悠斗の事も例外ではない。
さて、桐村悠斗である。
こちらは、勿論、藤咲里菜の事を知っている。
なので、さっきの発言に軽く呆然としつつ。
「………藤咲だよな?」
と言った。
「………!?」
藤咲里菜は目を丸くしている、驚いたのだ。
藤咲里菜にとっては正しい反応だろう。
知らない人が自分の苗字を知っているのだから。
ただ、桐村悠斗が有名人だと言うことを忘れてはいけない。
まぁ、藤咲里菜はすぐに動揺を落ち着かせた。
今はさっさと教室に帰る事の方が優先だと。
「ゴメン、どいてくれる?」
「……あ、あぁ。ごめんな、藤咲」
桐村悠斗が立ち上がり、これ幸いと藤咲里菜は立ち去ろうとした。
だが、それは、上手く行かなかった。
「あ、桐村君だ!」
「桐村先輩!」
「悠斗君!」
容姿が良いことで有名な桐村悠斗が、彼にご執心な女子に見つかるのは珍しくないのである。
しかも不幸な事に挟み打ちであった。
ついに、捕まってしまったのである。
桐村悠斗がなんとか逃げ出そうと、
「わかった、わかったから」
と言う声もキャーキャー騒ぐ女子共には聞こえない。
「…………」
そんな中で、藤咲里菜は不満を募らせていた。
そりゃあ当然である。
やっと教室に帰れると思った矢先にいきなり人がなだれ込むのだから。
それに、不幸なことに臭い対策はもみ合いの中でとれてしまった。
そのため、チョコレートの臭いが直接やって来る。
藤咲里菜にとってこれ程怒りを感じる物はない。
また、もう一つ藤咲里菜の怒りを増幅させた物がある。
藤咲里菜の部活の先輩から貰ったクッキーである。
藤咲里菜は先輩のことを日頃から尊敬し憧れている。
また、藤咲里菜のことを配慮して、プレーンのクッキーを作ってくれたことにすごく感謝をしている。
そのクッキーがたった今割れたのである。
これ以上、藤咲里菜の憤りを止められる物はいるか?
いや、いない。
そう勝手に答を導きだした藤咲里菜はゆらりと人ごみを抜け出し、桐村悠斗の胸倉を掴んだ。
……………………………………………………………………………………………………………………………
「桐村、だっけ?」
私は目の前の桐村って言う人の胸倉を掴んでいる。
桐村っていうのは、キャーキャー言う豚から聞こえた。
シンと、静まる階段。
チョコレートの臭いが充満していて臭い。
なんで人がいきなりなだれ込んできて、臭い対策がとれるんだ。
マスクと鼻栓。
どちらもないと私は辛いのに。
「………お、おい。藤咲?」
「うっさい喋るな、ったく、元々はあんたが階段に座り込んだせいで無関係の私が被害を被ったんだろが?」
「………」
ニコニコと笑いながら桐村って言う人の胸倉を掴む。
桐村って言う人は黙ってくれた。
うん。よろしい。
「桐村君になにするの!」
上級生らしき豚が声を上げた。
「そうよ、そうよ、ね」
「あんな女に何がわかるんだよー」
そうですか、そうですか?
もう一度笑みを浮かべ、周りの豚を見渡す。
よく、どっかの物語である感じだ。
「あのさ、そもそも私が怒った理由わかってます?」
口を開こうとする豚を先越すため、私はすぐに口を開いた。
「学校の階段や廊下は生徒が通る場所です。そもそもそれを塞ぐなんて言語道断。しかも、あなたたちは押し合いへし合いしているお陰でなんとか通ろうとした生徒はもみくちゃにされる。あぁ、ついでにあなたたちは校内走っていましたよね、校内は走ってはいけませんよ。で、そんな学校の規則でさえ、いや、社会のルールでさえ、まともにできてないあなたたちが被害者の私に歯向かう権利はありませんよ?」
スラスラと口が動くままに動かして、にっこりと笑ってしめる。
今はこの男のせいで盲目になった人達だから、まぁ男にも責任はあるか。
「…………」
「何か文句でも?」
下級生らしき豚が進み出てきた。
「えっと………その………桐村先輩が、逃げてしまうから追いかけていたんです」
「…………」
なるほど。
ならば。
下級生の腕を掴み、引っ張っていく。
「…………ひっ!」
軽く悲鳴をあげたのを無視して、桐村って言う人の前に立たせる。
「さ、渡しなさい」
「……えっ…………?」
「渡したら?」
「あ、はい…………」
下級生が桐村って言う人の方を向く。
心なしか桐村って言う人の背筋が伸びた気がする。
下級生は、顔を一気に赤くさせると無言で、ラッピングした箱をつきだした。
…………端から見ると、うん。この子何気に可愛い。
思わず微笑む。
言っておくが私は断じて百合とかそういう趣味ではない。
ただ、可愛い女の子が好きなだけなのだ。
それ以外にはあまり興味がないだけで。
あ、じゃあ。
目を流し、桐村って言う人に、女の子のチョコレートをとるよう促す。
「……あ、ありがとう」
女の子から桐村って言う人にチョコレートが手渡される。
お礼を言われた女の子は頬を真っ赤に染めている。
……うん。可愛い。
さて、私の日々の安寧のため少しやりますか。
手をパンパンと叩き、目線をこちらに集中させる。
「ま、二列に並んでこんな感じで渡してください。次の人もいることにはいるんでさくっと手渡してくださいね」
私の言葉にその場にいた豚………いや、女子たちが動き出した。
それを見て私はにっこりと微笑んできびすを返した。
「………う゛」
やっぱりチョコレートは臭い。
……………………………………………………………………………………………………………………………
「あれ~? 帰ってきた~!」
「臭い」
「顔見るなりそれ~? で、なにがあったの? すごく疲れた顔しているけど?」
「……先輩のバレンタインをぐしゃぐしゃにされた」
「……それって里菜が大好……尊敬している先輩?」
「ん……ついでに匂い対策もとれてしまった、まぁその代わり可愛い子見つけられたからいいけど」
「里菜って変わっているよね~」
「どこが」
「私には一がいるけど、もっといい人近くにいるのにな~」
「興味がない物は興味がない、今は可愛い女を見て和むのみ」
「百合にはならないでね」
「なるわけない。あくまで芸能人のファンになる感覚と一緒」
「さっさと終わって欲しいのに~」
「何が」
「ふふ♪」
……………………………………………………………………………………………………………………………
「お! お疲れ」
「あぁ…………」
「だいぶ、お疲れのようだね」
「また今年も藤崎に助けられた」
「向こうは覚えていないと思うけどね」
「そういえば向こうは俺の名前覚えていなかったな。同じクラスのはずなんだが」
「あぁ、舞が言うことには藤崎さんは全く興味がないことは覚えないらしいよ」
「俺には興味がないっていうのか」
「おや? 興味を持って欲しいのかい?」
「いや、学校で俺のことを知らない人はいないからちょっと新鮮な気分だ」
「…………自分の気持ちに鈍感なやつめ」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、いつか悠斗が彼女持ったらどうなるかな~って」
「バレンタインの地獄から逃れられるならいい」
「…………はぁ」
ちょっと書き方をたくさん変えて試してみました!




